「ロシアW杯でもサプライズになりうる」 コロンビア戦の前に書いたリポートで、ミケル・エチャリは、はっきりとそう日本代表に太鼓判を押している。 エチャリは戦術家として、スペインを代表する指導者として知られている。ジョゼップ・グアルディオラ…

「ロシアW杯でもサプライズになりうる」

 コロンビア戦の前に書いたリポートで、ミケル・エチャリは、はっきりとそう日本代表に太鼓判を押している。

 エチャリは戦術家として、スペインを代表する指導者として知られている。ジョゼップ・グアルディオラに大きな影響を与えたファンマ・リージョが師と仰ぐほどだ。昨シーズンまでパリ・サンジェルマンを率いたウナイ・エメリも、指導者人生をスタートしたばかりシャビ・アロンソも、選手時代は教え子だった。

 その慧眼(けいがん)は、コロンビア戦での日本の勝利を見越していた。西野朗監督がコロンビア戦後に語った、「ポジション的優位」「中盤を強固にする」などいくつかの表現は、このリポートでエチャリが繰り返し主張してきたことと符合している。

 では、エチャリはコロンビア戦をどうスカウティングしたのか?



左サイドで攻撃を活性化させていた長友佑都

「西野監督がチームを率いるようになって、日本は3試合、テストを続けてきた。ガーナ戦の3バックは不安を感じたが、スイス戦は4バックで戦術的に改善し、パラグアイ戦は勝利を飾り、戦う形も見えた。中盤のブロックを強固にし、攻撃で幅を作り出し、サイドが攻守のトランジションになることで、日本人のテクニックと瞬発力を出せるようになった。

 そして挑んだコロンビア戦。西野監督が選んだシステム、先発メンバーは私の想定したメンバーと近かった。私は長谷部誠をアンカーにした4-1-4-1もひとつの可能性として考えていたが、結果的に4-2-3-1ではあったものの、柴崎岳が長谷部と縦関係になることがしばしばで、開始しばらくはその通りになったと思って見ていた。

 昌子源or槙野智章、柴崎岳or山口蛍、大迫勇也or岡崎慎司は迷いどころだったのではないか。

 いずれにせよ、日本のいい部分が出た勝利で、勝因としては何よりも出足がよかったことが挙げられる。

 前半3分、香川真司が裏に出したボールに対して、大迫がダビンソン・サンチェスに走り勝っている。大迫のシュートはGKの正面でブロックされたが、その跳ね返りを香川がシュートし、エリア内に戻ったカルロス・サンチェスのハンドでPKの判定になった。長い抗議の混乱があって、集中を保つのは簡単ではなかったはずだが、キッカーの香川は落ち着いて決めた。

 日本はこれで1人多い形で試合を進めることができた。それも開始5分すぎからだ。特別な状況だったことを明記しておくべきだろう」

 西野ジャパンは先制攻撃に成功したが、その後の前半の戦いに関して、エチャリは厳しい見解を述べている。

「1点をリードしてから、1人多い状況にもかかわらず、日本のプレーは劣化した。攻撃スピードが極端に低下。(慎重になりすぎて)ボールを持ちすぎ、簡単に狙いをつけられている。後ろに下がってボールを受けるだけで、後手を踏むことになった。勢いに乗ったコロンビアにボールを奪われ、鋭いカウンターを受ける。その流れを変えられなかった。各ラインがバラバラで戦線が長くなり、相手にポジション的優位を奪われていたのだ。

 守勢に回ったことで、ラダメル・ファルカオを中心とした攻撃に混乱し、結果として同点弾を奪われている」

 前半37分、長谷部がファルカオと接触したプレーがファウルを取られ、そのFKでファン・キンテーロに壁の下を通され、ニアサイドに流し込まれた。

「長谷部のプレーはファウルではなかった。ただ、日本が押し込まれていたのは間違いない。失点は必然で、チームとしてのバランスが崩れていた。

 香川のパスを乾貴士がシュートまで持ち込んだ決定機があったように、むしろ攻撃では形を作っている。右サイドでは原口が可能性を感じさせたし、左サイドでは長友佑都の活発な攻め上がりが見られた。そして前線の大迫は敵ディフェンスをプレスし、ボールを奪い、シュートまでいくなど、アクティブだった。

 どうにかイニシアチブを取り返そうとして、攻撃にいくのは悪くないだろう。

 しかし日本の問題は、攻撃に比重をかけ、守備を疎(おろそ)かにしてしまう点にある。数的には足りていないわけではない。ただ、それよりも重要なポジション的優位を忘れてしまうのだ。攻撃と守備のバランスにおけるポジション的優位性。相手は10人なのだから、数的優位性が問題ではないのがわかるだろう。ポジション的優位性をもっと突き詰めるべきだ」

 エチャリはそう苦言を呈したが、後半の戦い方には及第点を与えている。

「後半、日本のプレーリズムは一気に上がった。それを司(つかさど)っていたのは、やはり長谷部だった。プレー判断が極めていい。彼が、ボランチでコンビを組んだ柴崎とトップ下の香川を近い位置でプレーさせることで、コロンビアを自陣に押し込めている。

 苦境に追い込まれたコロンビアは、ハメス・ロドリゲスを投入してもうまくいかず、FWカルロス・バッカを投入。2トップ(4-4-1から4-3-2)に変更している。中盤での争いから手を引き、前線にパワーを投じて、どうにか勝ちに出た。

 しかし、日本は疲れの見えた香川に代えて本田圭佑を投入し、流れを失わなかった。72分には、その本田が左足で右サイドを走る酒井宏樹に合わせ、酒井はクロスを入れ、それをペナルティエリア内でキープした大迫が確実に落とし、再び酒井が狙っている。ゴールはならなかったが、この日のベストプレーだった。日本の技術やコンビネーションの高さがよく出ていた」

 そしてその直後、左からのCKを本田が蹴り、大迫が決勝点を決めている。エチャリはセネガル戦に向けた戒めも込めて、こう分析した。

「決勝点は素晴らしいセットプレーだった。それに関して言うことはない。セネガル戦に向けて私が気になったのは、リードして、再び自ら戦術的にバランスを崩してしまった点だ。

 攻撃をすることで、守備の不安を隠すのではない。守備のバランスを失わないことで、攻撃を促す。その順序を間違えてはならない。セネガルを苦しめるだけの力のある選手が日本にはいるだろう。コロンビア戦で交代出場した岡崎も、山口も、十分に戦力になるはずだ」

 そして最後に、エチャリはこんなエールを送っている。

「日本代表におめでとうと言いたい。W杯の初戦で勝利する。それは簡単なことではない。チーム一丸となってつかんだ勝利だろう。引き続き、日本の健闘を祈る」