WEEKLY TOUR REPORT米ツアー・トピックス 今季メジャーの第2戦、ニューヨーク州のシネコックヒルズGCで開催された全米オープンは、前年覇者のブルックス・ケプカ(アメリカ)が29年ぶりに大会連覇を成し遂げた。全米オープンはブ…

WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス

 今季メジャーの第2戦、ニューヨーク州のシネコックヒルズGCで開催された全米オープンは、前年覇者のブルックス・ケプカ(アメリカ)が29年ぶりに大会連覇を成し遂げた。



全米オープンはブルックス・ケプカが連覇を遂げた

 ところで、その優勝スコアが通算1オーバーだったことに、主催するUSGA(全米ゴルフ協会)は満足したのだろうか?

 4つのメジャー大会の中で「最も厳しいテスト」と言われているのが、この全米オープン。その信条は”パーとの戦い”である。公言しているわけではないが、「優勝スコアがイーブンであれば、USGAはニンマリとほくそ笑む」と言われている。

 そのためにUSGAは、狭いフェアウェーに深いラフ、速いグリーンにタフなピンポジションなど、あらゆる厳しいコースセッティングを試みて、世界のトッププロの技量を引き出させる。

 ところが昨年、ウィスコンシン州のエリンヒルズGC(パー72)で開催された大会で優勝したケプカは、通算16アンダーをマークした。2位に入った松山英樹らに4打差をつけたこのスコアは、歴史ある大会における最多アンダーに並ぶもの。”優勝スコアがイーブンパー”を好むUSGAとしては、決して喜ばしいことではなかったはずだ。

 最近の大会を振り返ってみると、ロースコアで終わった大会は他にもある。ノースカロライナ州のパインハースト・ナンバー2(パー70)で行なわれた2014年大会は、通算9アンダーでマーティン・カイマーが勝利。2011年大会にはメリーランド州のコングレッショナルCC(パー71)で、ロリー・マキロイ(北アイルランド)が2位に8打差をつけて通算16アンダーで頂点に立っている。

 そうしたロースコアの戦いには、「コースセッティングが簡単すぎて、”全米オープンらしさ”が失われてしまった」という批判の声が上がっていた。

 ただここで、そんな批判に対しても、疑問の声が上がる。

「トッププロがパーをとることさえ苦しむオーバーパーの戦いを、見ているファンが本当に楽しめるのか?」「難コースを攻めてバーディー合戦になるほうが、プロの妙技を楽しめるのではないか?」という意見である。

 そこで、今年のシネコックヒルズGCでの戦いである。そもそもが難しいコースでありながら、第3ラウンドではあまりにも厳しいピンポジションに設定された。しかも、海から断続的に吹きつける折からの乾いた風によって、午後のグリーンは想定以上に速く、ボールが止まらなくなった。この”厳しすぎるセッティング”は、ほとんどプレー不可能とも思われる状態にあった。

 これに抗議するように、フィル・ミケルソン(アメリカ)はまだ動いているボールをパット。わざと2打罰を受けるような、前代未聞のプレーをして物議をかもした。また、日本期待の松山が2回も4パットをするなど、考えられないようなプレーが続出した。

 易しすぎると批判され、厳しすぎるとこれもまた批判の対象となる。

 結局、USGAはこの第3ランドのセッティングを「想定外の天候となり、必要以上に厳しくしすぎた」と誤りを認めて、最終ラウンドではややセッティングを甘くした。

 そうなると、さすがは世界のトッププロが集まる大会である。トミー・フリートウッド(イングランド)が、大会最少スコア記録に並ぶ「63」をマーク。松山も3日目の「79」から一転、「66」の好スコアをマークしてその力を遺憾なく発揮した。

 グリーンにも水がまかれて易しくなっていた。それでも、風でどんどん乾いてスピードは次第に増していったため、早めにスタートした選手が有利であったことは否めない。

 そうは言っても、天候ばかりはどうしようもない。すべてに公平なセッティングなどないのがゴルフ、そう納得するしかない。

 ついでながら、昨年の舞台となったエリンヒルズGCは、コース内にたった6本しか木がなかった。風が吹けば超難コースになり得るため、大会前は「優勝スコアはイーブンでは」と予想されていた。

 ところが、週の初めに大雨に見舞われて、コース全体が軟らかくなり、グリーンもボールが止まりやすかった。想定されていた”肝心の”強風も最終日まで吹くことはなく、おかげで、ロングヒッターが俄然有利という結果になった。つまり、このロースコアも天候の成し得た結果だったと言える。

 メジャー18勝、全米オープンでも4勝しているジャック・ニクラウス(アメリカ)は言う。

「新しくできた近代コース、昨年のエリンヒルズGCや、2015年のチェンバーズベイGC (ワシントン州) はユニークな舞台だったが、本来の全米オープンの姿とはやや違った、と感じている。私は保守的なのかもしれないが、歴史ある難コースでプレーするのが、全米オープンならではだ。そこで好スコアがマークされても、それはそれで存分に”全米オープンらしい”戦いだと思う」

 優勝スコアがロースコアになるのは、あくまでも天候に大きく左右されるもの。もともと難コースで行なわれる全米オープンにあって、”人工的”に極端に厳しくしたり、易しくしたりする必要はないのかもしれない。

 飛距離、ショットの正確性、そしてアプローチやパットの技術、さらには全米オープンというビッグタイトルがかかった重圧のなかでの精神力が試される大会――それは、やはり「最も厳しいテスト」であることに間違いない。

 来年の舞台は、カリフォルニア州のペブルビーチゴルフリンクス。前回行なわれた2000年大会では、タイガー・ウッズ(アメリカ)が2位に15打差をつけての通算12アンダーで圧勝した。当時のウッズにしてみれば、どんなに厳しいセッティングも何ら関係なかったのかもしれない。