2016年リオデジャネイロ五輪4×100mで、日本が過去最高となる銀メダルを獲得してから早2年。2走を走った飯塚翔太(ミズノ)は五輪翌年の2017年、布勢スプリントの100mでケンブリッジ飛鳥(ナイキ)などを抑えて10秒08の自己新で優勝を飾った。



若手が多く出てくる短距離界で、多くの刺激を受けていると語った飯塚翔太

 続く、日本選手権の200mでは、サニブラウン・ハキーム(東京陸協→フロリダ大)と藤光謙司(ゼンリン)に敗れて3位に終わったが、8月の世界選手権の200mでは準決勝まで進み、4×100mリレーで再び2走を務めて銅メダルを獲得と、いぶし銀的な存在感を発揮し続けている。

 そんな飯塚は、リオでの銀メダルをこう評価する。

「(五輪後)すごくいい影響が出て、あそこから一気にレベルが上がったと思います。(翌年の)秋には桐生(祥秀)くんが9秒台を出したり、山縣(亮太)くんも10秒00を出して、多田修平くん(関西学大)のような新しい選手も出てきました」

 また、個人ではなく、リレーでメダルを獲ったことにも意味があったという。

「今までは『個人で調子がいいから、リレーもいける』と考えていたけれど、逆のパターンで『リレーで調子がいいから、個人でもいける』という考えになって、自信がついたと思います。僕自身、(リオの)個人レースでは、予選落ちで納得はしてなくて複雑ですが、国内ではお客さんの数が増えているし、これまでならテレビでやらないような記録会でさえニュースで取り上げられるようになった。だから、僕らも一つひとつの試合に対する気持ちが高まって、練習も頑張れるようになっていると思います」

 ただ、本職の200mに関しては、リオが終わってからどういった走りを求めようか考えることが多かったという。リオの年は6月の日本選手権で20秒11の自己ベストを出し、7月のダイヤモンドリーグモナコ大会では20秒39とまずまずの状態だった。しかし、リオでは20秒49で予選落ちという結果。

 2017年の100mでは自己ベストを出せたが、日本選手権の200mではいいレースができたという手応えはなかった。

 ようやく8月に行なわれた世界選手権ロンドン大会で走った2レースは、予選、準決勝ともに「やっと最後まで走りきれた」と手応えを感じた。

「あの時は、予選も準決勝も前半から思い切っていけました。後半もガムシャラにいけたのは、去年(のレースのなかで)初めてだったんです。その手応えがすごくよくて『これは面白いな』と思って。自分のパフォーマンスはあれが限界ではなくて、前に進んでいるなという感覚でした。スタートで遅れて前を追いかけたら足が上がらなくなって終わったというのではなく、先が見える結果でした」

 そんななかで、サニブラウンが日本選手権を制した上に、世界選手権でもあっさりと決勝進出を果たした。それは飯塚にとって刺激になったという。

「こんなに簡単に決勝にいけるんだと思いました。適わないというネガティブな考えはなくて、自分も決勝にいって戦いたいし、その時はどんな気分なのかなって。ハキームの走りを見て『でかいな』と思いましたね。メチャクチャ速いじゃないですか。身長も僕と1~2cmしか変わらないのにあれだけ伸びていける。他人の走りがどうかじゃないけど、体を生かしているなというのを感じたから、自分ももっと体を生かせるようになれば面白いと思いました」

 2010年世界ジュニア200mで日本初の優勝を果たして以来、12年ロンドン五輪や世界選手権の代表になり、4×100mリレーの主力選手になった飯塚だが、15年には右ハムストリングの肉離れという大きなケガを経験した。その影響もあって16年からは前半をコンパクトな走りに変えていた。

「ケガをしてからは、大きな動きへの怖さもあり、ピッチ(足の回転数)を意識したコンパクトな動きをするしかないと思っていました。僕の場合、走りを変えられるというのが、メリットでありデメリットでもあるんです。その走りだと条件がいい時は20秒11までいけましたが、調子によるタイム差が激しすぎるんですよね。練習でもストライドの大きな走りをすれば同じタイムで何本もいけるんですが、ピッチを意識すると同じように走れないので、それと同じだと思います」

 そんなコンパクトな走りから、大きな走りへと変えるべく、シーズンオフに入ってからは、自分の弱点である上半身強化に取り組んでいる。

「下半身の強さには自信があるけど、上半身は恥ずかしくて人には言えないくらい弱い。身長も186cmあるのに、170~175cmの人と同じくらいのパワーしか出せないんです」と苦笑する。

 ただ、そう言いながらも、今取り組んでいる上半身強化の成果は徐々に現れてきている。

「フォームも上半身を強化して、これまで振れていなかった腕をしっかり振るようにするという程度ですが、この冬はスピードを上げた練習に取り組み始めました。これまでは、ケガを恐れてあまりスピードを上げずに8割くらいの感覚で終わるようにしていて、試合だけ全力だったんです。

 でも今は、週3回くらい全力で走る練習を入れたり、常にスピードを求める練習を計画的にやっているので、前半の走りも自然に大きくなっていると思います。2月から1カ月間メキシコで行なった高地合宿では、気圧が低い中でスピードを求めるものだったので、その時の動きを大事にしてやるようにしています」

 春先には腸腰筋の張りが出て5月3日の静岡国際陸上を欠場したが、それも飯塚は「スピードを上げて大きな動きができているというポジティブな疲労だと思う」と捉えている。

 今シーズン初レースだった5月20日のゴールデングランプリ大阪でも、いい兆候は見えていた。後半の練習まではできていなかったために最後は失速して20秒75で8位という結果だったが、前半の走りは昨シーズンとは違う大きな動きになっていた。その後も6月の中央大記録会で今季日本ランキング1位の20秒54を出した。

「あれ(中央大記録会)も布勢スプリントの6日後だったので、そんなに調子がいいというのはなかったので、内容としては理想にはまだ全然という感じでしたね。でも、これでピーキングをうまくできて全身の可動域が広がってくれば変わると思うので、手応えは感じています。

 ただ、僕はひとりで練習をしていることが多いので、本番になると『自分はどのくらいで(前に)出られるんだろう』と考えてしまう。それがよくないのでしょうね。常に強い選手と一緒に練習をしていれば『これでいいんだ』と思えるけど、僕はまだそれを固めきっていない。

 それでも今年は、今までより力を使えるようになったというか、大きな走りで速いスピードでいけている感覚はあるし、『いけそうだな』というくらいのところまできているので、あとはそれを試合でやるだけだと思っています。その意味では日本選手権が楽しみだし、殻を破るようなレース展開ができればいいと思います」

 3度目の優勝を狙う日本選手権の200mには、桐生もエントリーしている。前半から突っ走るだろう桐生を目標にすれば、飯塚もこれまでとは違うレースができるだろう。その戦いに向けての目標は、予選と決勝の2レースを20秒2~3で揃えることだと話す。

「19秒台はもちろん一番に出したいけど、タイムというのは『出したい!』と思うとヒューッと逃げていってしまいますからね(笑)。ベストを出した時もタイムをまったく考えないで走って、優勝したあとで見たら20秒11だったので。だから19秒台というのは練習のエネルギーにするだけで、やらなければいけないのは今の練習を継続することだと思います。今年は故障もあった影響でそんなに練習ができていないので、その状態で20秒2~3が出れば19秒台にも進んでいけると思う」

 飯塚の今季最大の目標は、8月のアジア大会で優勝することだ。だがアジアにもライバルはいる。19秒97のアジア記録を持つフェミ・オグノデ(カタール)は同い年の選手で、ゴールデングランプリで自己記録の20秒16で2位になり、6月19日には100mで9秒97を出した謝震業(中国)は2歳下の選手だ。

「彼らがいるのは刺激になるけど、日本にもハキームだけではなく年下の選手がいっぱいいるので、その中でちゃんと結果を出していかなければいけないですね。だから本当にやりがいがあります」と笑顔を見せる飯塚。そのためにも日本選手権を、その第一歩にしなければいけない。

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