6月3日に行なわれた布勢スプリント2018では、山縣亮太(セイコー)がシーズンベストを出して優勝した。ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)は10秒21で、飯塚翔太(ミズノ)に次ぐ3位(同タイム着差あり)。それでもケンブリッジは「決勝では思ったよ…

 6月3日に行なわれた布勢スプリント2018では、山縣亮太(セイコー)がシーズンベストを出して優勝した。ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)は10秒21で、飯塚翔太(ミズノ)に次ぐ3位(同タイム着差あり)。それでもケンブリッジは「決勝では思ったよりタイムを落としてしまい、そこは残念ですが、予選はスタートからの流れもよかったので、(今後)あれをうまくつなげていければいいと思います」と笑顔を見せた。


試合を重ねるごとにタイムを上げてきている、ケンブリッジ飛鳥

 photo by PHOTO KISHIMOTO

 予選は追い風0.9mとまずまずの好条件の中で行なわれ、ケンブリッジはスムーズなスタートから、後半も力みのない走りでシーズンベストの10秒12を出していた。

 ただ、スタートで右つま先をスターティングブロックにぶつけ、スパイクのつま先部分の生地が2cmほど切れてしまうアクシデントに見舞われた。決勝では、破れたところを接着剤で補修して臨んだが、予選でぶつけたことを気にしながらスタートしたため、「全体的にうまく噛み合わなかった」と振り返った。

 冬季はアメリカで4カ月間トレーニングをしてきたケンブリッジだが、3月のテキサスリレーでは追い風4.1mで10秒22のタイム。帰国後の日大学内競技会では、100mが10秒31、200mは21秒21と、昨年4月にアメリカで追い風5.1mながらも9秒98で走っていた頃に比べると、仕上がりは遅れた状態だった。それでも今年の4月28日の織田記念陸上の前日会見では、アメリカ合宿の成果をこう語っていた。

「アメリカでは、メダリストもいるハイレベルなチームメイトとトレーニングができ、練習でも勝ったり負けたりして自信がつきました。コーチに直されたのはドリルの部分とスタート。スターティングブロックの位置を前足は少し下げて、後ろ足は前に上げました。

 まだスタートは形になっていませんが、少しずつ自分のものになっている。無理なく加速できるようになっているので、あとはレースでできるようにするだけだと思います。初戦の10秒22はあまりいいタイムとは言えませんが、練習ではいい走りができているので特に心配してないです」

 ドリルで教えられたのは「膝を高くキープすること」と、「接地のしかた」のふたつ。それを意識しすぎたのか、織田記念のアップでは、膝が高く上がりすぎて重心が後ろに下がっているように見えた。

 外国人選手が膝を高くすることを意識するのは、体型的に骨盤が前傾しているため、それが邪魔をして膝が上がりにくいからだという。しかし、骨盤が後傾している日本人が同じイメージでやると、膝が高く上がり過ぎて重心が下がってしまい、前に進みにくくなってしまう。ケンブリッジのドリルにはそんな傾向が少し見えていた。

 結局、織田記念では、追い風0.8mの予選は変えた新スタートがうまくはまらずに出遅れ、持ち味である後半の伸びも出てこない走りで10秒25にとどまった。さらに追い風1.3mだった決勝では、優勝した山縣に最初から前に出られたことで力みも加わり、後半も伸びずに10秒26で2位という結果に終わった。

 その後、予定していた5月3日の静岡国際200mを欠場し、次に臨んだ5月20日のゴールデングランプリ大阪では、向かい風0.7mという条件の中、10秒13の山縣や10秒17の桐生祥秀には敗れたが、10秒19まで記録を伸ばした。

「最近はスタートを意識してやってきたけど、そこを意識しすぎると後半がよくなかったりしていました。今回は自分の持ち味である後半の部分を意識してやってきたので、その成果は出せたと思います」

 そして今回の布勢の予選では、スタートの動きがこれまでに比べると極めてスムーズになり、後半の伸びのある走りも出てくる状態に修正できていた。

 彼を指導する日大の渕野辰雄コーチは現状をこう見ている。

「予選は悪くなかったですが、決勝はスターティングブロックにぶつけたことを気にしすぎていてレースになっていなかったですね。アメリカでケンブリッジが入ったのはプロチームだったので、私たちも中に入れず、どういうことをやっているかわからなかったんです。

 でも、彼には『ガタガタになって帰ってきてもちゃんと戻すから大丈夫だ』と言っていました。帰国後はちょっとパワーでガンガンいくような感じになっていましたが、経験できたことはよかったし、来年以降に生かせると思います。予選である程度できたので、あとは日本選手権までにどうしていくかというところに集中できます」

 ゴールデングランプリの100mでは10秒19と徐々に修正できている実感を得られ、その後に走った4×100mリレーでは日本歴代3位の37秒85をマーク。スピードに乗った時の走りの感覚を取り戻してきている。

「リレーのあとは、後半の走りの感覚もよくなってきつつありますね。ただ、自分の中ではまだまだ上がってくるような感じもある。ここから3週間トレーニングをしていけば、予選と準決勝で10秒08と10秒10を出した去年の日本選手権と同じようないい走りができるかなと思います」とケンブリッジ自身も手ごたえを感じている。

 そして、日本選手権に向けてこう意気込む。

「今シーズンはまだ山縣や桐生に勝てていないけど、日本選手権という大事なところで勝って、今までの負けをチャラにできるようにしていきたいですね」

 昨年2冠のサニブラウン・ハキームは出場しない日本選手権だが、今季は少しスロースタートで臨んでいる山縣や桐生、ケンブリッジが徐々に記録を上げてきている。現時点では、その3人の争いも、10秒0台に入るのは確実という状況になってきた。さらに、その記録がどこまで伸びるのか、期待が徐々に高まる。

◆山縣、桐生がギアアップ。日本短距離勢が早くも「メダル級」の記録