これだから、サッカーは面白く、そして怖い。 日本は、昨年9月のワールドカップ出場権獲得以降、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督のもと、本大会へ向けて強化を続けてきたが、勝利どころか、得点を挙げることすらままならず、今年4月、ついに前監督…

 これだから、サッカーは面白く、そして怖い。

 日本は、昨年9月のワールドカップ出場権獲得以降、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督のもと、本大会へ向けて強化を続けてきたが、勝利どころか、得点を挙げることすらままならず、今年4月、ついに前監督を解任。西野朗監督が新たに就任し、ベテラン勢を数多く招集して再出発を図ったが、チーム作りはやはり付け焼き刃の感が否めなかった。

 ところが、だ。

 率直に言って、期待薄だったグループリーグ初戦で、日本はコロンビアを2-1で下した。4年前に1-4の完敗を喫した相手から、(あくまでも準備の過程から言うと)まさかの勝ち点3獲得である。

 先制しながら前半のうちに同点に追いつかれ、嫌なムードになりかけたが、後半にしっかりと勝ち越したのだから、価値ある勝利と言っていい。



大迫勇也の決勝ゴールで2-1と勝利した日本

 開始6分という早い時間に先制したことで、前半は「少し後ろに重心がいきすぎた部分があった」とキャプテンのMF長谷部誠。だが、後半は、「ボランチが少し前に出て、シンジ(MF香川真司)も、サコ(FW大迫勇也)も、我慢して(高い位置にポジションを取ることで)深みを作ることを意識した」という。

 その結果が、後半28分、CKから生まれた大迫の決勝ゴールである。長谷部が続ける。

「どこでチャレンジのパスやドリブル、スピードの変化を入れるかというのを、ハーフタイムにみんなで話していた。そこはリスク負っていこうよ、と。それがいい形でできたときは、チャンスになっていた。(CKにつながるシュートを放った)ヒロキ(DF酒井宏樹)も惜しかったが、それもサイドバックがあそこまで入っていったから。少しずつ(相手に)圧力をかけていけたんじゃないかとは感じる」

 長谷部が、「しっかりとハーフタイムに修正して結果を出せたのは、大きな前進」と胸を張れば、西野監督も「運動量も含め、ハーフタイムの修正力、対応力でコロンビアを上回れた」と選手を称えた。

 とはいえ、冷静に振り返れば、かなりの運が日本に味方してくれた試合でもある。

 試合開始早々の3分にして、何でもないロングボールから相手DFの軽率な対応に乗じて大迫が抜け出し、GKと1対1になるビッグチャンスを得た。

 FWなら絶対に決めてほしい場面ではあるが、一方で、これを大迫が決めていたら、日本に”1点を取るだけ”だった。

 ところが、大迫のシュートがGK正面をついたことで、はね返ったボールを香川がシュートするに至り、結果的にMFカルロス・サンチェスのハンドを誘った。日本は香川がPKを決めて1点を取ったうえに、カルロス・サンチェスをレッドカードによる退場へと追い込んだのである。

 サッカーでは、時に退場者を出したチーム、すなわち人数が少なくなったチームが、逆に攻勢に試合を進めるケースが少なくない。数的優位に立ったチームが攻めあぐみ、やることがはっきりと整理された相手に苦戦するというパターンだ。

 しかし、この試合は15時キックオフで気温は30度近くに達していたとあって、プレー環境としてはかなり厳しかった。ひとり少ないという状況は、コロンビアにかなりの負荷を与えていたはずだ。実際、コロンビアは後半に入ると、引いて守りを固めるようになり、「引き分けでOK」の雰囲気を漂わせた。

 後半の、特に60分を過ぎたあたりから、日本が敵陣深くまで攻め入る回数が増え、そのなかで決勝点が生まれたのは事実だとしても、ひとり多いアドバンテージが日本に落ち着いてゲームを進めさせてくれた。その側面があることも否定できない。

 長谷部も「後半は何度かチャンスができたが、これが11対11になったときにどれだけできるか、というところは冷静にやっていかないといけない」と話しているとおりだ。

 また、西野監督が「すべては初戦」と語り、ここに照準を合わせて準備してきたコロンビア戦だったが、必ずしも事前のスカウティングに沿ったゲームプランを完璧に遂行できたわけでもなかった。

 例えば、コロンビアのエースストライカー、FWラダメル・ファルカオは、「(相手DFと)全然当たっていなくても(ファールをもらうために)倒れるから気をつけろと言われていた」(DF昌子源)という。だが、コロンビアの同点ゴールとなったFKは、まさにそのファルカオの演技力にまんまとしてやられたものだ(浮き球を長谷部と競り合った際にファルカオが倒れ、ファールの判定となったが、映像を見ると明らかにノーファール。長谷部によれば、主審は試合後に”誤審”だったことを認めたという)。

 しかも、そのFKにしても、ジャンプした壁の下を狙ってくることはスカウティングでわかっており、「ミーティングで、そんなに(下をボールが抜けるほど)高く飛ばなくていいと言われていた」(昌子)にもかかわらず、壁の下を抜かれた失点だった。

 さらに言えば、コロンビアの攻撃の中心、MFハメス・ロドリゲスは「ケガか何かで最初から出ていなかったんだろうが、ブンデスリーガで見る本調子には程遠いかなという感じだった」(長谷部)。日本にしても重心がどうこうという以前に、つなぎのなかでイージーなパスミスがかなり目立つなど、眉をひそめたくなるようなプレーも少なくなかった。

 開幕からここまで波乱傾向が強い今大会だが、ドイツを破ったメキシコや、アルゼンチンと引き分けたアイスランドなどと比べると、日本のアップセットはかなりの幸運に支えられた感が強い。

 決勝トーナメント進出へ向け、日本は大きなアドバンテージを手にした。だが、「これでイケる!」と前のめりになれるほどの充実感はなかったというのが、正直なところである。