変わったものと、変わらないもの――。 日本代表監督に就任して以来、西野朗監督は10度、記者会見に臨んでいる。日本代表就任会見と2度のメンバー発表会見、テストマッチ3試合の前日・試合後の会見と、そしてこの日、コロンビア戦の前日会見である…

 変わったものと、変わらないもの――。

 日本代表監督に就任して以来、西野朗監督は10度、記者会見に臨んでいる。日本代表就任会見と2度のメンバー発表会見、テストマッチ3試合の前日・試合後の会見と、そしてこの日、コロンビア戦の前日会見である。



前日会見でも変わらずポーカーフェイスな西野朗監督

 変わらないのは、ポーカーフェイスだ。本音を語っているようで、煙に巻いているようでもあり、何を考えているのか今ひとつ掴めないところがある。

 一方、変わったのは、会見の内容だ。コロンビア戦の前日会見はこれまででもっとも簡潔で、わかりやすく、歯切れがよかった。

 おそらくそれは、翌日の大一番に向けて、頭のなかがクリアになっているからではないか。準備期間について訊ねられた指揮官は、「4年間、準備をされてきた監督と、私は1ヵ月の準備というところで、時間の差を感じたら勝てないと思います」ときっぱり言うと、「選手たちとコロンビアを倒すための準備、これは十二分ではないが十分だった」と続けた。時間は限られていたが、その時間のなかでやれることは十分やったということだろう。人事を尽くして天命を待つ――そんな心境だったのかもしれない。

 会見を終えたあと、西野監督はわざわざマイクのスイッチを入れて、「スパシーバ(ロシア語でありがとう)」と言って、わずかながら笑みを見せた。そこには、これまでに感じられなかった「余裕」がうかがえた――。

 いよいよ決戦のときが迫ってきた。コロンビアは言うまでもなく、4年前のブラジル大会で1−4と大敗した因縁の相手である。

 簡単な相手ではない。そもそもワールドカップは甘くない。それは大前提として、日本の仕上がり具合は良好だ。

 西野監督は「選手のよさを引き出したい」ということで選手間のディスカッションを奨励し、「できる限り可能性を探りたい」ということでメンバーを固定せず、最適の布陣、最適の組み合わせを模索していた。

 6月8日のスイス戦のころには戦い方に関する意見がバラバラだったが、6月12日のパラグアイ戦を経て、ここにきてゲームプランや戦い方がひとつの方向へと集約されてきた。

「ここというところで全員が前に力をかけられるかどうか。どうしても比重は後ろになると思う。それでもコンパクトな中でボールを奪いにいけるのか、ブロックを作りながらも前に出ていけるのか。そこで勇気を持ってエネルギーを使えるかどうかが非常に大事になってくると思います」

 最終ラインを束ねる吉田麻也がこう言えば、右サイドハーフとして先発濃厚の原口元気はこう語る。

「チームのためにやって、サイドバックに走り勝って、逆サイドのボールに入って、っていうことを何度も、何度も繰り返して、1本でも合わせるとか、そういうところが勝負になると思う」

 いかに粘り強く、泥臭く戦い、コロンビアをいらだたせることができるか――。

 おそらくスタメンは、GK=川島永嗣、DF=酒井宏樹、吉田麻也、槙野智章、長友佑都、MF=長谷部誠、柴崎岳、原口元気、香川真司、乾貴士、FW=大迫勇也の11人だろう。

「スタートからリアクションサッカーというのは望みたくない」「ボールを十分保持できるし、攻撃を仕掛けられるという自信を選手に持たせたい」という西野監督の言葉を素直に受け取れば、長谷部のパートナーは山口蛍ではなく柴崎だろう。マンマークでは対応できないと指揮官が認めた相手の10番、ハメス・ロドリゲスを、長谷部と連係しながらゲームのなかから消せるかどうか。セットプレーも入念に準備しているため、柴崎はプレースキッカーとしても重要な存在だ。

 前日会見でコロンビアの欠点について訊かれた長谷部は、「欠点はないと思います。完成されたチームで隙がない。欠点があっても言えないですが」と言葉をにごしたが、数少ない欠点のひとつが右サイドだろう。

 南米予選でレギュラーだった左サイドハーフのエドウィン・カルドナは素行不良のため最終エントリーから外れ、左サイドバックのフランク・ファブラは負傷のため離脱した。対面の原口は、「すごく分析している。ずっと出ていた選手がいないのは、僕にとってチャンス」と自信をのぞかせる。酒井宏樹とのコンビで、このサイドの主導権を握りたい。

 ワールドカップの初戦を控え、選手たちの言葉からは「覚悟」が伝わってくる。

「すべてを出し尽くしたい」と語った吉田は、出し尽くすために必要なものとして、まさにその「覚悟」を挙げた。

「日本サッカーの人気を左右するんじゃないか、サッカーに携わる仕事をしている人たちの人生にも関わってくるんじゃないか、ということに、ひとりひとりが責任を持ち、戦う覚悟ができているかどうかがすごく大事になると思います」

 ワールドカップ初出場となる柴崎の言葉からも、今大会にかける思いが伝わってくる。

「ここで勝つか負けるかは、日本サッカーにとっても、僕のサッカー人生にとっても、大きく変わる部分があると思う。それほど大きな大会だということは自覚しています」

 本田圭佑も、集大成となる3度目のワールドカップにすべてをぶつけるつもりだ。

「ここまで来たら開き直るしかない。チームとしてとにかく全部出す。出し切る。それはただの根性っていうだけじゃなくて、ロジカルな部分を含めて全部出し切る」

 選手たちのこうした覚悟を間近で感じているから、指揮官も強気の姿勢を保ち、自信をみなぎらせているのだろう。

 ブラジル・ワールドカップでの惨敗から4年、2度の指揮官交代という紆余曲折を経て、ついに迎える因縁の相手とのワールドカップ初戦。キックオフから約2時間後、果たしてどのような結末が待っているだろうか。願わくば、悔いを残さぬ戦いを――。