「なんと言われようが、とにかく勝つことだ」 スペインのFWルーカス・バスケスはイラン戦後にそう洩らしている。 その言葉が、この日のスペインを象徴しているだろう。ジエゴ・コスタのシュートが跳ね返って自分に当たったゴール一発で、どうにか1-…

「なんと言われようが、とにかく勝つことだ」

 スペインのFWルーカス・バスケスはイラン戦後にそう洩らしている。

 その言葉が、この日のスペインを象徴しているだろう。ジエゴ・コスタのシュートが跳ね返って自分に当たったゴール一発で、どうにか1-0と勝利を拾った。6-3-1のような超守備的な戦術で挑んできたイランに対し、自慢のパスワークが不発。元世界王者は攻撃のリズムが上がらず、ひどく手こずっている。

「守りを固めるのはひとつのやり方だろうけど、あそこまで露骨に時間稼ぎをされて、リズムを切られるのはね。審判はどうにかするべきだったよ。後半は特に遅延行為が目立っていたから」

 スペインの右サイドバック、ダニエル・カルバハルも不満をあらわにした。

 苛立ちの募る内容での勝利で、チームに満足なムードはなかった。しかし勝ち点を重ねたことで、グループリーグではポルトガルと並んで首位に躍り出た。モロッコとの最終戦は、引き分け以上で決勝トーナメント進出が決まる。

 はたして、スペインは2010年W杯以来、再び世界王者になれるのだろうか?




イラン戦で貴重な決勝ゴールを決めたジエゴ・コスタ

 6月20日、カザン・アリーナは、ブブゼラの音が騒々しく鳴り響いていた。どうやら、イラン人のサポーターが大量に持ち込んだ鳴り物のようだ。それは南アフリカW杯の光景を思い出させた。まさに、スペインが世界王者になった大会だ。

 ところが、前半のスペインはプレーリズムがまったく上がらない。ボールを動かすスピードが遅く、結局は長いボールを放り込んで相手ボールにしてしまう。焦って攻め急ぎ、中央から突っ込んでは跳ね返される。無策な攻撃の連続だった。

「イランの戦い方は、プレービデオでチェックしていたよ。守りを固め、ゴールをさせない。そこを徹底するチームだというのは知っていた」(イスコ)

 イランはカルロス・ケイロス監督が「poner el AUTOBUS」(バスを置く)というバリケード戦術を採用。ゴール前の人海戦術で、スペースを消した。そしてボールを奪ったら、前線のサルダル・アズムンにボールを預ける。アズムンは質の高い動きでスペインのディフェンダー陣を四苦八苦させた。

 スペインは攻めあぐねて、業を煮やしたセルヒオ・ラモスの攻撃参加で強引にシュートを放つが、それは攻撃が機能していないときの印だった。

「ハーフタイムに修正を施し、後半はプレーが改善された。イスコが左サイドで優位性を発揮し、ルーカス、カルバハルに右サイドで幅を作って、ダビド・シルバが中で仕事をするようになった。我慢強くプレーすることが必要だ、と伝えた」(フェルナンド・イエロ監督)

 後半、スペインは左右から激しく揺さぶりをかける。とりわけ、イスコが左サイドでディフェンスを個人技で翻弄し、イランにダメージを与える。左右のサイドから何回も突破し、クロスを上げ、固まった守備陣形をたわませる。サイドから崩す、という選択は人海戦術の守備に対する正攻法だ。

 そして後半9分だった。アンドレス・イニエスタが中央でボールを持つと、ジエゴ・コスタが前を向けるような気の利いたパスを足元に入れる。ジエゴ・コスタはこれを素早くシュートに持ち込み、いったんはブロックされるも、その跳ね返りが膝に当たって、ボールはゴールに飛んでいった。

 先制には成功したが、その後のスペインはイランの反撃に手を焼いている。

 後半17分にはFKからアズムンに頭で合わせられ、こぼれたボールをサイード・エザトラヒに蹴り込まれた。一度は同点弾に会場が沸いた。しかし、このゴールはVAR判定によってオフサイドが確認され、取り消されることになった。後半37分にはバヒド・アミリがジェラール・ピケをドリブルで抜き去り、クロスを上げている。メフディ・タレミが決定的なヘディンシュートを放ったが、惜しくも外れた。

 決定力の差でスペインが上回った、というのが戦評になるだろうか。

 大会3得点目を決めたジエゴ・コスタには、エースの風格が備わってきた。ボールを呼び込み、ネットに叩き込む。その技術とパワー、迫力は圧巻だ。

「コスタには得点以外にも多くの仕事を要求しているが、それを十分に遂行してくれている。敵選手に囲まれながら、壁になってパスを呼び込み、それを足元に戻す。彼のプレーには満足している」(イエロ監督)

 ただ、スペインはひとつの岐路に立っている。

 過去に世界王者、欧州王者になったときのスペインは、「ティキタカ」と呼ばれるパス戦術中心のチームだった。シャビ・エルナンデスを筆頭に、イニエスタ、セルジ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバ、ジェラール・ピケなどが、バルサ色を強く出していた。

 今回も当時の選手が残っている一方、イスコ、ルーカス・バスケス、そしてジエゴ・コスタらの存在感が強くなっている。彼らは個人技でプレーするスタイルで、カウンター戦術で違いを生み出す選手たち。ティキタカとは色合いが異なる。

 イラン戦はジエゴ・コスタらのおかげで勝利を引き寄せた部分はある。一方で、ボール回しが単調だったのも事実だろう。マルコ・アセンシオ、イアゴ・アスパスのほうがティキタカとの相性はいいはずだが……。

「どんな形であっても、とにかく勝つことだ」という、冒頭のルーカス・バスケスの言葉は、現状を示唆しているだろう。

 グループリーグ最終戦では、1、2位どちらになるかで、ロシア、ウルグアイ、あるいはエジプトとの対戦が決まる。伏兵ウルグアイとの一戦は避けたいところだが、開催国と戦う難しさもある。

「グループ1位になって悪いことはない。我々は勝ち続ける。まだまだ自分たちのプレーはよくなるよ」

 主将であるセルヒオ・ラモスの言葉である。