「まず、西野朗監督に祝辞を送りたい。これだけ短期間で、よく選手のキャラクターが出るチームを準備した。セネガル戦で最も偉大なプレーを見せたのは、長谷部誠と柴崎岳だった。もうひとり名前を挙げるなら、大迫勇也か」 セネガル戦に2-2で引き分け…

「まず、西野朗監督に祝辞を送りたい。これだけ短期間で、よく選手のキャラクターが出るチームを準備した。セネガル戦で最も偉大なプレーを見せたのは、長谷部誠と柴崎岳だった。もうひとり名前を挙げるなら、大迫勇也か」

 セネガル戦に2-2で引き分けた日本代表について、ミケル・エチャリはそう言って高い評価を下している。



セネガル戦、有効なパスで中盤を安定させていた柴崎岳

 エチャリはジョゼップ・グアルディオラやウナイ・エメリからも高く評価されている、スペインを代表する指導者のひとり。長らく日本代表を見続けており、南アフリカW杯のときには「阿部勇樹のアンカー起用」を推薦し、ブラジルW杯では「日本は攻撃偏重」と警鐘を鳴らすなど、千里眼でも持っているかのように、スカウティングリポートで予測を的中させてきた。

 そして今大会前には、世間では評価が低かった西野ジャパンについて「サプライズになる」と、大胆に予想していた。

「セネガル戦は引き分けが妥当だった、とも言える。しかし、もし勝者がいたとしたら、それは日本だった。失点はどちらもミスが重なったもので、それ以外の出来がよかっただけに悔やまれる」

 エチャリはセネガル戦をどのように読み取ったのか?

「日本は4-2-3-1でスタートしている。コロンビア戦と同じメンバーだ。戦略的には、立ち上がりで高いプレー強度を示し、イニシアチブを取る必要があったはずだが、主導権を握ったのはセネガルだった。

 4-3-3で挑んだセネガルは、強力なフィジカルを武器に、受け身に立った日本を押し込んだ。とりわけ、センターフォワードのエムバイエ・ニアンが昌子源をじわじわと押し下げ、右サイドのイスマイラ・サールのスピードも脅威になった。

 日本は慎重すぎて後手に回ったといえるだろう。ただ、理解できるのは、4-3-3で前に比重をおいて展開された場合、攻撃を受ける側は守備面で不利に陥りやすい。ボランチが下がってビルドアップするか、トップ下やFWが中盤に落ちてサポートするか、ポジション的劣勢を、人を動かして覆す必要があるのだ。

 ただ、それをする前に日本は被弾することになった。左サイドを連携とスピードで崩され、クロスをファーに送られる。原口元気がペナルティエリアまで帰陣し、堅実にポジションを取っていた点は評価すべきだが、正しい判断ができていない。バックヘッドで流すという選択のミスで、ボールを相手に渡してしまった。それをシュートまで持ち込まれ、GK川島永嗣は中途半端なパンチングで正面にいたサディオ・マネに当て、失点している。ふたつの判断ミスが続いた」

 エチャリの指摘はいつも端的だ。

「先制された後は、日本のペースになった。日本は長谷部がチームを動かす。プレスをはめられそうになっても、バックラインまで下がって起点を作っていた。同時に、中盤で柴崎、香川真司の連係が生まれる。さらに、大迫がバックラインの裏を狙うばかりではなく、中盤まで下がることでプレーメイクに参加。チーム全体の動きは格段によくなった。

 34分の同点ゴールはひとつの帰結だった。昌子、吉田麻也、長谷部、香川とボールがスムーズに回り、柴崎が左サイドを駆け上がった長友佑都に展開。長友がペナルティエリア内にボールを運んだところ、乾が入れ替わって、右足の巻くようなシュートをファーサイドに打ち込んだ。たくさんの選手が絡み、ボールを動かし、ポジションを動かしていた。すばらしいコンビネーションゴールだったといえる。

 後半も日本は優勢に戦っている。吉田麻也が安易にCKにしてしまったり、昌子がセネガルの強力フィジカルに手こずったり、長友の攻め上がりのタイミングが明らかに早すぎたり、気になる点はいくつかあった。しかし、選手は地力を見せている。

 特筆すべきは大迫だろう。この日、ヘディングシュートは弱く、決定機も空振りしている。しかしコンビネーションの高さを見せ、”もう1枚のMF”として香川と近い距離でプレーし、チームとしての厚みを増していた。チャンスメーカーとして、乾のクロスバーに当てるシュートを誘発したヒールパスも質が高かった」

 しかし、日本は追加点をものにできなかったことで、71分には再び逆転されてしまう。

「隙を突かれる形で、ペナルティエリア右までボールを運ばれる。これに柴崎が対峙するが、守備の強度が弱かった。相手を離し、フリーでクロスを折り返されてしまう。そして左の乾の帰陣がわずかに遅れていた。これで狙いすまされた一撃を決められてしまった。ペナルティエリアでの連続したミスは、失点に結びつく。

 しかし、日本はここから反撃に出る。本田圭佑、岡崎慎司を投入し、4-4-2に布陣を変えて、再びプレーが活発になった。岡崎は大迫とツートップを組み、巧みにスペースを与えている。また、試合終盤とは思えない力強さで柴崎がパーソナリティを見せた。バックラインでは昌子も高い位置でプレーし、積極的なフィードを送っている。

 78分に攻撃が実を結ぶ。セネガルを押し込むと、大迫が右から早めに上げたクロスに中央で岡崎が潰れ、ファーまで流れたボールを乾が拾う。乾はゴールライン近くからボールを中央に送り、再び岡崎が潰れる。その裏で待っていた本田は、冷静に左足で叩き込んだ」

 日本は2-2の同点に追いついた。勝点1は成果というべきだろう。

「長谷部は戦術的に欠かせない選手であることを、あらためて証明した。柴崎は有効なパスが多く、ポジション的優位を味方に与え、終盤の厳しい状況でパーソナリティを見せている。この2人によって中盤が安定したことが、セネガル戦の勝利につながった」

 エチャリはそう試合を総括し、グループリーグ最終節のポーランド戦に向けた展望を語っている。

「ポーランド戦では、山口蛍も入れた4-1-4-1も選択肢に入れるべきかもしれない。好材料としては、岡崎が交代選手としてチームに強度を入れていた点だろう。彼の戦術的な質の高さはチームに力を与えている。日本がチームとしていい戦いをしているのは間違いない。ポーランド戦も幸運を祈る」