蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.25 2017-2018シーズンが終わり、いよいよ4年に一度のフットボールの祭典、FIFAワールドカップがロシアで開催される。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたち…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.25
2017-2018シーズンが終わり、いよいよ4年に一度のフットボールの祭典、FIFAワールドカップがロシアで開催される。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。
今回のテーマは、W杯で日本代表が入ったグループH展望。西野朗監督が率いることになったチームは、どんなフォーメーションで、どのように守り、どう攻めるのか? コロンビア、セネガル、ポーランドに穴はあるのか? ワールドフットボール通のトリデンテ(スペイン語で三又の槍の意)が分析します。
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倉敷 今回は、僕らの代表が戦うグループHを展望します。初戦の相手コロンビアを小澤さんはどう分析していますか?
小澤 このグループHで、最も選手層が厚いチームですね。ホセ・ペケルマン監督は2012年から指揮を執っていますが、その間に選手を入れ替えながらも、チームの骨格はブレていません。基本的には4バックを採用していて、ハメス・ロドリゲスをどこのポジションに置くかによってシステムも変わります。
ハメスをトップ下にして、ボランチにアベル・アギラールとカルロス・サンチェスを使うなら4-2-3-1、ボランチを1枚にした場合は4-1-4-1。しかし、システムが変化しても彼らの戦術的なベースやスキームは確固たるものがあって、大きく崩れるようなことはありません。
ただ、センターバックのところが少し穴になっていると思います。特にCBからの配球が不安定で、クリスティアン・サパタやジェリー・ミナなど、所属クラブで満足なシーズンを送れてない選手がメンバーに選ばれています。日本としては、うまくダビソン・サンチェスではないCBのところに誘導してボールを奪えれば、カウンターを狙うことができるのではないでしょうか。
中山 心配なのは、日本は南米のチームを苦手としている点でしょうか。彼らは試合中に予想外のことが起こっても、その状況によって修正する判断力を持つ選手が揃っています。
それと、日本の最終ラインの選手は、ラダメル・ファルカオ、ハメス、ファン・クアドラードのような狡猾なアタッカーたちの駆け引きに負けてしまわないように気をつけなければいけません。
このような要素を考えると、やはり日本にとっては今回対戦する3チームの中でも最も難しい相手だと思います。
12日のパラグアイ戦は勝利した日本代表だが...
倉敷 南米のアタッカーを苦手とする日本。代表的な例がブラジルのネイマールのアプローチです。4回の対戦で8ゴールとお得意様にされていますが、いつも点の取られ方が同じなのが癪(しゃく)です。
目の前にボールをさらされると日本のDFは飛び込まずにブロックを作るだけなので、個人技で上回る選手はイニシアチブを得て、楽々と攻略してしまうわけです。コロンビアも日本DF陣には同じ印象を持っているでしょう。ボールを奪い返さなければ相手の攻撃は終わらない。小澤さん、南米勢にはどのような対策が必要でしょうか?
小澤 基本的にはきちんと1対1を作って対応することが前提になるでしょうね。ただ、自分たちの想像を超えたプレーをされた時にどうするのかという問題が出てきますから、その場合を想定して、きちんと自分のエリアにおいては1対1でマークする相手にタイトに付くという方法が、僕は日本人選手には合っていると思います。
できるだけ引いて守って、というやり方だと、カウンターを狙っても距離が長く成立しにくいですし、勝ち点1を獲得することさえ難しいのではないでしょうか。
やはり相手のCBが狙い目だと思うので、両SBができるだけ高い位置をとって、CBの2人に対して高い位置からプレスをかけて、ショートカウンターからゴールを目指すような戦いに持っていってほしいと考えています。
倉敷 中山さんはどう考えていますか?
中山 小澤さんと同じで、僕も5バックにして引いて守るという方法では、日本は最後まで守り切れないと思っています。ですから、難しいことだとは思いますが、できるだけ自分たちのゴールから遠いエリアでプレーしなければいけません。そのためには、なるべく長い時間、コンパクトな状態を保てるかがカギになるでしょう。
そう考えた場合、システムは3列を保ちやすい4-4-2にするなどの工夫をして、相手のCBがビルドアップを開始するところからプレスをかけて、スペースを与えないというやり方がベターなのではないでしょうか。
倉敷 サイドの選手の強度が重要ですが、インテル時代に長友佑都とチームメイトだったエステバン・カンビアッソがコーチングスタッフに加わったことで、コロンビアが長友のいるサイドをどう警戒し、攻略しようと作戦を練るのかは興味深いですね。
何事においても真摯なペケルマン監督は日本に対して、経験と技術を持った良いチームだ、とコメントしています。コロンビアを指揮するのは熱いモチベーターではなく冷静沈着な監督ですね。
中山 たとえばブラジル、アルゼンチンなど、あくまでも優勝を目指してコンディションを調整してくる強豪であれば、日本に対して少し油断をしてくれるかもしれないという期待も持てるのですが、コロンビアの目標はまずグループリーグ突破と考えているようなので、間違いなく高い集中力で初戦に臨んでくるでしょう。
これはセネガルやポーランドも同じですが、今回の対戦国については、油断してくれることを期待できそうにないので、日本もそのつもりで立ち向かっていく必要があります。
倉敷 では、セネガルについて。中山さんからお願いします。
中山 この試合も、日本が苦手なアフリカ勢との対戦ということになりますね。まずセネガルについては、エースのサディオ・マネを筆頭に中盤から前線の駒が豊富だという点を押さえておく必要があります。
彼ら特有の身体の使い方やスピードが要注意になりますが、その一方で、マネ以外のアタッカーはシュートが雑な面もあります。もちろん想定外のスーパーゴールを決めることもよくあるのですが、フィニッシュが決まらない試合は本当に決まりません。
そういう点でいうと、まずはマネをしっかり抑えることを考えつつ、粘り強いディフェンスをすることが大事になると思います。いいかたちでシュートを撃たせなければ、枠を外してくれる可能性は意外と高いのではないでしょうか。
倉敷 小澤さんはセネガルをどう分析していますか。
小澤 それほどオーガナイズの部分は細かくないので、基本的には個の能力を生かして向かってくると思います。そうなると、中盤を省略してロングボールが多くなってくるでしょうから、セカンドボールがカギになると思っています。
その点では、中山さんがコロンビア戦の話で触れたように、日本としてはできるだけコンパクトにして、味方との距離を縮めた中で、うまくオフサイドを使いながら対応していく必要があります。
倉敷 「アフリカの選手は球際で最後のひと伸びがある」という証言は、多くの代表経験者から聞かれます。1対1でボールを奪うのは難しいし、もしセカンドボールを拾うスペシャリストを置かないなら、日本は相手を諦めさせるまで、できる限りの数的有利を作り続けなければならないわけですね。
中山 とにかくアフリカ勢については対策が難しいですね。3チームの中では最もコンパクトな状態を保ちにくい相手だと思います。先日のガーナ戦を見てもわかるように、プレッシャーがかかれば普通に長いボールを多用してきて、そうなると相手のFW陣にスピードがあるので最終ラインがどうしても下がってしまい、コンパクトな状態を保てないという懸念があります。前線の大迫が孤立してしまわないような、緻密な戦略が必要になるでしょう。
倉敷 アフリカ勢はメンタルがチームに半端ない影響を与える傾向があるので、絶対に先制点を許してはいけません。気分が乗るといくらでも点を取りにきます。しかし、一方でいつまでも点が取れなければ集中力を奪うことも可能です。彼らができるだけイヤな気持ちになるように、相手の嫌がることをたくさんすることが大事です。
中山 絶対に乗せてはいけませんね。たとえば、現在アミアンというフランスのチームでプレーしているFWムサ・コナテなどはその典型です。あるゲームではまったくシュートが決まらないと思って見ていたら、パリ・サンジェルマンやマルセイユのようなビッグクラブとの試合では別人のようなプレーで複数ゴールを決める。そういう試合では手がつけられない選手になるので、イライラさせることも重要になると思います。
倉敷 2002年W杯のキャプテンだったアリュー・シセが監督です。あの時のセネガルは開幕戦でフランスを破って勢いに乗り、ベスト8まで勝ち上がりました。
中山 シセ監督は、その時に4-1-4-1のアンカーでプレーしていましたね。また、シセがセネガルの年代別代表監督を務めた時代の選手が現在の主力になっているため、アフリカ勢にしては珍しくまとまりがあるチームになっています。個人の能力に加えて、組織力という点も侮れないと思います。
倉敷 それでは、ポーランド戦に話題を移します。ポーランド国内では肩を痛めて出場が危ぶまれているセンターバックのカミル・グリクのコンディションが一番の注目を集めています。小澤さん、もし彼が不在なら監督が描くプランも違ったものになりますか?
小澤 違ってきますよね。最終ラインでの安定感、ボールを跳ね返す能力、そしてリーダーシップと、このチームの大黒柱ですからね。もし本当に彼が離脱することになった場合、ポーランドにとっては大きなダメージになると思います。
倉敷 日本のメディアがロベルト・レバンドフスキの話題に集中するのは当然ですが、実はグリクのコンディションこそが重大なポイントです。中山さんは、ポーランドをどのように見ていますか?
中山 そもそもこのチームが強くなった背景には、センターラインがしっかりしているという部分があります。CFのレバンドフスキ、MFのグジェゴシュ・クリホビアク、DFのグリク、そしてGKのヴォイチェフ・シュチェスニー、もしくはウカシュ・ファビアンスキと、チームの柱がしっかりしていました。
ところが、最近はクリホビアクが所属クラブのウェストブロムで出場機会に恵まれていなかったり、ここにきてグリクがケガをしてしまったりと、その屋台骨が揺らいでいます。チームとしてもピークを過ぎた感じがあって、以前と比べるとFIFAランキングも下がっていますし、日本にもチャンスがあると思います。
小澤 注目は、アダム・ナヴァウカ監督が4バックを使うのか、3バックを使うのか、という部分ですね。予選中は4バックでしたが、昨年11月からは3バックをテストし続けています。4-4-1-1なのか、4-4-2なのか、3-4-2-1なのか。グリクのケガもあるので、蓋を開けてみないとわかりません。
それと、チーム状態が下降気味の中、シーズン終盤からエースのレバンドフスキも調子を落としているようにも見えます。日本が付け入るスキは十分にあると思います。
中山 ポーランドのピークは、ベスト8に駒を進めた2年前のユーロ2016でしょう。あの時のポーランドはセンターラインがしっかりしていて、ソリッドな4-4-1-1が抜群の安定感を誇っていました。現在は、あの時代の貯金を使い果たしている状態かもしれません。
倉敷 親善試合のチリ戦はサイドからの攻撃は活発、ただ守備にはいくつもの課題を残していたという印象を持ちました。では、グループH、4チームの移動距離です。まずソチでキャンプを張るポーランドは7106キロ、カルーガを拠点とするセネガルは6569キロ、カザンを拠点とする日本は4767キロ、そして日本と同じカザンでキャンプを張るコロンビアはたったの1864キロ。これは出場32チームの中で最短の移動距離です。
最後に、僕らの日本代表にエールを送って結びましょう。
小澤 初戦がすべてだと思うので、まずはコロンビア戦で何としても勝ち点1は拾ってほしい。基本的に他国ではこのグループを「3強1弱」と見ていますので、それを覆すためには、まずコロンビア戦で勝ち点を手にすることが必要になります。初戦で負けてしまうと、そのままズルズルといきかねないですしね。失うものは何もないので、とにかく思い切ってやってほしいと思います。
中山 同じく、まずは初戦ですね。ここで負けてしまうと、メンタル的にそこから這い上がるのは難しいので、勝ち点1でもいいんですが、できれば3を取りにいくつもりで初戦を戦ってほしいです。後先のことを考えないで、とにかくそこで勝負をかけるという気持ちで。
もし初戦で勝ち点1あるいは3が取れれば、2戦目を落としたとしても、最後のポーランド戦に可能性が残ります。2010年南アフリカ大会の3戦目、デンマーク戦がまさにそういう状況でしたけど、同じようなことが起こるかもしれません。
倉敷 僕は、シンパシーを感じる日本代表であってほしいと願っています。どんな結果でも「僕は、私は、この代表が好きだ」と思わせてほしい。
「こうやったらもっとやれるのに」という気持ちがみんな強くて、一生懸命応援したいのに、すべてを賭けてやっているようにはまだ見えていない。もちろん、現在の一生懸命に嘘や偽りはないのですが、心を打つゲームは、また別の、その限界を超えたところにあるのだと思います。
全力で応援してよかった、これが僕らの代表なんだ、とシンパシーを感じられる戦い方をしてくれたら、それで満足です。
小澤 今回、一連の監督人事をネガティブに受け止めてしまい、それについて怒っている人は多いと思うんですけど、間違いなく選手たちはそういうシンパシーを感じさせてくれるような戦いを全力でしてくれるでしょうから、そこに関しては我々も混同することなく割り切って応援したいですね。
中山 日本の過去の成績を振り返ると、1998年フランス大会がグループリーグ敗退、2002年日韓大会が突破、2006年ドイツ大会が敗退、2010年南アフリカ大会が突破、2014年ブラジル大会が敗退。となると、今大会は順番的には突破することになりますからね。あとは、神頼みも大切ですかね(笑)。
倉敷 そう、身の回りでできることは全部やらなければ駄目ですね。webスポルティーバも、いろんなことがどれも楽しい時間だったね、と思えるようにロシアW杯をお伝えしますので、これからもよろしくお願いします。
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