2004年にフェニックス・サンズでプレーした田臥勇太に続き、日本人史上2人目のNBAプレイヤーは誕生するのか――。 ジョージ・ワシントン大を卒業した渡邊雄太が、最大目標であるNBAへの挑戦を本格的にスタートさせている。5月21日のブル…

 2004年にフェニックス・サンズでプレーした田臥勇太に続き、日本人史上2人目のNBAプレイヤーは誕生するのか――。

 ジョージ・ワシントン大を卒業した渡邊雄太が、最大目標であるNBAへの挑戦を本格的にスタートさせている。5月21日のブルックリン・ネッツを皮切りに、全部で8チームのドラフト前ワークアウトに参加。カレッジ4年時にはアトランティック-10(A-10)カンファレンスのの最優秀守備選手に輝いた自慢のディフェンスをはじめ、その能力をNBAの関係者にアピールしてきた。



ジョージ・ワシントン大での活躍から、NBA入りが期待されている渡邊雄太

 6月上旬にはイタリアで開催されたNBAグローバルキャンプ(有望なインターナショナル選手を集めたワークアウト)にも参加するなど、約1カ月にわたって極めて濃密な時間を過ごしたことは間違いない。

 18日、フィラデルフィア・76ersのワークアウトを終えた渡邊にじっくりと話を聞いた。ハードスケジュールゆえに激しい疲労を感じさせたが、その表情、口調には自信がみなぎっていた。21日に開催されるドラフトでの指名があるかは微妙な状況だが、指名の有無に関わらず、今後への手ごたえは確実に感じているようだった。

――76ersのワークアウトはいかがでしたか?

「シューティングドリルから始まったんですけど、その時はシュートはよく入っていました。ハーフコートでも、いい感じでスリーポイントを決められました。ただ、最後にフルコートで3on3をやった時はもう足が動かなくなっていましたね」
――NBAの元オールスターで、現在は76ersのGリーグ(将来のNBA選手を育成することを目的としたリーグ)チーム、デラウェア・ブルーコーツのGMを務めるエルトン・ブランドも「印象的なプレーをしていた」と言ってました。そう言われるくらいだから、納得できる内容だったのでは?

「うーん、納得とまでは言えないですけど、まずまずといったところ。それなりにという感じです」

――76ersが8チーム目ということで、これでドラフト前のワークアウトは終了ですか? 

「 終了です。やっとです、本当に(笑)」 

――最初のネッツとのワークアウト後にも話を聞かせてもらいましたが、その時と比べてだいぶ消耗した感がありますね。  

「8チームというのは数自体はそんな多いわけではないですけど、ただ、(先月29日に)ロサンゼルスで”プロ・デー”(注)があって、イタリアでNBAグローバルキャンプがあって、というふうに進んできたんで移動が大変でした。ウィザーズから”プロ・デー”までは1週間くらいあったんですが、”プロ・デー”からイタリアを終えた後は、1日おきくらいのペースでワークアウトだった。さすがにちょっときつかったですね」

(注)渡邊が契約しているエージェント会社、ワッサーマンが主催した公開ワークアウト

――おそらくこれまでの人生でもなかったくらい濃密な時間を過ごしたのではないかと思いますが、この期間を振り返ってどう感じますか? 

「大変だったとは言いましたけど、やはりこういう機会は普通はなかなか与えてもらえないですし、すごく価値のある1カ月だったなと思います。まずはスケジュールを組んでくれたエージェントに感謝したいです。そして、僕を受け入れてくれたNBAのチームにも本当に感謝しています」 

――ネッツ、ワシントン・ウィザーズ、アトランタ・ホークス、オクラホマシティ・サンダー、インディアナ・ペイサーズ、フェニックス・サンズ、ゴールデンステイト・ウォリアーズ、そして76ersとワークアウトしましたが、印象に残ったチームは? 

「ネッツではかなり出来がよかったですし、しかも一番最初だったということで印象に残っています。最初がよすぎたんで、その後は”もっとできたな”と感じることも多かった。あと、ペイサーズのときも自分の中ではかなりいいプレーができました。納得できたのはネッツ、ペイサーズのワークアウトです」

――76ersの2日前には、2年連続NBA王者のウォリアーズのワークアウトにも参加したんですね。 

「スティーブ・カーHCは(施設内には)いたんですけど、ほとんど関わっていなくて、その場にはいなかったですね。ウォリアーズというより、Gリーグのコーチ陣がワークアウトの指揮を執り、その横でNBAのコーチ陣が見ているという感じでした。ウォリアーズのときは、うーん……まあまあの出来でした」 

――サンズでは日本人唯一のNBAプレーヤー、田臥選手のことを聞かれている映像をネット上で見ました。  

「田臥さんのことを質問されたのはその時だけですが、『NBA選手になれば日本人史上2人目ですが』といった感じのことは他のチームでも聞かれることがありました」 

――渡邊選手といえばやはり去年のA-10カンファレンスで最優秀守備選手に選ばれたほどのディフェンスが売りですが、これまでのワークアウトを振り返り、他にアピールできたと感じる部分は? 

「プレーの多様性ですね。攻守両面でいろんなポジションができて、いろいろなことがこなせるというのはどのチームでもある程度は評価してもらえました。それから『バスケットボールIQが高い』と毎回のように言ってもらえたので、そこは自信を持っていい部分かなと思います」

――また、サンズの時は3分ラン(コート上で3分間ダッシュし、往復の回数を争うサンズ恒例の体力テスト)で最多タイ記録を出したことも伝えられました。 

「始める前に29本が最高記録だと聞いて、29本は間違いなくいけるという自信がありました。30本を目指してやって、実際に最初の2分は凄くいいペースだったので、周りのコーチたちも横で『記録が出せるぞ』って言ってくれていたんです。ただ、最後の1分で思ったより足が動かなくなり、29本と半分を走ったところでタイムアップになってしまいました。もっとできたと思うので、あれは悔しかったですね。ただ、いろいろな場所に移動してのハードスケジュールのなかで、(疲労があるなかでも)タイ記録が出せたのは自分でも及第点かなという感じです」

――イタリアのグローバルキャンプでは世界各国のプロスペクトたち、NBAチームのワークアウトでは主にアメリカ国内の有望株といったように、本当に多くの選手たちと同じフロアに立ちました。どんなレベルでも通用するという自信を持つことができたんじゃないですか? 

「 僕もワークアウトに呼ばれているので”ドラフト候補”というくくりには入るんでしょうけど、”ドラフト指名確実”と言われている選手たちと同じように動いてきました。ヨーロッパでも注目されている選手たちと一緒にプレーして、通用していた部分はたくさんあったはずです。まだまだ成長しなきゃいけないとも思いましたけど、自信につながった1カ月だったのは間違いないです」

――ワークアウトをこなす過程で課題として見えてきた部分は? 

「フィジカルの強化はずっと言われていることなので、ここであらためて言うまでもないですよね。あとはボールハンドリング。これもフィジカルとつながってくるんですけど、バンッと当たられた時にボールさばきが疎(おろそ)かになることが多かった。当たられても体の力でキープできるくらいのハンドリングを身につけていかないといけません。ミスにならないにしても、当たられた時にリズムが崩れたことがあったので、そこは修正していきたいです」

――NBAの練習施設を使用してのワークアウトで、ネッツの時はジェレミー・リン、ウィザーズのときはジョン・ウォールのような有名選手たちと触れ合う機会があったようですね。他のチームの選手とも接触しましたか? 

「ウォリアーズのときはドレイモンド・グリーンがいて、自己紹介だけしました。思ったより背が高くてびっくりしましたね。身長は2mくらいかなと思ってたんですけど、それより6、7cm高いんじゃないかと。身体はもともとデカいのはわかっていたんですけど、背もこんなに大きいんだって思いましたね。

 あとはペイサーズのロッカールームを使っているときに、ランス・スティーブンソンとも一緒になりました。アトランタでは僕たちのワークアウトの後にホークスが練習していたんで、しばらく見ることができました。そんなところですかね」 

――NBAドラフトは21日に迫っていますが、以前は「僕がドラフトにかかる確率はほぼない」と話していました。多くのワークアウトをこなし、現時点での感触はどうでしょう? 

「今でもそこはこだわっていないです。万が一、指名の可能性があるとしても、全体55位から後とか、2巡目のかなり下位の順位になりますよね。ずっと言っていることですけど、僕の目標はそこではありません。目指すのはその後のサマーリーグと、NBAのトレーニングキャンプ。ドラフトされようがされまいが、やることは変わりません」

――NBAではドラフト2巡目で指名されてもNBA入りが確約されるわけではなく、チーム側に交渉権が確約されるだけですからね。渡邊選手もドラフトでどうなろうと、サマーリーグで活躍し、NBAのトレーニングキャンプに行き、そのままロースター入りしたいと以前から話しています。

「はい、そうやってチームに残るのが理想の流れです。サマーリーグが始まってしまえば、ドラフト1巡目指名だろうが、ドラフト外だろうが、関係なく同じコートに立ってプレーすることになります。ドラフトはあまり気にせず、サマーリーグに向けてしっかり体を作っていこうと思っています」