「同点に追いついた後も、勝ちにいった。交代は3人ともオフェンシブ。得点を獲りたい、勝ち切りたい、というメッセージだった」 セネガル戦後、西野朗監督は会見でそう語っている。コロンビア戦の快勝に続いて、勝利にのみ邁進(まいしん)する戦い方だ…
「同点に追いついた後も、勝ちにいった。交代は3人ともオフェンシブ。得点を獲りたい、勝ち切りたい、というメッセージだった」
セネガル戦後、西野朗監督は会見でそう語っている。コロンビア戦の快勝に続いて、勝利にのみ邁進(まいしん)する戦い方だった。それは大会前の不穏な状況を考えたら、劇的な変化と言えるだろう。
西野ジャパンは何が変わったのだろうか?
セネガル戦ではゴールはもちろん、守備での貢献も大きかった乾貴士
6月24日、エカテリンブルク・アレーナ。日本はグループリーグ第2戦、セネガルとのゲームを迎えている。厳しかった陽射しが弱まり、空気が冷えてきた。日本はハイプレスでセネガルの出足をくじく必要があり、好都合だった。
ところが、日本は慎重でお尻が重い立ち上がりになってしまう。
「立ち上がり、重心が後ろになりすぎた。もっと最初からプレスを前からかけるべきだった」(吉田麻也)
11分、どこか臆したような気配がミスを誘発させる。右サイドからのクロスに対し、原口元気がバックヘッドでクリアするが、これが相手選手の足元に。そこから打たれたシュートを、川島永嗣が中途半端なパンチングで処理し、正面にいたマネに跳ね返って、失点を喫してしまう。セーフティにCKへ逃げてもよかった場面だ。
「自分のミスで厳しい状況にした」(川島)
ディテールのミスが大きく響いた。
しかし、ここからの反発力が西野ジャパンの真骨頂だった。先制したセネガルが下がったことによって、日本がボールを持てるようになり、落ち着きを取り戻した。17分、左サイドで乾貴士を起点に、香川真司から長友佑都へ。長友がゴールラインまで運び、マイナスのクロス。こぼれたボールを、長谷部誠がミドルで思い切りよく狙った。シュートは味方の乾に当たってしまったものの、一連の攻撃はチームの可能性を感じさせた。
「最初は様子見をしてしまって、距離を開けてしまった。でも、その後は左でうまくコンビネーションを作れていたし、チャンスにもなっていた」(乾)
そして37分、柴崎岳が左サイドにピンポイントのボールを展開。これを長友が駆け上がって受けると、中に入ってコントロール。入れ替わってボールを運んだ乾が、右足でファーサイドに巻くシュートを叩き込んだ。
これで日本はペースをつかむ。セネガルはプレスをはめることで劣勢を挽回しようとするが、日本はボランチがバックラインに落ちることでそれを回避。結果として、日本はポジション的な優位性を保った。
「ハーフタイムに選手たちと話して、ポジティブに自信を持ってボールを動かしていこうと。そこで後半はさらに改善ができた。グラウンダーのボールを増やし、チャンスも多くなった」(西野監督)
世界最高峰ラ・リーガでも主力を張ってきた乾が、ひときわ強い輝きを放った。大迫勇也のすばらしいキープから、乾は左サイドでボールを受ける。右足で再びファーサイドを狙ったが、惜しくもクロスバーを叩いた。
しかし、チャンスを決め切れないと、往々にして流れが相手に移るものだ。71分だった。ペナルティエリアで柴崎の守備強度が低く、相手を離してしまい、ファーサイドまでクロスを上げられる。これをムサ・ワゲに押し込まれてしまい、再び逆転された。
隙をつかれた格好だが、それでも日本の選手たちは下を向かなかった。
サイドでの主導権を渡さなかったことが、よりどころになった。左サイドの乾の存在はディフェンス面でも大きかった。守備の立ち位置がよく、長友と連動。相手のよさを殺し、自らのよさを生かしていた。右サイドの原口も、ミスはあったものの、酒井宏樹と連携しながら、90分間を通してディフェンスの強度が高かった。
そして中央では長谷部がバランスをとっている。柴崎の攻撃センスを生かし、香川、大迫との連携を密にすることで、相手を容易に最終ラインまでこさせなかった。昌子源、吉田麻也のセンターバックも一歩も引いていない。
各ラインでの守備が頑強になったことで、ボールを持ったときに自信を持って前にいけた。安定と強気こそが、このチームの強さになっているのだろう。
「6カ月勝てず、”おっさん、おっさん”と批判され、そこから這い上がった。強い気持ちがみなぎっていますね。試合前から、ロッカールームで『1点獲られることもあるだろうけど、頭はポジティブに戦おう』と話していました。だから失点しても少しもナーバスにならなかった。まだ時間あるよって。メンタル的にブレなかった」(長友)
そして78分。大迫が右サイドから上げたクロスに、交代出場の岡崎慎司が飛び込む。ボールはファーに流れたが、それをタッチラインで拾った乾が、再び中へ流し込む。またも岡崎が潰れる形となり、その裏で、やはり交代出場の本田圭佑が左足でゴールに突き刺した。
「サッカー人生の中で、サブに対してこれだけ前向きに捉えられたことはない。一発目のチャンスで決めないと、という緊張感があった」(本田)
本田を右サイドに置き、岡崎、大迫のツートップにしたスクランブル作戦が奏功した形だった。勝負強さを見せつけた、と言えるだろう。これぞW杯で勝つことの魔力と言うべきだろうか。勝つほどに、負けないほどに、充実感が増す。多くの選手が、大会前よりも成長を遂げつつある。
長友は最後にこう結んだ。
「一喜一憂しないようにしないと。まだ決勝トーナメントに進んだわけじゃない。中3日でポーランド戦だから、疲労を回復させて。でも、(ベスト16に進出した)南アフリカW杯よりもいいんじゃないかな。精神力の部分が強い。いくら批判されても這い上がれる。強い気持ちが自信になっている」
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