大きな期待を抱いて臨んだにもかかわらず、フランスGPはトロロッソ・ホンダにとって苦難の連続となった。「ストレートがすごく遅かったんだ。なぜだかはわからない。セクター1とセクター3はライバルと同等の速さがあったのに、ほとんどストレートで…

 大きな期待を抱いて臨んだにもかかわらず、フランスGPはトロロッソ・ホンダにとって苦難の連続となった。

「ストレートがすごく遅かったんだ。なぜだかはわからない。セクター1とセクター3はライバルと同等の速さがあったのに、ほとんどストレートで構成されているセクター2だけはすごく遅かったんだ。



クラッシュでフロントウイングが破損してしまったガスリー車

 2台のフェラーリの後ろを走っていて、彼らのトウを使ってさえいたのに、どうしてこんなに遅かったのか不思議だよ。ストレートでなぜこんなに速くなかったのか、その理由を究明する必要があるね」

 母国GPの予選を14位で終えたピエール・ガスリーは、やや不満げな表情でそう語った。前戦カナダGPでスペック2パワーユニットを投入し、出力アップの手応えを掴んでいただけに、28年ぶりの開催となったポール・リカールの長いバックストレートでのタイムロスは予想外だったのだ。

 そのガスリーのコメントが、パワーユニット批判であるかのように報じられもしたが、それはガスリーの本心ではなかった。

 金曜フリー走行は旧型スペック1で走行していい手応えを得ており、スペック2に載せ換えた土曜から、急にストレートが遅くなったとはいえ、原因がパワーユニットではなく、マシン全体のセッティングにあることは明らかだったからだ。

「昨日は旧スペックのパワーユニットを搭載していて、今朝から新スペックに換えたけど、カナダのときよりもストレートが遅かった。セッティングがうまくできていなかったのか何なのか、理由はまだよくわからない。ダウンフォースをつけすぎていたのか、その理由を探らないとね」

 疑わしいのは、風だった。南仏の地中海に近い標高425mの地点にあるポール・リカールは、常に強い風が吹く。問題は、その風向きが一定ではないことだ。

 バックストレートで向かい風を受ければ当然、空気抵抗は増えて車速は伸び悩む。コーナーでのダウンフォース量を優先してウイングを立てれば、その影響はさらに大きくなる。すると、コーナーの多いセクター1とセクター3は速くても、ストレート主体のセクター2は大幅に遅いということにもなる。

 通常のサーキットなら過去のデータという土台があるため、それを参考に精度の高いシミュレーションができる。しかし、実質初開催のポール・リカールではセッティングの善し悪しをはかる判断基準がなく、実際に走行して他車のタイムや最高速と比べながら、ラップタイムとバトルでの競争力のバランスを取っていかなければならない。ところが、いつも中位にいるトロロッソの最高速は下位に沈み、下にはマクラーレン勢しかいなかった。

 その点でいえば、土曜午前のフリー走行3回目が雨になり、十分な確認やセッティング調整ができないまま予選を迎えてしまったのも、トロロッソにとっては不運だった。

 ガスリーは、今回の地元レースに闘志を燃やしていた。しかし、スタート直後のターン3でフロントウイングを壊していたエステバン・オコン(フォースインディア)に前を塞がれ、クラッシュしてリタイア。ペナルティで最後尾スタートだったブレンドン・ハートレイは、雨を待ってピットロスを帳消しにするギャンブルが外れて14位に終わった。

 ウイリアムズの2台を抜くなど、決して競争力が低かったわけではないが、純粋なペースで上回っていたはずのマーカス・エリクソン(ザウバー)やストフェル・バンドーン(マクラーレン)に対してストレートで苦戦を強いられるなど、最高速不足の影響は否定できなかった。

「他のクルマと戦うことができなかった。今後のレースに向けて、ストレートスピードの見直しが必要だよ」

 チェッカーを受けた直後、ハートレイは無線でレースエンジニアにそうこぼしていた。そして、空力セットアップに問題があったことをハートレイは示唆している。

「ここは新しいサーキットだから、去年までのデータもなくて直接の比較ができないし、現時点で判断するのは難しいんだ。ストレートの最高速は、どれだけダウンフォースをつけていたか、どれだけ空力効率がいいかによって大きく違ってくるからね。でも(パワーユニットの)アップデートが正しい方向に向かっていることは確かだよ」

 カナダで一定の評価が与えられたスペック2に対して、ふたたびその評価が否定されることはないのか? そう聞くと、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、「それはない」と即答した。

「そういう議論にはなっていません。(アップデートの効果は)データ上でわかっていますから」

 そのうえで、チーム内ではセットアップの方向性を見定められないまま予選を迎えてしまい、予選ではひどいアンダーステアに見舞われ、明確な答えが見いだせないままの決勝だった、と明かした。

「金曜日はそんなに悪くなかったんですけど、土曜日ではバラバラ。日曜日も結局、そこを直しきれないままという形でした。(データ上では)コーナーのグリップ限界領域はそんなに悪くないんです。ストレート領域がスピードも相対的に下位ですし、あまりよくなかった。

 じゃあ、そこのバランスを変える、つまりダウンフォースを削れば本当によくなるのか――というようなところまでやりきれず、予選・決勝に突入してしまったんですね。そのあたりのバランスをどう取るかを、今回の結果を参考に宿題を並べ、課題を抽出し、どうすれば全体のパフォーマンスが上がるのかを至急、解析しなければなりません」

 ある意味では、実質初開催のサーキットだからこそ、チームのエンジニアリング能力がそのまま露呈してしまったともいえた。その点、高いシミュレーション能力と潤沢なリソースを持つトップチームのようにはいかない。



地元レースで残念な結果に終わったピエール・ガスリー

 もうひとつの苦難は、パワーユニットのトラブルだ。金曜フリー走行2回目でハートレイのパワーユニットから異音が出て、即座にコース上に止めたもののダメージは大きかった。ホンダは詳細を明かしていないが、ICE(エンジン本体)の回転部品が物理的に壊れたようだ。

「新スペック(の改良箇所)に起因するものではなく、マイレージによるものでもありません。カナダの(ガスリー車のMGU-H※)トラブルについても、品質管理を含めて個体のバラツキといったあたりがいちばん怪しいと考えています。もちろん、ICEのベンチテストや品質管理もしっかりとやっているつもりですが、今回の原因究明結果を受けて、品質チェックの方法についても見直していかなければならないと思っています」

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 2戦連続でパワーユニットにトラブルが発生し、今シーズンに入ってもう克服できたと思っていたはずの信頼性が、ふたたび揺らぎ始めている。

 いずれも、使用する部品の品質による想定外のトラブルだったようだが、品質管理も昨年まで問題が多く厳しい見直しをしてきた分野だったはずだけに、それが十分でなかったということになる。

 F1史上初の3週連戦という技術力と機動力が要求される重要な場面で、トロロッソ・ホンダは車体面でもパワーユニット面でも、いきなり苦難に直面してしまった。果たして、トロロッソとホンダは即座に解決策を見つけ出すことができるのだろうか。それは、彼らが大混戦の中団グループのなかで次のステップに進むためには、避けて通ることのできない成長だ。