ドイツもまた、”王者の呪い”から逃れることはできなかった。56年ぶりのW杯連覇を目指してロシアに乗り込んだドイツは1勝2敗、グループF最下位で大会から姿を消すことになった。 前回大会王者がグループリーグで敗退す…

 ドイツもまた、”王者の呪い”から逃れることはできなかった。56年ぶりのW杯連覇を目指してロシアに乗り込んだドイツは1勝2敗、グループF最下位で大会から姿を消すことになった。

 前回大会王者がグループリーグで敗退するのは、2002年フランス、2010年イタリア、2014年スペインに続き、直近の5大会で4チーム目。なぜW杯4回の優勝を誇る強豪国は、同国史上初のグループリーグ敗退を喫することになったのか。



韓国に敗れ、呆然とピッチにたたずむメスト・エジル

 今回の敗退を、ひとつの理由に求めることはできないだろう。特定の選手のパフォーマンスだけが原因となることなどは、ありえない。さまざまな要因が少しずつチームの歯車を狂わせ、結果的にチームは機能しなくなってしまった。ただ、ヨアヒム・レーヴ監督の「理想主義」という観点から、敗退を読み解くことはできる。

 予兆は大会前からあった。

 大会直前に行なわれたテストマッチで、オーストリアに1-2で敗戦。ベストメンバーで臨んだサウジアラビア戦は2-1で勝ったものの、内容はおよそ褒められるようなものではなかった。簡単なミスでボールを失っては何度も危険なカウンターに晒(さら)され、マッツ・フンメルス、ジェローム・ボアテングというワールドクラスのCBコンビの奮闘で、何とか耐えていたからだ。

 ボールロストを減らし、ボールを失った場合に備えて適切な陣形を保ち、ボールを奪われれば必死に追いかけなければならないという警鐘は、選手からもメディアからも鳴らされていた。ただし、これはテストマッチゆえの緩みであり、本番になれば改善されるだろうと誰もが信じていた。

 しかし、残念ながらメキシコとの初戦でも同じ光景が繰り返された。序盤から何度もボールを奪われてはカウンターをくらい、そのうちのひとつが致命傷になってしまった。

「今日の僕らはあまりにも簡単だった。僕らはサウジアラビア戦のようにプレーし、相手は(サウジアラビアよりも)いいチームだった。不用意なボールロストやリスクマネージメントについてはチームで話をしていたが、改善されていなかった」

 メキシコ戦後のフンメルスの言葉は、危機管理意識の低いチームに対する悲痛な叫びとして響いた。

 続くスウェーデン戦は2-1で劇的な勝利を飾ったものの、根本的な問題解決には至らず、トニ・クロースのボールロストから先制点を許した。韓国戦でも終盤は焦りから攻撃が雑になり、何度も危険な場面を迎えることになった。先制点につながるCKもクロースのパスを中盤でカットされたところから始まっている。結局、今大会のドイツは最後までこの問題を解決することができなかった。

 多くのカウンターを許すということは、攻撃が行き詰まっていることの裏返しでもある。ただ、ドイツもまったくチャンスをつくれなかったわけではない。どれかひとつでもモノにできていれば、決勝トーナメントに進出することはできていただろう。しかし、それ以上はなかったはずだ。守護神マヌエル・ノイアーは「ラウンド16では誰もが僕らと対戦したかっただろう」と語っている。

 ドイツにとってもっとも問題だったのは、うまくいっていない戦い方を最後までやり通そうとしたことだろう。もっといえば、自らのスタイルにこだわったことにある。つまりパスサッカーだ。

 その兆候はレーヴ監督の言動からも明らかだった。レーヴ監督は大会前、ドイツ紙『WAZ』(ヴァッツ)に対して、こう語っていた。

「ドイツは過去の大会で、比較的いつも成功を収めてきました。しかし、2000年や2004年のユーロでドイツが見せたようなスタイルは、私を含めて多くのファンには気に入りませんでした。それは残念なことです。

 当時、私はユルゲン・クリンスマン前ドイツ代表監督に、『我々はまた、我々自身のサッカーをしなければならない』と進言しました。なぜなら、走る、戦う、スライディングするといったことは、小さな国にもできるからです。もちろんそれらは重要ですが、それだけではいけません。そうしたスタイルで再び頂点に立つことはないでしょう。ドイツの美徳は、プレースタイルに含まれていなければなりません」

 そんなレーヴ監督の志向は、選手選考にも反映されていた。レロイ・サネの落選はそれを象徴している。マンチェスター・シティで納得のシーズンを送った快速ウインガーの代表メンバー落ちは、ドイツだけでなく、世界を驚かせた。

 代わりに選出されたユリアン・ブラントも大きな才能の持ち主で、コンビネーションプレーを得意とするという意味で、チームにフィットする。しかし、アタッカーは似たようなタイプの選手ばかりになり、攻撃陣が機能不全に陥ったとき、別の形を用意することができなかった。

 サンドロ・ワグナーの落選も、レーヴ監督の考えを色濃く反映している。ワグナーは落選後、「僕は正直に口にするタイプ。どうもドイツ代表の指導者陣とはうまく合っていなかったようだ」と、自らの自己主張の強さが落選の要因であることを匂わせた。

 フィリップ・ラームやバスティアン・シュバインシュタイガーの引退後、ドイツ代表はリーダー不在が叫ばれていた。レーヴ監督はそのような批判に対し、「選手たちはそれぞれ自己主張ができる」と反論していたが、結果的に今回のメンバーの中に、自らの言動でチームの雰囲気を変えられる選手はいなかった。

 近年は美しいパスサッカーが代名詞になったドイツ代表だが、4年前のブラジルW杯での戦いは現実主義に徹したものだった。グループリーグでは4枚のCBを最終ラインに並べ、スタイルにこだわらず勝負に徹することで頂点に立った。

 ロシアで連覇を狙ったレーヴ監督は、自らの理想とするスタイルでそれを成し遂げようとした。誰もがドイツをその王座から引きずり降ろそうと研究し、対策を練ってくるなかで、自らのスタイルにこだわるドイツの戦いは、あまりにも愚直で、傲慢とさえいえるものだった。