あれは2008年だったから、今から10年前のことになる。 西野朗監督率いるガンバ大阪はクラブ・ワールドカップに出場し、準決勝に進出した。決勝をかけて戦う相手は、イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッド。その前日会見の場で、アトラ…

 あれは2008年だったから、今から10年前のことになる。

 西野朗監督率いるガンバ大阪はクラブ・ワールドカップに出場し、準決勝に進出した。決勝をかけて戦う相手は、イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッド。その前日会見の場で、アトランタ五輪でブラジル代表を破った「マイアミの奇跡」について改めて問われた西野監督は、「奇跡」という言葉に反応して、きっぱりと言った。



西野朗監督はセネガル戦でどんな策を練っているのか

「あのときは自分も、選手たちも奇跡とは思っていませんでした。狙ったことを実践できて、相手に自由にプレーさせなかったという確信は持っていましたから、あのネーミングはピンとこない。さらに、いまさら言われてもと思います」

 まるで、同じだった。

 10年経ったワールドカップの会見の場でも、指揮官は「奇跡」を否定した。

「実際に勝つためにコロンビア戦に向けて準備をしてきましたし、それを実現できたわけなんで、私自身は奇跡とは思っていません」

 相手を分析して対策を立て、それをチームに落とし込んだ。可能なかぎりの準備をして引き寄せた結果を、「まぐれ」や「幸運」という意味合いを含んだ「奇跡」のひと言だけで片付けられることに、納得がいかないのだろう。

 さらに西野監督は、セネガル戦に向けて、やや挑発気味にこう言った。

「ここ数日、選手とどう対応していくか、どう戦っていくか、準備をしてきたので、恐れるというよりは楽しみに考えたい。どう攻略していくのかというのを、明日見せたいなと思います」

 その口調は自信に満ちたものだった。今度は奇跡とは言わせないぞ――まるで、そう言わんばかりに。

 コロンビアを2−1で下し、幸先いいスタートを切った日本はグループステージ第2戦でセネガルと対戦する。FWサディオ・マネ(リバプール)、DFカリドゥ・クリバリ(ナポリ)のふたりを筆頭に、MFイドリッサ・ゲイエ(エバートン)、MFシェイク・クヤテ(ウェストハム・ユナイテッド)、FWケイタ・バルデ・ディアオ(モナコ)、FWエムバイ・ニアング(トリノ)と、主力選手はヨーロッパのトップリーグでプレーし、アフリカ勢らしからぬ組織力に優れたチームだ。

「予選リーグで当たる3チームの分析を自分でもしていて、正直セネガルが一番強いな、ということを選手同士でも話したりしていた」

 そう言って警戒心を強めたのは、長友佑都である。また、川島永嗣も気を引き締めている。

「一番の山場は2戦目だと思う。今回のセネガルはかなり能力の高い選手がそろっているので、コロンビア戦より難しいゲームになるんじゃないのかと思っている」

 現在、勝ち点3を獲得してグループ首位に立つ日本としては、同じく勝ち点3を得ているセネガルと引き分けて、勝ち点4でポーランドとの第3戦を迎えてもアドバンテージは十分ある。逆に、リスクを負って勝ち点3を取りにいき、セネガルのカウンターに仕留められたら、初戦で奪った勝ち点3の価値が半減してしまう。

 それゆえ、引き分け狙いのゲームプランも考えられるが、西野監督はそれを強めのトーンで否定した。

「3戦目は敗者復活のゲームであって、2戦目で決めなければいけないということを選手たちには伝えています。いろんなリスクがあっても、2戦目で勝負をかけなければいけないと思っています」

 その考え方は、本田圭佑が語っていたこととも合致する。第3戦までもつれ込むと、グループステージを突破しても、ベスト16、ベスト8の戦いで体力の消耗が著しいと本田は言う。その考えは、ベスト16で散った2010年南アフリカ大会の経験に基づいたものだ。

「理想論はやっぱり2戦目で決めること。それが本当の意味で上を目指す戦略を立てれる状態なのかなと思います」

 ふたりの言葉を聞くかぎり、セネガル戦に勝負をかけるのは確かだろう。では、スターティングメンバーは誰になるのか。

 前日の公式会見で西野監督は、「基本的にはスタートメンバーはコロンビア戦(と同じ)に、というのは現時点で考えています」と明かしているが、この言葉を額面どおりに受け取るわけにはいかないだろう。

 セネガルのスピードやフィジカルに対抗するには、コンディションが万全でなければならない。ベースはコロンビア戦だとしても、消耗の激しいポジション――サイドハーフやボランチとして武藤嘉紀、大島僚太、山口蛍らがスタメンに名を連ねていても驚きはない。

 G大阪時代のナビスコカップ決勝の前日会見では、並んで座った川崎フロンターレの関塚隆監督(現技術委員長)に対し、川崎Fの予想スタメンを発表して陽動作戦を仕掛けたこともあるくらいなのだ。情報戦を仕掛けていてもおかしくないだろう。

 むろん、スタメンに変更がなかったとしても、チーム力が問われることに変わりはない。コロンビア戦で出番のなかった宇佐美貴史が悔しさを胸に、活躍を誓う。

「どこかのタイミングで総力戦というか、代わって出た選手が結果を出さなければいけない状況が絶対にある。そういうときのためにしっかり準備をすることと、出たい気持ちや出たときにどうするかを積み重ねておくことが大事だと思います」

 コロンビア戦でスタメンが予想されながらベンチスタートとなった槙野智章も語る。

「チームが勝つために大事なのは、ピッチに出ている選手だけじゃなくてベンチメンバーも含めて、みんながチームのために、という想いを持って行動すること。もちろん悔しい気持ちは持っているし、素直に喜ぶことも大事ですけど、次は俺の番だという気持ちを持ってやることも必要」

 8年前の南アフリカ・ワールドカップ以来となる決勝トーナメント進出をかけて戦うセネガル戦。果たして指揮官は誰をピッチに送り出すのか。コロンビア戦と同様、誰もがやりきったと胸を張れる熱いゲームを期待したい。