自信膨らむ、大きな勝利である。ラグビー日本代表がテストマッチ3連戦の初戦で、欧州6カ国対抗のひとつ、イタリアをダブルスコア(34-17)で倒した。約2万6千人の大歓声と拍手がドームに響き渡るなか、赤白ジャージの選手はグラウンド中央で円…

 自信膨らむ、大きな勝利である。ラグビー日本代表がテストマッチ3連戦の初戦で、欧州6カ国対抗のひとつ、イタリアをダブルスコア(34-17)で倒した。約2万6千人の大歓声と拍手がドームに響き渡るなか、赤白ジャージの選手はグラウンド中央で円陣をつくった。

「”勝っても反省しよう”と言ったんです」と、フランカーのリーチ マイケル主将は落ち着いた口調で述懐した。あくまでゴールは来年のラグビーワールドカップ(RWC)である。まだ成長過程なのだった。

「試合中、すごく大事な場面がいくつかあって、チームとして乗り越えたことをすごくうれしく思います」

 ただ、これで満足はしていない。反省もある。例えば、ラック周りのディフェンスで何本か抜かれたこと、あるいは蹴ったボールのディフェンスが少し遅れたこと……。

 勝敗を分けたポイントのプレーは? そう記者から聞かれると、29歳の主将は「試合前に勝利は決まっていた」と答えた。

 なぜなら、まずは正しい準備ができたからだった。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)ら首脳陣が、今季はほぼ同じ陣容でスーパーラグビーのサンウルブズを指導してきた。この日の23人のうち、サンウルブズに所属していた選手が20人を占める。だから、個人技がかみ合い、コミュニケーションや戦術の習熟度も格段に上がった。

 コンディションにも配慮し、主力選手には合宿前、1週間の休養が与えられた。そのうえで2週間の準備を重ねた。チーム状態は最高といってもよかった。加えて、「意思統一」である。チームスローガンの『ワンチーム』としての結束力である。

 リーチ主将は会見でこの日の朝食後のエピソードを教えてくれた。リーダーズグループのスクラムハーフ流大(ながれ・ゆたか)が控えメンバーを集めて、試合中の展開を想定してのミーティングをしていた。

 リーチが説明する。

「点差がビハインドの時はどうするのか。アタックするのか、地域をとりにいくのか、と。それを聞いた時、勝ちを確信しました。チーム全体で最高の準備ができていたんです」

 世界ランキング11位の日本代表に対し、イタリアは同14位に過ぎない。でも、タフな欧州6カ国対抗でもまれているチームだ。今年3月には、日本がRWCで対戦するスコットランドと接戦を演じていた。

 9日。RWCの開催地、大分の大分銀行ドームだった。そのイタリアに対し、日本が持ち味を存分に発揮した。このカードの勝利は4年前に初勝利を挙げて以来、2戦連続となった(通算2勝5敗)。日本は戦略も的中し、スピードと運動量で圧倒した。日本代表が目指す、”スマートなラグビー”を見せた。

 その典型が、後半中盤の”技あり”のトライだった。まずラインアウトのモールから、フランカー姫野和樹、リーチらフォワード陣がガンガンガンと縦を突く。ポイントから左へ右へ回す。相手のディフェンスが乱れかけた時、右タッチライン際に残っていたフッカー堀江翔太が右手を挙げ、20~30m離れたスタンドオフの田村優に合図を送った。



リーチ主将とともに、チームを引っ張る堀江翔太

 アイコンタクトだった。堀江がちょっぴり得意げに説明する。

「目の前がまるまる、空いていたんです。ユウ(田村)やったら、僕の立ち位置と目だけで多分、通じるやろうと思って」

 スペースを見つけた田村が低い弾道のキックパスを蹴った。どんぴしゃで堀江が跳び上がってキャッチし、内にいたウイングのレメキ・ロマノラヴァに”タップパス”。右中間に駆け込み、点差を広げた。

 堀江は、前半中盤の素早い連係プレーからのトライでも、相手をギリギリにひきつけて”ノールック・背面パス”を披露した。相変わらず、うまいものだ。

「きれいなトライでしたね。サンウルブズから一緒にやっているから、コミュニケーションもとりやすい。かしこく、かしこく、スマートにやっていこうとは、ミーティングではいつも言い合っていることです」

 そうなのだ。激しくぶつかっていても、頭は冷静に。時にはキックでエリアを稼ぎ、アンストラクチャー(陣形が乱れた状態)をつくって攻める。不用意なキックは蹴らず、スペースへボールを運ぶ。場面、場面で考え、全員が同じ「絵」を共有する。このスマートさがジャパンの強みになるかもしれない。

 個性も輝いた。韋駄天のウイング福岡堅樹は前半、マークを振り切り、もうひとりのタックラーを鋭いスワーブでかわし、約50mを走り切った。ブラボー。

 ほれぼれするスピードだった。25歳はトライした瞬間、めずらしく右手を突き上げた。「気持ちよかったですね」と笑った。

「相手がどういう形でくるかなと見ていたら、ちょっと内側を気にするようなことをしていたので、これはチャンスかなと。自分のスピードに自信はありますので」

 日本にとっては、プラン通りの試合になっただろう。ひと言でいえば、「準備の勝利」である。昨秋から就いたジョン・プラムツリー・コーチが整備するディフェンスも機能し、後半は相手にトライをさせなかった。

 前にそろって鋭く出るディフェンスもあるが、フィジカルアップゆえだろう、個々のタックルの強度が上がっている。相手の芯に当たってレッグドライブ(足をかく)。2人目も速く、イタリア得意のオフロードパスをそれほど、許さなかった。

 もっとも、日本ペースの試合運びができたのは、何よりセットプレー(スクラム、ラインアウト)の安定があったからである。メンバーが替わった最後の1本こそ、コラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられたが、スクラムはそれまでは互角以上に組んだ。

 右プロップの具智元(グ・ジウォン)は中学3年から4年間、大分で過ごした。日本文理大学付属高でプレーし、いわば大分が”第二の故郷”となる。「スクラムはイメージ通りに組めました」。カリフラワーのようにつぶれた右耳。23歳の額から大粒の汗が落ちる。

 父親は韓国代表の名プロップだった。小さい頃からスクラムの手ほどきを受け、日本代表の長谷川慎スクラムコーチと同じことを父親からも言われてきたそうだ。「スクラムは8人で組むことが大事だ」と。

 スタンドには両親や高校ラグビー部の監督らが応援に駆けつけた。「声援、聞こえました」と充実感に浸る。

 相手が間合いを取って組んできても、内側に入ろうとしてきても、あるいは下に落としにきても、隣とのバインドを締め、体を強く寄せて一体感を意識した。

「相手が崩しにきても、横、後ろとしっかりくっついて、うまく対抗できました。とくにマイボールは結構、安定して組めた。自己採点? 75点ぐらいです」

 184cm、122kg。スクワットがチーム随一の240kg。「スクラムをもっともっと強くして、ワークレート(仕事量)も上げていきたい」。これで目標のRWC出場に一歩近づいた。

 このほか、リーチ主将は相変わらずの豊富な運動量と激しさを見せ、アマナキ・レレイ・マフィもワールドクラスのフィジカルを発揮した。姫野は強じんな足腰を生かし、倒されても拾っては前に前に出た。田村も絶妙のキックを織り交ぜ、ラインをうまくマネジメントした。加えて、攻守に全員の意思統一が見えた。

 そういえば、ちょうど4年前、エディー・ジョーンズHC率いる日本代表もイタリアを下し、テストマッチ10連勝を記録した。その時のジャパンと比べると?と聞けば、堀江が興味深いことを言った。

「今はみんな、意欲を持ってやっているんじゃないですか。あのとき(4年前)は、やらされているだけだったんで」

 もしも対戦したら? 勝ちますか? 32歳のベテランフッカーは苦笑した。

「はい。僕はそう思っています」

 確かに以前のジャパンとはチームカラーが違う。今のチームには自主性をより感じる。でも、自己表現の発露をチームの共通理解へと昇華させるのは難しい。難度の高いスタイルへのチャレンジである。それがRWCのベスト8進出につながるかどうか。

 ジョセフHCが指揮を兼ねるサンウルブズでは負けが込んでいた。批判もあった。「でも」とジョセフHCは言った。

「サンウルブズがスーパーラグビーに参戦する意図というのはすべて、テストマッチへの準備をするためにやっていることです。選手たちはスーパーラグビーのおかげで、ここまでパフォーマンスを上げてくれました」

 やはり結果は大事である。この勝利は、日本協会と一体となった代表強化の方向性が間違ってないことを示してくれた。しかもテレビの地上波のライブ中継での快勝劇。ラグビー人気の盛り上げにもプラスとなる。

 もちろん、まだRWCキャンペーンの途上である。次のイタリア戦(16日・神戸)はもっとタフな試合になるだろう。日本代表の成長を確認するテストは続くのである。