堂安律インタビュー@前編 ガンバ大阪で頭角を現した堂安律がオランダのフローニンゲンにレンタル移籍することが発表されたのは、昨年の6月23日――。それは、6月16日生まれの堂安が19歳になってから、わずか1週間後のことだった。オランダから…

堂安律インタビュー@前編

 ガンバ大阪で頭角を現した堂安律がオランダのフローニンゲンにレンタル移籍することが発表されたのは、昨年の6月23日――。それは、6月16日生まれの堂安が19歳になってから、わずか1週間後のことだった。



オランダから帰国した堂安律に今シーズンを振り返ってもらった

 日本人選手がヨーロッパでプレーすることが珍しくなくなった現在においても、10代で移籍のチャンスを掴む選手は数少ない。また、過去には宮市亮(当時アーセナル→現ザンクトパウリ)、宇佐美貴史(当時バイエルン→現デュッセルドルフ)、高木善朗(当時ユトレヒト→現アルビレックス新潟)など有望なタレントが10代で海を渡ったものの、残念ながら、そこで成功を手にして順調にステップアップした例はほとんど存在しないというのが実情だ。

 しかし堂安は、そんなネガティブな過去の例を覆(くつがえ)すような活躍を見せ、オランダ北部のスモールクラブの「期待の星」となった。レギュラーの座を獲得してリーグ戦29試合(先発28試合)に出場し、9ゴールをマーク。12位で終わったチームのなかで傑出したパフォーマンスを見せたことにより、移籍市場の注目株として脚光を浴びるようにもなっている。

 タレント不足が叫ばれて久しい日本サッカー界に、ようやく現れたダイヤモンドの原石――。これから磨けば磨くほど、無限の輝きを放つであろう10代のタレントが過ごしたオランダでの1年とは、果たしてどんなものだったのか?

 近い将来、日本サッカー界を背負って立つであろう注目の若武者が、充実のシーズンを振り返ってくれた。

―― 初めて経験したヨーロッパでのシーズンを振り返って、率直な感想をお願いします。

堂安律(以下:堂安) ベタな答えですけど、今振り返ってみると本当に充実した1年でした。でも、その充実したシーズンのなかには、いいときばかりじゃなくて、悪いときもありました。最初のころはチームメイトと仲良くなれなかったり、差別を受けることもあったり……。そういう状況だと、練習や試合で僕のところにパスが回ってこないんです。そういう悪い時期から這い上がって、よくすることができたことを考えると、今後につながる1年になったと思います。

―― いきなり開幕戦でスタメン出場を果たしましたけど、あのときはエルネスト・ファベル監督にプレー面を評価されて出場したということですか?

堂安 今思えば、あのときは監督が僕のすべてを評価してくれたわけではなかったと思います。サポーターも僕のことを期待していたし、とにかく一度、試合で使ってみようと思ったんじゃないですかね。

 結局、僕自身もその試合は何もできずに終わってしまったので、後悔だらけです。もっと仕掛けるべきだったし、バックパスも多かったし……。あれだったら、仕掛けてボールを失って交代させられたほうがマシだと思ったので、あの後からそういうスタンスに変えました。

―― その後、4試合連続で出場機会がありませんでしたね。そのときはどのようにして状況を変えようとしましたか?

堂安 その時期はかなり落ち込みました。だから、その不安を払拭するために、とにかく練習量を増やしました。練習が終わってから1時間くらい居残りでシュート練習をして、とにかく今までで一番練習した時期だったと思います。

 もしかしたら自分にとっては、あれが一番大事な時期だったかもしれないです。自分と向き合えた時間だったし、居残り練習をした分、シュートがうまくなったと思いますし。それから結果が出るようになったので、今では居残り練習をしないと不安になるので、短い時間でもいいから毎日居残りでシュート練習をするようになりました。

―― スランプを抜け出すキッカケになったのは、国内カップ戦でのゴールでしたよね。それによって、次のリーグ戦でスタメン復帰を果たして、しかもゴールも決めました。

堂安 そのカップ戦の相手が4部のチーム(USVヘルクレス)だったのがラッキーでした。しかも、そのときはチーム状態がめちゃくちゃ悪くて、僕が後半から出場したら試合の流れが変わったので、運がよかったんです。

―― そこで監督から信頼されるようになったということですね。

堂安 はい。監督も僕が居残り練習する姿を見ていてくれたし、その間に僕も監督のところへ行って「なんで俺を使わへんねん?」って聞きにいったこともあったので。

―― それは英語で?

堂安 はい、片言の英語で。そしたら、当たり前ですけど監督が英語で返してきて、何を言っているのかが全然わからなかったんです(笑)。それで監督に、「通訳を呼ぶから明日まで待ってくれ」って伝えて、次の日にドイツから代理人に来てもらって3人でミーティングをしたんです。そこで、監督が自分に求めていることを理解できたのが大きかったと思います。

 もちろん、もう今では自分で直接監督と話すようになりましたよ。この前も途中で交代させられたときに、その理由を監督に聞きにいきましたし。内心は「言い過ぎて次の試合から外されたらどうしよう」ってビビりながらも、とにかく笑顔を崩さずに話すようにして(笑)。

―― 日本でプレーしているときから、10代のわりにフィジカルがしっかりしているという印象でしたが、実際にオランダでプレーしてみて、その差を感じることはありましたか?

堂安 フィジカルに関しては差を感じなかったです。むしろ、それが自分のストロングになっているくらいです。でも、スピードに関しては感じましたね。もっとキレを出して、スピードをつけなければダメだと思ったので、専門家にアドバイスをもらってスピードをつけるようにがんばっています。

―― 自分自身のターニングポイントになったと考えているのはどの試合ですか?

堂安 やっぱり年明けのヴィレムⅡ戦(1月21日)ですね。あのゴール(シーズン4得点目)で完全に気持ちが乗ったというか、「これはいける!」って思いました。新年早々のゴールでしたし、あれから本当の意味で自信を持ってプレーできるようになりました。

 それまでは試合には出ていましたけど、自分のなかで「こんなプレースタイルじゃなかったよな」って思うこともあったし、本来はもっと仕掛ける選手だったはずなのに、ボールを持つと味方を探してしまう自分がいたりして……。かなり試行錯誤していた半年でした。結局、考えすぎないことが大事だと思うようになって、それからは自分が思うとおりにプレーすることだけを心がけることにしました。

―― シーズン前半戦はトップ下でプレーし、調子が上がった後半戦は4-2-3-1の2列目の右サイドからスタートするようになりましたね。

堂安 監督に「お前はどっちのポジションをやりたいのか?」と聞かれたとき、「俺はどっちもできるけど、監督はどっちがいいと思う?」って聞き返したら、「まだお前にはハードワークできる能力がないから、トップ下でやってほしい。そこで狭い局面を打開してほしい」と言われて、それで最初はずっとトップ下でプレーしていました。

 ただ、年が明けて後半戦になったときに一度、サイドで起用されたことがあって、そのときに僕の運動量が上がっているように見えたみたいなんです。オランダのチームは4-3-3(4-1-4-1)が多いので、トップ下でプレーすると相手のアンカーにマンマークされる状況が生まれるので、僕としてはマーカーがついてくるトップ下はやりづらいという感覚がありました。そこで監督に「サイドから中に入っていくほうがプレーしやすい」という話をしたら、「じゃあ、そこで使う」と言ってくれて。

 実際、そこで結果を出すこともできたし、これからも右サイドで勝負したいと思うようになりました。だから僕のなかでトップ下はオプションで、右サイドがベストです。

―― 結果を出し続けたことでクラブに評価され、完全移籍を果たすことができました。その話をもらったときは、どんな気持ちでしたか?

堂安 自分との戦いに勝った感じがしましたね。それを目標にこの1年やってきた部分もあったので、すごくうれしかったです。でも、完全移籍したら少し気持ちが楽になるだろうなって思っていたんですけど、完全移籍をしたらしたで、もっとステップアップしたいという新しい目標が生まれるので、楽にはなりませんでしたね。やっぱり、そんな簡単に落ち着くような世界ではないということを改めて感じています。

―― 移籍初年度にこれだけ活躍できた最大の理由は何でしょう?

堂安 チームメイトのやさしさですね。これは本当に、真面目な話です。たぶん僕の力だけでは無理だったと思うので。だからチームメイトのやさしさ、それとクラブの僕に対する愛情をすごく感じています。

―― 日本とオランダでプレーしてみて、一番の違いは何でしたか?

堂安 試合のテンポがまったく違いますね。日本では守備のときに少し休む時間があったり、攻撃時もゆっくり攻めることが意外と多いんですけど、オランダではずっと走っている感覚で、とにかく休む時間がほとんどないんです。もうひとつは、シュートです。僕は監督から「お前はいい左足を持っているから、もっとシュートを打て」と言い続けられてきました。

 自分では結構シュートを打っている感覚があったんですけど、この前、日本でガンバ対レッズの試合を見に行ったときに「シュートが少ない」と感じたので、僕もそうだったのかもしれないと思いましたね。だから来シーズンは、もっとシュートを貪欲に打ちたいです。ノルマは1試合5本。5本打てれば、たぶん1本は入ると思いますので。

―― 若手選手が多いオランダリーグですが、ロビン・ファン・ペルシー(フェイエノールト)やクラース・ヤン・フンテラール(アヤックス)といった大物フォワードもプレーしています。彼らと対戦したときは、どんな印象を受けましたか?

堂安 まず、オーラが違います。それとなぜか、彼らはいい匂いがするんですよ。試合中に「潰したる!」と思ってボールを奪いに寄せていくと、「ああ、いい匂いやなぁ~」って力が抜ける(笑)。ほんま、あれは何なんですかね?

―― そうなんですか(笑)。それも含めていろいろな経験をした1年でしたね。きっとフローニンゲンというクラブを選んだこともよかったのでしょう。

堂安 はい、大正解です。最初はいろいろな人に「どこのチーム?」とか「まだ早すぎる」とか言われて止められましたけど、本当に移籍してよかったと思っています。まあ、そう言われたときも格好つけて「絶対に成功しますから!」と言い返していましたけど(笑)。

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