コロンビア戦の前半3分。PKを獲得してキックに向かうとき、香川真司の表情は自信たっぷりだった。 ボールを抱えて離さず、審判とコロンビアの選手のやりとりを眺めている。そして笑みさえ浮かべながら、相手GKダビド・オスピナと会話をかわす。ペ…
コロンビア戦の前半3分。PKを獲得してキックに向かうとき、香川真司の表情は自信たっぷりだった。
ボールを抱えて離さず、審判とコロンビアの選手のやりとりを眺めている。そして笑みさえ浮かべながら、相手GKダビド・オスピナと会話をかわす。ペナルティスポットに置いたボールの位置がずれていると相手選手に指摘され、審判に修正を求められると、何やら文句を言いながら、それに従った。
細かなステップで助走し、GKとの間合いを測りながら右足で蹴り込んだキックは、日本にとって、そして香川自身にとっても待望の先制点となった。コーナーフラッグの近くに膝で滑り込んで喜びを爆発させた。おなじみのポーズにチームメイトが続いた。
「先制点はすごく大事だと思う。それしか頭になかったので、やっぱり喜びの感情は出ました」
試合後、「すごく喜んでいたようだったけど?」と指摘されると、「そうですね、もうちょっと落ち着いたほうがいいんじゃないかとは思いますけど。本当に大事なスタートだったので、よかったなと思います」と、少しはにかみながら答えた。
合宿地カザンでのトレーニングでも笑顔が目立つ香川真司
香川が自信を取り戻しつつあるように見えたのは、昨年12月ごろだった。
この4年間の香川を振り返ると、2014年6月にブラジルW杯で惨敗を喫したあと、9月にはマンチェスター・ユナイテッドからドルトムントに出戻っている。ドルトムントはそのシーズンでユルゲン・クロップ時代が終焉を迎え、2015~16シーズンからトーマス・トゥヘルが指揮をとるようになった。
そのトゥヘルのもとで、香川は徐々に出場機会を失っていく。システムは4-3-3や3-4-3となり、トップ下などの香川が得意とするポジションで起用されることも減った。トゥヘルのサッカーは、細かな決まりごとも多かったが、基本的には個人の能力に負うところが大きかった。守備においてはフィジカルの強さが求められ、攻撃においては個のスピードを活かすパターンが主となっていき、チームの中で香川の影は薄くなった。
2016~17シーズンをもってトゥヘルが去り、ペーター・ボスがやってくると、光明が差したかに思われた。だが、ボスはポゼッションサッカーを掲げたものの、チームは守備面の不安定さばかりが目立って低迷。負傷も重なって、香川の出番は少なかった。
ところが昨年12月、新監督にペーター・シュテーガーが就任すると、ドルトムントに上昇気流を起こしたのは香川だった。香川が出場した第16節から第22節までの7試合は4勝3分。逆にその後、香川が負傷して出場しなくなった第23節から第34節までの12試合は5勝3分4敗と、香川の存在感は数字がはっきりと物語っている。
心配された負傷から最終節のホッフェンハイム戦で復帰し、15分だけ出場すると、香川は代表への思いをこう語っていた。
「そこ(代表への思い)はブレていないです。別にケガをしようが、しまいが、僕のそこの目標はしっかり持っているので、そのためにやってきました。今日の試合に出ることも大事ですけど、一番大事なのは(W杯の)初戦であり、キャンプインであり、そこに向けてしっかりといい準備をしたい。監督が代わったので、また厳しい戦いになるけど、その準備と覚悟は、個人的には常々できていると確信しています」
この4年間、香川にとっては日本代表こそが大きなモチベーションだった。だからこそ昨年11月、代表の欧州遠征メンバーに選ばれなかったことも、小さな問題ではなかったのだろう。
W杯直前のオーストリア合宿では、23人に入った安堵感もあるのか、終始、笑顔で落ち着いていた。香川という選手は、不思議なくらい見た目とプレーが連動している。楽しそうに見えるときは状態がよく、プレーも生き生きとしてくるのだ。
コロンビア戦の前日には、10番を背負うこと、そして相手の10番がハメス・ロドリゲスであることについて聞かれ、このように答えている。
「別に背番号に関しては気にしてないというか、そこに過大なものを僕自身は求めてないので。ただ、責任感は持ってやってきたので、そのスタイルは変わらないです。むしろそこに誇りを感じてやっているので、それを信じてやっていくだけかな。相手はコロンビアでもハメスでもない。僕自身であり、そこに目を向ける必要があるんじゃないかと思います」
いまの香川の自信が、そうやって自分を見つめたうえで生まれたものだとすると、ちょっとやそっとのことでは、揺らぐことはないのではないだろうか。