W杯ロシア大会グループGで2連勝し、決勝トーナメント進出を決めたイングランド代表。4年前のW杯ブラジル大会では1勝も挙げられずにグループステージ最下位で敗退しただけに、今大会は上々のスタートを切った。とくに今大会は、強豪国がグループス…

 W杯ロシア大会グループGで2連勝し、決勝トーナメント進出を決めたイングランド代表。4年前のW杯ブラジル大会では1勝も挙げられずにグループステージ最下位で敗退しただけに、今大会は上々のスタートを切った。とくに今大会は、強豪国がグループステージで軒並み苦戦。その意味でも、早々と突破を決めた意義は大きい。



セットプレーから4ゴールを決めているハリー・ケイン

 ただし、ここには注釈がつく。初戦のチュニジア、2戦目のパナマとも、個人能力でいえばイングランドとの力の差は歴然としていた。

 とくに6−1の歴史的大勝に沸くことになったパナマ戦は力の差がありすぎて、イングランドの力を測る物差しにならなかった。縦パスやクロスボールを入れれば、空中戦と球際でことごとく勝利し、ほぼ決まってシュートチャンスにつながったからだ。

 むしろ、気になったのは初戦のチュニジア戦の出来である。前半こそ前方から圧力をかけて押し込んだが、チュニジアが4バックから5バックに切り替えた後半は、途端に攻撃が手詰まりになった。分厚い守備ブロックを前に、イングランドは味方の足もとにパスをつなぐばかり。3人以上の選手が連動して絡む攻撃は見られなかった。

 ここに、イングランドが抱える継続課題がある。

 イングランドの基本フォーメーションは3バックシステムの3−5−2。2トップにラヒーム・スターリングと得点源のハリー・ケインを入れ、左右両サイドにウィングバックを置く。

 攻撃の起点になるのは、このウィングバックだ。ウィングバックからスピードスターのスターリングに縦パスを入れたり、サイドを崩してアーリークロスを入れる。そして、昨季のプレミアリーグで年間30ゴールを叩き出したケインにラストパスを送るのが、基本的な攻撃パターンになる。

 しかし、相手が守備を固めてくると、途端に手詰まりになる。こうした一本調子な攻めはイングランドの課題であり、流動的なアタックで相手ゴールを崩し切ることは少ない。むしろ、前線の「個の力」に依存する傾向が強く、現代表もこの問題を解決できていないのだ。

 また、相手の出方によって臨機応変にシステムや攻め方を変える「対応力」にも乏しい。攻撃が停滞したチュニジア戦の後半は、こうしたウィークポイントが露呈された格好である。

 そんなイングランド代表に、チュニジア戦で勝利をもたらしたのはセットプレーだった。このセットプレーこそが、現時点でもっとも威力を発揮しているといっても過言ではない。

 過去にはデビッド・ベッカムやスティーブン・ジェラードら優れたプレースキッカーを擁したが、現代表に世界的名手と呼べるキッカーはいない。それよりもアイデアや空中戦の強さを生かして、ゴールを量産している。

 グループステージ第2戦までにイングランドが挙げた8ゴールの内、セットプレーによる得点は実に6ゴールにのぼる。内訳はCKが3ゴール、FKが1ゴール、PKが2ゴール。なかでも、2−1の接戦となったチュニジア戦で決めた2ゴールは、いずれもCKからケインがネットを揺らした。用意周到に準備してきたCKのパターンから、ケインが仕留めたのである。

 両得点ともキッカーは、ペナルティマーク付近をめがけてボールを入れた。競り合うのは、188cmのジョン・ストーンズや、194cmのハリー・マグワイアの長身DF。そして、ケインはこの空中戦に加わらず、ファーサイドに突進。セカンドボールやGKがこぼしたボールを狙う役割を担った。

 たしかに、1−1で迎えた後半アディショナルタイムにケインが挙げた決勝ゴールは、この形から生まれた。かくいう筆者も、「なぜケインがそこに?」と驚きを隠せなかった。

 ただ、英紙『タイムズ』によれば、7回あったCKのうち4回は、「PKスポット付近にボールを入れ→ファーサイドにつめたケインに渡す」流れだった。そのうちの2回がゴールになり、勝利につながったのだ。つまり、ケインの得点力を生かそうとする「チーム戦術」が功を奏した格好で、ケインがあえてファーサイドに動いたわけでも、感覚だけで決めたわけでもなかった。

 こうした成功の裏には、セットプレーを担当するコーチのアラン・ラッセル氏の存在がある。パナマ戦の4点目となったFKのトリックプレーも、このスコットランド人コーチの発案によってもたらされたという。ガレス・サウスゲート監督は「セットプレーは今大会のカギになると考えていた。同時に、改善が見込める要素であるとも感じていた」とし、セットプレーの練習に多くの時間を割いていると明かす。

 グループステージ2戦でセットプレーから4ゴールを挙げているケインも次のように語る。

「セットプレー担当のアラン(・ラッセル)とトレーニングを積んでいる。日々の練習の最後に必ず行なっているんだ。相手のDFとGKの特徴や、どこに弱点があるかを伝えてもらっている」

 イングランドと決勝トーナメント1回戦で対戦する可能性のある日本代表も、このセットプレーに注意が必要なのは間違いなさそうだ。

 開幕前、英国内では代表チームへの期待が非常に低かった。英紙『サンデー・タイムズ』で健筆を振るうジョナサン・ノースクロフト記者は、「W杯で優勝する可能性は極小」とまで言い切った。

 実際、黄金世代を擁した2006年ドイツ大会や2010年南アフリカ大会では、ロンドン市内のバーで試合を観戦しようものなら入場料を取られたものだが、今大会ではほとんどのパブで入場料なしで観戦できる。黄金世代時のW杯にあったような、国をあげての異常な盛り上がりは今のところ感じられない。

 ただ、勝負はここからだろう。グループステージ第2戦までは格下との対戦が続いた。その意味でも、イングランドの真価が問われるのは決勝トーナメントからである。強豪国との対戦時に、もろさの目立つ守備陣がどこまで踏ん張れるか。あるいは、平均年齢25.6歳の若いチームが大会を通してどこまで成長できるか。

 このあたりが、イングランドの最終順位を決めそうだ。