「レバンドフスキに気をつけろ!」 ロシアW杯開幕前、日本ではポーランド戦に向けて、ひたすらそのフレーズが繰り返されていた。 バイエルンに所属するロベルト・レバンドフスキは、大柄な体躯を生かした抜群のキープ力と卓越したボールコントロール、…

「レバンドフスキに気をつけろ!」

 ロシアW杯開幕前、日本ではポーランド戦に向けて、ひたすらそのフレーズが繰り返されていた。

 バイエルンに所属するロベルト・レバンドフスキは、大柄な体躯を生かした抜群のキープ力と卓越したボールコントロール、それにシュートの強靭さと精度で「世界屈指のストライカー」として名を鳴らす。昨シーズンは、3度目となるブンデスリーガ得点王にも輝いている。現在、クリスティアーノ・ロナウドの次に位置するストライカーかもしれない。

 しかしながら、日本戦のピッチに立ったレバンドフスキは別人に近かった。



柴崎岳のチェックを受けるロベルト・レバンドフスキ(ポーランド)

「ポーランド国民に勝利で喜びを与える必要があった」

 アダム・ナバウカ監督は、日本戦後にそう語っている。ロシアW杯でポーランドはセネガル、コロンビアに連敗し、早々に”終戦”。FIFAランキング8位のチームとして、意地だけは見せたかった。

「日本との3戦目は、我々が最後まで戦い抜くチームであることを証明するために、とても重要になった。2試合を終えた段階で、チームは厳しい批判を浴びている。しかしそれによって、チームの士気は非常に高かった」

 ナバウカ監督は、一丸となってつかんだ勝利だったことを強調している。しかし一方、選手たちは失意の表情を浮かべていた。

「我々はこの大会で最悪のチームのひとつだった」

 モナコでプレーするDFのカミル・グリクは、そう証言している。

 ポーランドは、W杯欧州予選で大暴れした右サイドのウカシュ・ピシュチェク、ヤクブ・ブワシュチコフスキの2人がフィットしていなかった。また、グリクのパートナーも見つからず、GKヴォイチェフ・シュチェスニーは所属クラブのユベントスで出場機会を得られない試合勘の鈍さが出て、守備に不安を抱えていた。それが、2試合で1得点5失点という結果に現れてしまった。

「大会前からチームは問題を抱えていた」

 レバンドフスキは洩らしているが、セネガル戦を取りこぼしたことによって、問題がネガティブな形で露出したのだろう。短期決戦の怖さだ。

 日本戦ではレバンドフスキ自身が一番、虚(うつ)ろだった。誇りをかけて戦う。わかってはいても、タイトルを勝ち取って大金を稼ぐプロフェッショナルとして戦うトッププレーヤーにとって、そのスイッチは入りにくい。

「レバンドフスキに関しては、第2戦を終えてスタメンを言い渡されてから、ブンデスリーガでのプレー集などを見て、研究して臨みました。自分のところにくる感じだったのですが、彼を自由にさせていない。その手応えはあって、いいチャレンジができました」

 ポーランド戦後、槙野智章はその印象を語っている。槙野は健闘していたし、その感想はひとつの真実だろう。ただ、本来のレバンドフスキはもっと力強く、速く、うまいストライカーだ。

「(レバンドフスキだからといって)特に変えていません。(今日の)レバンドフスキはプレーの中では孤立していましたね。ほとんど怖さはなかったです」

 吉田麻也は試合後にそう明かしているが、こちらの方が実像に近い。

「もちろん、後半のカウンターの場面とか、ここぞというときに出すエネルギーはすごかったです。でも、全体的にはやる気がなかったというか。バイエルンでやっているときとは違ったと思います」

 事実、ゴールマシンのような男がシュートの形までろくにもっていけていない。吉田が言うように、カウンターからポストに入り、決定機を演出したプレーには片鱗が出ていた。それでも、本来の出来には程遠かった。

 結局のところ、ポーランドは絶対的なエースであるレバンドフスキが沈黙したとき、特色の薄いチームになっていた。セットプレーの高さを生かしてヤン・ベドナレクが得点を決め、どうにか勝利を飾ったものの、プレー内容は凡庸だった。サイドが機能せず、守備に不安を抱え、ほとんど力を出し切れなかった。

 もし、日本がコロンビア戦、セネガル戦と同じ先発メンバーを用いていたら――。この日のポーランドならば、互角以上の戦いができていたのではないだろうか。

「我々は満足にゴールチャンスを作ることができていない。そのなかで、私にできることは乏しかった。我々はとても弱かったということだ」

 日本を相手に誇りを守る勝利を収めた後も、レバンドフスキはほとんど自虐的にそう振り返っている。