「トロフィーにチューしたかったです」 表彰式で優勝トロフィーにキスをするイメトレまでしていた二宮真琴の願いは叶わず、”えりまこ”は、グランドスラムの頂点まであと一歩届かなかった――。 ローランギャロス(全仏オープ…

「トロフィーにチューしたかったです」

 表彰式で優勝トロフィーにキスをするイメトレまでしていた二宮真琴の願いは叶わず、”えりまこ”は、グランドスラムの頂点まであと一歩届かなかった――。

 ローランギャロス(全仏オープンテニス)女子ダブルス決勝で、穂積絵莉/二宮真琴組が、第6シードのバルボラ・クレジコバ(チェコ)/カテリナ・シニアコバ(チェコ)組に、3-6、3-6で敗れて準優勝に終わった。



準優勝のプレートを手にした二宮真琴(左)と穂積絵莉

 決勝はセンターコートであるフィリップ・シャトリエコートで行なわれ、穂積と二宮にとっては、初めてのグランドスラムのセンターコートでのプレーになった。

 日本ペアは第1セット第1ゲームでいきなりブレークに成功して、幸先のいいスタートを切った。だが、続く第2ゲームでブレークバックを許すと、準決勝までにはなかったようなミスが出始め、相手の陣形に揺さぶりをかけるロブや、ポイントを決めにいくポーチでことごとくポイントを失った。

「自分の感じていないところで、やはり決勝という舞台、勝ちたい気持ちとかが、少し硬さにつながったのかなと思います」(穂積)

「(試合が)始まる前のほうがすごく緊張していました。いつもより遅いペースで試合をされた。相手のスピン量がすごかったので、ちょっとロブも打ちづらくて、相手に崩されたというところはありました」(二宮)

 チェコペアはファーストサーブの時に、Iフォーメーション(サーバーとしゃがんだ味方前衛が、相手レシーバーから見て一直線になる陣形)を多用したため、クロスラリーがほとんどなく、トップスピンのかかった低速のボールをうまく使った。

 とくに、シニアコバが2バックから前に出る動きや、前衛にいるときのプレッシャーのかけ方がうまく、最後まで日本ペアは、相手を崩すことができなかった。

 実は、”えりまこ”は、ローランギャロスで組む予定ではなかった。二宮はオーストラリア人選手と組む予定だったが、ケガをして出られなくなり、大会の1カ月前に、二宮が穂積に打診したのだった。

 ただ、2人の組み合わせは初めてではなかったので、試合を始めてからすぐに、お互いの意図を汲んで、コンビネーションのよさを発揮した。もともと、二宮の俊敏性を活かした反応のいいボレーを使って、二宮が前衛、しっかりしたストロークを打てる穂積が後衛の時に強さを発揮するペアだったが、ローランギャロスでは、逆のパターンでも、ダウンザラインへのロブを巧みに使いながら、強さを見せた。とくに、二宮はフォアハンドのトップスピンロブのスピードがあるので、相手の陣形を崩す大きな武器になっていた。

 また、穂積は2017年オーストラリアンオープンで、二宮は同年のウインブルドンで、それぞれ準決勝まで進出した経験があったので、決勝進出や優勝でないと満足できないという上昇志向も強く、それもプレーに好影響を与えた。

 ノーシードながら、3回戦で第5シード、準々決勝で第1シード、準決勝で第8シードを立て続けに破って、初の決勝進出を果たす快進撃。シードペアを相手に、Iフォーメーションやオーストラリアンフォーメーション(味方前衛が、サーバーと同じサイドに立つフォーメーション)など、戦術を巧みに使い分けて強敵を倒していった。

 24歳の穂積と二宮によるローランギャロスでの準優勝は、”日本女子ペア”として初めて成し遂げたことを高く評価すべきだろう。日本人にとっては厳しいといわれるレッドクレーで結果を残せたことも大きい。

 初めてグランドスラムの決勝を経験し、負けた悔しさを糧(かて)にして、次のチャンスが巡ってきた時には、グランドスラムで優勝できるはずだという自信を、2人とも手に入れたことが何よりの収穫だ。

「ここまで来られたのが一番うれしいですし、すごくいい経験になったので、絶対次につながると思う。悔しいですけど、下を向くような感じではないです。本当に勝てない相手はいないなと心底思いました。グランドスラムで優勝するチャンスは、また絶対来ると思っています」(穂積)

「(昨年の)ウインブルドンでベスト4に入った時は、たまたまかなという思いがあった。今回決勝まで来られて、やっぱりちゃんとやれば、できるんだと思えました。今回のプレーやこの結果で、やっぱり私はダブルスを極めようかなという思いも強くなりました」(二宮)

 この準優勝によってランキングポイント1300点を獲得し、WTAダブルスランキングで、穂積は30位台、二宮は20位台前半に急上昇する。これからは、他の選手からダブルスパートナーになってほしいという誘いも増えるだろう。7月頭から始まるウインブルドンでは、お互い違うペアを組む予定で、次にどこの大会で”えりまこ”が再結成されるかは、今のところ未定だ。

 ただ、2人とも2020年東京オリンピックを見据えている。穂積は単複での活動を続けていくが、二宮はダブルスを主戦場にしていくことを決めて、メダル獲得を目標に掲げた。昨年のウインブルドンでベスト4に入った後から、ダブルスに専念すべきかどうかコーチや親に相談したが、二宮にはシングルスへの未練もあった。

「東京オリンピックでメダルを獲るチャンスがあるならば、私はダブルスだなって思った。やりたいシングルスを捨ててでも、ダブルスをもっと強化したい。決勝に来られたことで確信に変わりました」

 穂積と二宮にとって、ローランギャロス女子ダブルス準優勝は、グランドスラムの頂点、そして東京オリンピックのメダルを目指すための羅針盤となったのではないだろうか。迷うことなく頂(いただき)へ向かって突き進んでいってほしい。

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