「NASCAR」というレースをご存知だろうか。日本ではあまり知られていないレースだが、アメリカでは最も人気のあるモータースポーツだ。 ディズニー/ピクサーの大人気映画「カーズ」は、NASCARがモデルとなっている。それだけアメリカでは、こ…

「NASCAR」というレースをご存知だろうか。日本ではあまり知られていないレースだが、アメリカでは最も人気のあるモータースポーツだ。

ディズニー/ピクサーの大人気映画「カーズ」は、NASCARがモデルとなっている。それだけアメリカでは、このレースが国民的モータースポーツなのである。

では、「NASCAR」とはどんなレースなのか。アメリカン・モータースポーツのパイオニアとして、長年アメリカの地でレース活動を続けてきた服部茂章氏にその魅力を聞いた。

-NASCARの魅力

NASCARの魅力は、何と言っても「バトル」と「迫力」です。「オーバル」と言われる楕円形のコースを、シリーズによって違いはありますが、30台〜40台以上のマシンが平均時速300キロ超のスピードで一気に駆け抜け、コースの至るところで激しい戦いが繰り広げられます。マシンはハイブリッド化の進んだ他のシリーズと違い、厳しい規則により電子制御を極力抑えた古典的なアナログマシンに近付けています。タイヤもグッドイヤーのワンメイクのため、各チームともマシン性能の差がほとんどなく、チームのマシンセッティングとドライバーのテクニック、またレース中の各チームの戦略が勝敗を分ける、というところも魅力の一つです。最後のチェッカーまでどのドライバーが勝つか分からないエキサイティングなレースは世界で最も興行として成功しているレースシリーズで、常に観客に最高のショーを見せることを徹底しているところが、多くのNASCARファンから支持を受ける最大の魅力になっています。

-NASCARに挑戦したキッカケ

16歳でカートレースを始め、1994年フォーミュラトヨタでチャンピオンになり、翌95年から単身渡米しました。1998年には日本人で初めてオーバルレースでの優勝も果たし当初の目標だったインディ500にもチャレンジする事が出来ました。アメリカで過ごす時間が長くなるにつれアメリカの自動車文化のルーツであり、アメリカの最大のモータースポーツと言われているNASCARに、日本人として挑戦してみたいと思ったのがきっかけです。

-NASCARを日本でも広げるために、どんな取り組みを行っているのか

日本でのNASCARの知名度は低く、一部のコアなファンはいますが、まだまだ認知度に関しては発展途上です。少しでもNASCARの魅力、面白さを知ってもらえるよう、企業の入社式での実車の展示や各種イベント会場、全国のトヨタ販売店、ショッピングセンター等での展示を行っています。また、今シーズン2戦目で初優勝を果たした時のことを中日スポーツ新聞やその他のメディアで取り上げて頂き、そのお陰で多くの方の目に触れる結果となったことは、とても嬉しく思います。アメリカには私以外にも、NASCARのドライバーとして頑張っている日本人もいますので、今後は日本人関係者との連携を図り、様々なツールを利用してのイベントの開催を計画しています。もっと多くの人にNASCARを知ってもらえるよう取り組んでいきます。
日本でNASCARの知名度を上げる活動とは少し異なりますが、我々の取り組みの中でレース活動と共に力を入れている事がNASCARのレース活動を使った人材育成プログラムです。「NASCAR Mechanic Program」は全国のトヨタ販売店のサービスエンジニアを研修生として受け入れ、実際のレースに向けてのマシン製作や整備をHREのスタッフと一緒に行い、レースに参加します。この海外研修プログラムは、各販売店の優秀スタッフへの褒賞研修として多く利用され、昨年までに600名を超えるサービスエンジニアが参加しています。
また、2012年度より、東京・名古屋・神戸にあるトヨタ自動車大学校の学生に対し、3校合同での「NASCAR Challenge」と題した研修プログラムも行っています。各校より2名ずつ選抜された学生達が約2週間、アメリカに渡り、英語だけの環境の中でNTI(NASCAR Technical Institute・NASCARメカニック養成学校)でマシンの基礎を座学で学び、平行してタイヤ交換の技術を習得します。その後、HREのスタッフと共に作り上げたマシンで実際のレースに挑み、他のチームのプロのクルー達とピット作業を競い合います。この研修は「次世代のエンジニアを育てる」という他のチームにはないプログラムとして位置付けられ、NASAR協会も非常に注目しており、回を追うごとに協力体制が強固なものになっています。昨年度は初めて2名の女子学生が参加し、男子学生にも負けない動きで作業をして現地の注目を集めていました。
彼らは2週間という短い期間で、まず言葉の壁にぶつかりながら、コミュニケーションの大切さ、チームワークの大切さ、プロの厳しさを、身をもって体験し、大きな達成感と仲間との強い絆を感じながら、ひと回りもふた回りも大きく成長して帰国します。良く「若者のクルマ離れ」と言われていますが、研修に来る学生達はクルマが大好きな若者ばかりです。次世代のサービスを担う彼らに海外での貴重な経験の場を提供し、エンジニアとしての学習意欲を引き出し、優秀な人材を育成するためのプログラムとなるよう、今後も継続して行きたいと思っています。

-今後の展望

まずは現在参戦中である「Camping World Truck Series(上から3番目)」のシリーズチャンピオンを目指します。チーム発足から10年が経ち、ようやくチャンピオンが狙える位置まで来ました。そして、ゆくゆくはNASCARの最高峰であるカップシリーズへの参戦を目指します。そのために、ドライバーやクルー、その他チームスタッフ全員の個々の力量を上げ、常勝チームとなるよう指揮していきたいと思います。

■服部茂章
1963年11月 3日生まれ 岡山県出身
1994年 フォーミュラ・トヨタ シリーズチャンピオン獲得
2005年 NASCARクラフトマントラックシリーズ参戦
2008年~ チームオーナーとしてARCA RE/MAXシリーズ参戦