ついに、ホンダの改良型パワーユニットが投入されることになった。 開幕当初からこの第7戦・カナダGPをターゲットに据え、HRD Sakuraで開発が続けられてきたものだ。燃焼系を中心にICE(内燃機関エンジン)が改良され、パワーアップを…

 ついに、ホンダの改良型パワーユニットが投入されることになった。

 開幕当初からこの第7戦・カナダGPをターゲットに据え、HRD Sakuraで開発が続けられてきたものだ。燃焼系を中心にICE(内燃機関エンジン)が改良され、パワーアップを果たしている。



ホンダの新パワーユニットはどれほど戦えるものに仕上がっているのか

 信頼性確保を最優先にして昨年型の延長線上に作られたこれまでの今季型RA618Hに対し、今年から開発責任者に就任した浅木泰昭執行役員の大胆な改革が実を結んだものだ。

 田辺豊治テクニカルディレクターは、今回のICEアップデートについて次のように説明した。

「両ドライバーともにアップデートしたパワーユニットを適用しますが、新しいのはICEです。基本は従来型の延長線上にあるものです。年間3基のなかでやらなきゃいけない、しかもテストがないなかでガラッと変えるというのは、正直言ってなかなか難しいところなんです。なので従来型の延長線上で、今まで蓄積してきたノウハウをつぎ込んだステップアップということですね」

 開幕戦のMGU-H(※)トラブルや事故による新品交換など、パワーユニットの運用計画にはズレが生じているが、当初から計画していたとおり、このカナダGPのタイミングでアップデートを完成させて実戦投入することになった。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

「これは当初の予定どおりです。HRD Sakuraとしては、当初からここを目標にして開発をしてきました。ホンダ側として『ここまでに用意できますよ』というタイミングと、チーム側として使っているパワーユニットの状態とを整合させたうえで、投入のタイミングを決めました。そのうえで、今回は2台とも新しいICEを入れましょうということに決めました」(田辺テクニカルディレクター)

 一部では20kW(約27馬力)や40馬力などという根拠のない数字もひとり歩きしているが、1回のアップデートで40馬力向上などというのは、かなり現実離れした数字だ。田辺テクニカルディレクターも「どこからそんな数字が出てきたんですかね……」と苦笑いする。

 しかし、ホンダ関係者によれば今回のICEでは燃焼コンセプトを変え、大きな出力アップを果たしたという。約40馬力に相当する30kWという数値も、それほど大袈裟ではないほど大きな進化だ。

 ちなみにカナダでは、パワーがラップタイムに及ぼす影響は10kWあたり0.2秒前後。今年は全開率が上がっているだけにその影響はやや大きくなっているかもしれない。予選では0.5秒以上のゲインになりそうだ。

 ブレンドン・ハートレイは、パワーユニットのアップデートに期待を寄せている。

「モナコで証明したように、僕らのクルマはメカニカル性能が優れている。バーレーンでは暑いコンディションでのタイヤマネージメントのよさを証明したし、パワーセンシティビティの高さにもかかわらずパワーユニットはいい働きをした。

 僕らが中国やアゼルバイジャンの決勝でかなり苦しんだのは、みんなも知ってのとおりだと思う。(パワーユニットの不利で)大きくタイムを失っていたのは事実だよ。特に決勝でね。ここもストレートが長いけど、アップデートのおかげで自信を持って臨めるようになることを願っている」

 一方、ピエール・ガスリーはあくまで慎重な姿勢を崩さない。過去にレッドブルがルノー製パワーユニットのアップデートで、期待どおりのタイムゲインを果たせなかったことを知っているからだ。

「過去数年間、レッドブルのリザーブドライバーとして見てきた経験からいうと、パワーユニットの何kW上がったというような数字は、そのままコース上の速さに直結しないことも少なくなかったんだ。だから、僕は紙の上の数字にあまり踊らされすぎたくないので、慎重なんだ。

 実際に走ってみて、そのデータ上での純粋な数字が確認できて、初めてクリアな答えが得られると思う。いずれにしても中団はすごくタイトだから、0.1秒でも0.2秒でも大きな意味、多くのポジションをもたらしてくれることになるよ」

 ガスリーはサーキットによってはマシン性能が十分でなかったことを認めつつ、パワーユニットの非力さだけが低迷の理由ではないとホンダを擁護する。しかし、アゼルバイジャンGP以降はルノーとの差が開き、やや後れを取ったことも認め、今回のアップデートで挽回することを期待している。

「バーレーンやモナコ、それからバルセロナでは他のレースに比べて強かった。ただ、上海やバクーではグリップにかなり苦しんだ。車体のパフォーマンスという意味では、あまり安定感がなかったといわざるを得ないだろう。

 でも、パワーユニットのパフォーマンスは開幕時点からほぼ変わらず一定だ。他メーカーはバクーで少しアップグレードを投入したから、そこからは少し差が開いてしまった。ホンダは信頼性を最優先に考え、ほとんどルーキー同然の僕らができるだけ多く走行できるように配慮してパワーユニットを作り、実際にとても高い信頼性を確立してくれているけど。性能的にはまだルノーにも少し後れを取っていることはわかっているし、それはこれから取り戻していかなければならないところだ」

 前述のように、アップデートの評価には実走まで慎重な姿勢を見せるガスリーだが、昨年のスーパーフォーミュラからホンダとの結びつきを強くしてきただけに、ホンダに対しては強い信頼を寄せている。

「ホンダはマクラーレンと3年間、とても厳しい時間を過ごしてきたけど、彼らの献身性は本当に印象的なものだった。F1で最強のエンジンを作り上げるために、必死に努力してきたんだ。

 僕自身、日本のスーパーフォーミュラで彼らと一緒に仕事をして、彼らが目標を達成するまでに、いかにすべてを投げ打って努力する人たちであるかを知っている。もちろん、F1は誰もが100%全開でプッシュしている世界だから、成功を収めるまでには時間がかかる。でも彼らは、インプルーブ(改善)するためにやれることはすべてやっている。それは確かだよ」

 その信頼に、ホンダは応えなければならない。

 懸念される信頼性については、これまでに多くを学び、事前チェック項目も大幅に増やしてきた。さらに、現場の運用においても慎重を期す。

「もちろん、がんばってパワーが出れば出ただけ厳しくなるところもありますから、パワーが1段上にいけば信頼性の面でも1段上の難しさが出てきます。性能とバーター(で厳しく)になる部分の保護も含めて、壊さないようにしながら最大限のパフォーマンスを引き出すというのが、現場側の使命だと考えています」

 そう語る田辺テクニカルディレクターは、大言壮語はしないが、今このモントリオールに送り込まれてきたアップデート仕様のRA618Hの性能をフルに使い切るべく、闘志を燃やしている。

「アップデートされたハードウェアを最適化して使って、ベンチ上で出ている向上(伸び)を実走でもしっかりと出す。持っているものを使い切るということをやりたいですね。その結果はトルクとか計測データに出てきますから、それをきちんと刈り取って、『出ているよね』と確認するのが大切な仕事だと思っています。そのうえで、いいポジションで予選・決勝が戦えればと思っています」

 今シーズン開幕前からここまで一歩ずつ進んできたホンダにとって、今季初めての大きな一歩。それがどんな前進をもたらすのか、今週末が楽しみだ。