今大会初のスコアレスドローは、極めて退屈な、ある意味でワールドカップのグループリーグらしい試合だった。 グループCの第3戦、勝ち点6で首位のフランスと、勝ち点4で同2位のデンマークとの対戦は、0-0の引き分けに終わった。これといった見…
今大会初のスコアレスドローは、極めて退屈な、ある意味でワールドカップのグループリーグらしい試合だった。
グループCの第3戦、勝ち点6で首位のフランスと、勝ち点4で同2位のデンマークとの対戦は、0-0の引き分けに終わった。これといった見せ場もないまま、ともに勝ち点1ずつを加え、そろってグループリーグ突破である。
凡戦の理由を突き詰めて考えれば、その責任がデンマークにあるのは間違いないだろう。なぜなら、この試合をどんな試合にするかの”選択権が与えられていた”のは、デンマークのほうだったからだ。
この試合、デンマークは引き分け以上で自力でのグループリーグ突破を決められたが、結果次第で通過順位は変わっていた。勝って勝ち点3を加えられれば、フランスを抜いて首位通過。引き分けの場合は、2位通過である。
ただし、あまり勝ちにこだわりすぎて逆に敗れるようなことがあれば、同グループのもうひとつの試合でオーストラリアがペルーを破った場合、オーストラリアに勝ち点で並ばれ、得失点差次第ではグループリーグ敗退の可能性も生まれてくる。
では、デンマークはどうすることを選んだか。オーゲ・ハレイデ監督が語る。
「この大会が目標であり、決勝トーナメント進出が目標だった。決勝トーナメントへ進むためには、1ポイント(勝ち点1)が必要だった」
つまりは、引き分け狙いである。フランスにしても、デンマークが2位通過で納得してくれるのなら、そこに異論があろうはずはない。互いの思惑が一致した試合は、かくして予定調和の結末へと向かって進んでいった。
フランスのディディエ・デシャン監督は、試合終了を待たずしてスタンドから激しいブーイングを浴びた試合を振り返り、次のように語る。
「我々にとって、最も重要だったのは首位通過。引き分けで満足のデンマークがいい守備をしていたのだから、リスクを負う必要はなかった。勝とうとはしたが、最後15分間は”ニュートラル”な感じの試合になった」
対してデンマークのハレイデ監督もまた、「世界で最も優れたカウンターアタック巧者であるフランスを相手に、攻撃に出てスペースを与えるなんてバカげている」と語り、当然の選択をしたまでであることを強調した。
堅実な守備を誇るフランスがグループCを首位通過
グループリーグの最後に、今大会ワーストゲームを演じた両チーム。勝ち点1を分け合い、ともにそれぞれの目標を達成する結果となったが、この凡戦からより大きなメリットを享受したのは、ここからが本当の勝負となるフランスのほうだろう。
ワールドカップを制すためには、1カ月間で7試合を戦わなければならない。固定されたレギュラーメンバー11人だけで戦い抜くことは、ほとんど不可能だ。
その点、フランスは第2戦終了時点でグループリーグ突破が決まっていたため、「2試合に出ていた選手は次のために休ませ、(累積警告による出場停止を避けるため)イエローカードをもらっている3選手は外した」とデシャン監督。第2戦の先発メンバーのうち、DFラファエル・ヴァラン、MFエンゴロ・カンテ、FWアントワーヌ・グリーズマン、FWオリビエ・ジルーのセンターラインに加え、左サイドバックのDFリュカ・エルナンデスだけを残し、6名を入れ替えた。うち4名は今大会初出場の選手である。
もちろん、大幅に選手を入れ替えた結果、負けてしまっては元も子もない。だが、試合の緩さも手伝って、控えメンバーが大きなプレッシャーを感じることなくプレーでき、しかも首位通過に必要な引き分けという最低限の結果を手にできたのだから、理想的な形でグループリーグを締めくくれたと言えるだろう。
デシャン監督は「大会を勝ち進むために選手を入れ替えた。同じメンバーで3試合を戦ったチームよりもアドバンテージがある」と言い、「このグループは簡単ではなかったが、首位通過できた。謙虚に野心を持って戦いたい」と先を見据える。
率直に言えば、内容的に見てフランスのグループリーグでの戦いぶりは物足りなかった。
それでも、「初戦は十分ではなかったが、2戦目はずっとよくなった」と指揮官。苦戦しながらも勝利を重ねるうちに徐々に内容がよくなり、結果的に余裕を持って決勝トーナメントへ進む。その歩みは、いかにもワールドカップの優勝パターンにハマりつつあるように見える。それほど点が取れないながら守備が固く、失点が少ないのもトーナメント向きだ。
高いチケットを買ってスタジアムで観戦したファンには腹立たしいほどに退屈だった試合も、5大会ぶりの優勝を狙うフランスにとっては、おそらく完璧なまでのミッション・コンプリートである。