「攻撃から守備に移る際のトランジションには改善の余地がある。日本はしばしば攻めに強迫観念が見られ、守備が疎(おろそ)かになっていた。そこは注意点だろう。しかし攻撃に関するスピード、テクニックのコンビネーションはレベルが高く、W杯でも十分…

「攻撃から守備に移る際のトランジションには改善の余地がある。日本はしばしば攻めに強迫観念が見られ、守備が疎(おろそ)かになっていた。そこは注意点だろう。しかし攻撃に関するスピード、テクニックのコンビネーションはレベルが高く、W杯でも十分にサプライズとなりうる」

 日本代表のパラグアイ戦をスカウティングしたミケル・エチャリは、課題を指摘しつつも、最大級の賛辞を送っている。
 スペインの”千里眼”エチャリは、90年代にはエイバルを率い、

「いい守備がいい攻撃を作る」という堅実な戦い方で成功を収めている。当時はセミプロに近い選手たちだったにもかかわらず、選手のよさを十分に引き出した。「戦えるチーム」というと抽象的だが、それをロジカルに作り上げる手腕を持っている。

 そのエチャリがコロンビアとの前哨戦、パラグアイ戦を検証した。



パラグアイ戦で2ゴールを決めて勝利をもたらした乾貴士

「日本はこれまでとはガラリとメンバーを変えている。テストの色が濃厚だった。もっとも、プレーコンセプトとしてはスイス戦と変わっていない。ボールをできるだけ繋げる、そういう意思をキックオフから示している。

 パラグアイは4-1-4-1で中盤を固め、慎重な守備的布陣だった。アンカーに入ったリカルド・オルティスは左利きで、他のパラグアイ選手と同じようにスピードはないが、フィジカルが強く、中心になっていた。基本的にはブロックを作って誘い込み、カウンターを仕掛ける戦いで、セットプレーのパターンも選手の配置がよく、成熟を感じさせた。

 日本は守備からスタートするパラグアイを相手に、イニシアチブを握っている。コンビネーションを使い、深さのある攻撃を仕掛けた。ただ、スピードが上がり切らず、崩し切れない。

 そこで気になったのが、攻撃から守備への切り替えの遅さである。長谷部誠がいれば、そこまで目立たなかったのかもしれない。しかし、この日、先発した柴崎岳と山口蛍は守備面で物足りなさがあった。

 柴崎の攻撃的なセンスはすばらしく、周囲と連係して決定的な仕事ができる。一方で、出場した試合のほとんどの失点シーンには、その前後に彼の影があって、守備の強度に問題を抱えている。山口のポテンシャルについては間違いなく、ロンドン五輪前から注目してきた。周囲をカバーし、チーム全体を動かす役割を、昨年のベルギー戦はできていた。しかし、パラグアイ戦では危なっかしかった」

 前半32分。パラグアイは右タッチラインのスローインからペナルティエリアにボールを入れる。日本はこれをクリアし切れず、こぼれ球を拾われ、オスカル・ロメロに先制点を叩き込まれた。

「まず、エリア内の球際の争いで、柴崎のファイトは不十分だった。また、バウンドしたボールに対し、昌子源も寄せが甘い。そして東口順昭も反応できたはずのレベルのシュートだった。もっとも、GKは密集したディフェンスのせいで、球の軌道が見えなかったのだろう。

 この失点の問題は、守備強度の低さもあるが、それだけではない。後ろに人がいるだけで、ポジション的な優位を失い、むしろ不利になってしまっていた点にある。日本は2失点目でも同じようなミスを犯している」

 エチャリの洞察力は日本のミスを見逃さなかった。先制点は失った日本だが、後半に入ると、乾貴士が2得点を決めて逆転に成功する。

「この日、乾は前半からダイアゴナルの動きで、パラグアイ守備陣に脅威を与えていた。スペイン、エイバルで研鑽を積み、連係力が高くなった。後半6分、左サイドでボールを受けると、香川との壁パスで抜け出す。リターンするそぶりを見せながら、香川が開けたスペースに入れ違いで入り、右足で巻くようなショットを決めた。

 香川のパス、走り出すタイミングやアングルも申し分なかった。現時点で、トップ下としては本田圭佑よりもいい状態にあるのではないだろうか。逆転ゴールの場面も、スモールスペースでの香川の天才性がよく出ていた。

 18分、右サイドからバックラインの前を横切るようなパスが来ると、香川は背後にいた乾の存在を感じている。香川は自分に敵を引きつけることで、乾をポジション的優位にした。おかげで乾はアドバンテージを持ってシュートを打てており、質の高いコンビネーションからの逆転弾になった」

 その後、日本はオウンゴールでリードを広げるが、FKからの流れをしのげず、ロングシュートを蹴り込まれて2-3と差を詰められている。89分に香川が4得点目を決め、再び点差を広げたものの、課題が残った。

「1失点目のスローインのときもそうだったが、全体が下がりすぎ、中盤で相手を有利にしてしまった。柴崎の甘いクリアを完全にコントロールされ、フリーの状態で打ち込まれた。戦術的に稚拙な失点だった。数的優位という感覚で枚数を増やすことに必死になるのではなく、常にポジションをバランスよく取ることを心がけるべきだ」

 エチャリはそう警告し、最後にコロンビア戦に向けてメッセージを送る。

「ここまでの3試合、戦術的には上向きだ。長谷部が戻れば、中盤はより強固になる。乾貴士、原口元気は両サイドで攻撃から守備、守備から攻撃のトランジションのスイッチになれるだろう。そして長友佑都は乾といい呼吸をつかめるのではないか。また、香川はインスピレーションを取り戻したように映る。

 1トップに関しては迷いどころだ。パラグアイ戦では岡崎がいい動きでスペースを作り出していたが、実際にボールに関わるプレーが少なかった。武藤は有効なプレーが多く、強度の高さも見せていた。そして大迫勇也は得点数の少なさ以外は弱点のないFWだ。

 しつこいようだが、日本は攻撃を焦ってバランスを崩さないことである。それさえ忘れなければ、日本は波乱を起こせる。ポテンシャルはある。幸運を祈る」