【福田正博 フォーメーション進化論】 ロシアW杯がいよいよ開幕した。もちろん日本代表の戦いは気になるところだが、他の強豪国がどんなサッカーを見せてくれるかも楽しみでならない。 今大会で優勝候補の筆頭はブラジルだ。 4年前の自国開催の大会…

【福田正博 フォーメーション進化論】

 ロシアW杯がいよいよ開幕した。もちろん日本代表の戦いは気になるところだが、他の強豪国がどんなサッカーを見せてくれるかも楽しみでならない。

 今大会で優勝候補の筆頭はブラジルだ。

 4年前の自国開催の大会では、準決勝でドイツに1-7と大敗。準々決勝のコロンビア戦で腰椎(ようつい)を骨折したネイマールと、キャプテンのチアゴ・シウバを累積警告の出場停止で欠いていたとはいえ、ショックが大きい負け方だった。

 ロシアW杯でリベンジを果たすにあたって、世界最高クラスの右SBであるダニエウ・アウベスが膝のケガでメンバーから外れたことは痛手だ。だが、”チッチ”ことアデノール・レオナルド・バッチ監督のもとでシンプルなサッカーを徹底しているため、そこまで影響は出ないのではないかと思う。

 これまでのW杯の歴史を振り返ると、ブラジルが堅守速攻で戦った大会はいい成績を残している。FWのロマーリオとベベットを軸としたカウンターで得点を重ねた1994年のアメリカW杯、ロナウド、ロナウジーニョ、リバウドの「3R」を擁して臨んだ2002年の日韓W杯はいずれも優勝した。

 今大会も7人で守って3人で攻めるスタイルがベースになるだろう。そのカギを握る両SBは、右SBのダニーロは少し不安が残るものの、左SBのマルセロは好調だ。ブラジル代表でもレアル・マドリードでも、得点は左サイドから生み出されることが多い。逆に左サイドから失点する場面もあるが、得点を奪うという点において、マルセロがいることは大きい。

 そして、何といってもネイマールだ。2月下旬のリーグ戦で右足を故障し、手術を経て5月にようやく復帰。それでもW杯直前の親善試合で2戦連続ゴールを挙げており、グループリーグで試合をこなしていけば、さらに調子は上がっていくだろう。「ロシアW杯はネイマールのための大会だった」と言われるような、エースの大爆発に期待したい。

 他の南米勢では、ブラジルW杯の決勝でやはりドイツに敗れたアルゼンチンも期するものがあるだろう。2016年、2017年のコパ・アメリカでも2大会連続で準優勝に終わっているため、W杯では何としても優勝を手にしたいところだ。

 その壁を破るにはリオネル・メッシの活躍が必須となる。W杯期間中に31歳になるメッシにとって、今大会が選手として”脂がのった”状態で臨める最後のW杯。ホルヘ・サンパオリ監督が試行錯誤しながら構築してきた「メッシが輝くシステム」が機能するかどうかが運命を左右する。

 攻撃陣はメッシの他に、パウロ・ディバラ、ゴンサロ・イグアイン、セルヒオ・アグエロ、アンヘル・ディ・マリアといった大会屈指の豪華メンバーが揃っている。彼らがメッシ主体のシステムで本領を発揮できれば、圧倒的な強さで頂点まで上りつめることも十分にあり得る。

 そんなブラジル、アルゼンチンの両国にとって、”最大の敵”となるのはドイツだ。ドイツの強みは、シンボル的な選手が不在の「誰のチームでもない」ところにある。チームの核となる選手はいるが、その選手が欠けても若い選手が台頭してカバーするいい循環ができている。

 ひとりの選手に依存する戦い方もしていないため、どんな試合展開になっても隙を見せない。安定感という点でドイツを上回るチームはいないだろう。前回大会のブラジル戦のように、大差がついても一切手を緩めないところが、ドイツのメンタリティを表している。

 安定感の土台を支えるのはGK陣だ。マヌエル・ノイアーはケガ明けだが、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン、ケビン・トラップが出てもまったく遜色がない。世界で五指に入るGKをずらりと揃えていることは、間違いなく彼らのアドバンテージになっている。

 このドイツの他にヨーロッパ勢で上位にきそうなのはフランスだ。DF陣のリーダーとなっていたローラン・コシェルニーがアキレス腱の負傷でメンバーから外れ、SBもやや手薄な印象がある。しかし、CBや中盤は充実していて、攻撃陣はアルゼンチンに引けをとらないタレントが揃っている。

 アントワーヌ・グリーズマン、キリアン・ムバッペ、オリヴィエ・ジルー、トマ・レマル、ウスマン・デンベレ、ナビル・フェキル、フロリアン・トヴァン……。ビッグクラブのレギュラーとしてバリバリ働いている選手たちばかりで、誰を起用するのかを考えるだけで頭が痛くなるほどだ。

 ベルギーにもロメル・ルカク、エデン・アザール、ケヴィン・デ・ブルイネなど錚々(そうそう)たるメンバーがいるが、両国に共通しているのは、その選手たちがチームとして機能するのかということ。その点がドイツとの違いで、彼らが共存できるかどうかにすべてがかかっていると言っていい。

 チームとして機能するという点においては、トッテナムの選手を中心にしたメンバーで挑むイングランドに注目したい。

 イングランドはブラジルW杯も2016年のEUROも、予選を負けなしで通過して高い期待を集めながら、本大会では結果が出なかった。大舞台での弱さを払拭すべく、今大会は伝統の4−4−2ではなく3バックのシステムで臨むことが濃厚だ。

 トッテナム勢がチームの中心となり、そこにマンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッドの選手たちが加わる。若くて有望な選手が多いため、2020年のEUROや2022年のカタールW杯を見越した戦いになるだろう。

 ただ、今大会で躍進する可能性も大いにある。ハリー・ケインという絶対的なストライカーが好調を維持して大会を迎えるからだ。EURO2016では期待外れに終わったものの、プレミアリーグでは3シーズン連続で素晴らしい成績を残してきただけに、ロシアW杯では”内弁慶”の評価を覆してほしい。



6月3日のナイジェリアとの親善試合でもゴールを挙げたケイン

 個人的には、ケインのような生粋のストライカー、いわゆる「9番タイプ」の選手にも注目している。ケインの他には、ポーランドのロベルト・レヴァンドフスキ、コロンビアのラダメル・ファルカオもそれに当たる。

 メッシやクリスティアーノ・ロナウドも点は決めるけれど、彼らは本来サイドを主戦場にしていた選手で、生粋の9番とはいえない。サイドから局面を打開してゴールを決める選手が求められるようになったことで生まれた”時代が生んだストライカー”だ。ふたりが活躍したことで、ネイマール、アザール、ムバッペ、モハメド・サラーがそれに続いて存在感を示してきた。

 一方で「9番タイプ」の選手の特徴は、ペナルティーエリアからあまり離れずにポストプレーをするだけでなく、ゴール前へのパスにピンポイントで合わせて自らゴールを決めるところにある。CFが”サイド選手へのつなぎ役”という色が濃くなってきた現代に、再び「9番タイプ」が決定的な仕事をする試合が見てみたい。

“台風の目”を挙げるとすれば、ブラジルW杯で旋風を巻き起こしたコスタリカだろう。前回大会はウルグアイ、イタリア、イングランドとの”死の組”を1位で突破し、決勝トーナメントではギリシャを破ってベスト8に進出した。

 準々決勝でオランダには敗れたが、彼らのダイナミックなサッカーは間違いなくハイライトのひとつになった。そこでの活躍が契機となってレアル・マドリードに引き抜かれたGKのケイロル・ナバスを中心に、今大会も強豪国を脅かす存在になってほしい。

 他にも、ルカ・モドリッチ、マテオ・コヴァチッチ、イヴァン・ラキティッチという強力な中盤に加えてFWにマリオ・マンジュキッチが控えるクロアチア、EURO2016を大いに盛り上げた人口33万人のアイスランド、ルイス・スアレスとエディンソン・カバーニのいるウルグアイなど、楽しみなチームばかりだ。

 選手たちが母国の威信をかけて臨むW杯は、すべての試合にドラマがある。日本のファンも、日本代表以外の試合もチェックして、サッカーの醍醐味や面白さを味わってもらいたい。