【福田正博 フォーメーション進化論】 西野ジャパンの初陣となった壮行試合のガーナ戦は、ミスからの2失点で敗戦。ヨーロッパ合宿に入る前に勢いをつけてほしかったが、多くの課題が残る厳しい結果になった。ガーナ戦に臨んだ日本代表の先発メンバー …

【福田正博 フォーメーション進化論】

 西野ジャパンの初陣となった壮行試合のガーナ戦は、ミスからの2失点で敗戦。ヨーロッパ合宿に入る前に勢いをつけてほしかったが、多くの課題が残る厳しい結果になった。



ガーナ戦に臨んだ日本代表の先発メンバー

 この試合から”西野体制”の概要は見えてきた。ガーナ戦で試した3−4−2−1でW杯本番に臨む場合、ポイントになるのは1トップに入る大迫勇也だ。

 西野朗監督は、シャドーやサイドの選手にできるだけ前を向かせてプレーさせたいと考えている。それを可能にするためには、大迫が屈強な相手DFと競り合いながら、どれだけボールを収められるかにかかっている。

 ガーナ戦でも左右のサイドから攻撃を展開する場面が多かった。ただ、タッチライン沿いからクロスを供給できても、中央を固められていたら得点を奪うことは難しい。相手に脅威を与えるために、サイド攻撃はペナルティエリアのもっと深いところまで侵入しなければいけない。

 その布石として、まずは中央から攻撃を組み立てる必要がある。それによって相手DFが中央に集まり、両サイドに生まれたスペースを使うことで相手の守備陣を切り崩すことができるからだ。

 中央からの攻撃のカギを握るのが、1トップと2シャドーになる。ガーナ戦で2シャドーの右に入った本田圭佑は、ハリルホジッチ前監督時代よりも自由が与えられていた。中央、左サイドに寄っていくことも多かったが、これによって前線3人のバランスが悪くなってしまった印象がある。

 実際に、左のシャドーに入った宇佐美貴史は、「(本田が)自分のポジションに近づいてくるため、距離感を保つために左サイドに開いた」と試合後にコメントしている。それによって本田との距離は一定に保つことができたものの、他の選手との距離感に狂いが生じていた。
 
 横にスライドする動きが一概に悪いわけではないが、本田は大迫を追い越すような縦の動きでゲームを動かしてほしかった。前半のFKなど、左足のキックには精度と威力があっただけに、これからはある程度ポジションを守ることを意識しながら動きの部分を見直していってもらいたい。

 それに対して、後半から2シャドーの一角に起用された香川真司は、ポジションを逸脱せずにプレーしていた。選手同士の距離が近く、周りの選手を使いながら自分の長所も出せるシャドーは香川が輝けるポジションといえる。

 ただ、最初の10分間はそれを証明していたが、徐々に存在感が薄れていったところに香川の現状が見て取れる。

 後半の途中で本田が岡崎慎司に代わり、3−5−2になった際にはトップ下に入った。シャドーよりも特長が生かせるはずのトップ下では、もう少し”香川らしさ”を見せてもらいたかった。実戦から3カ月離れていたことでゲーム勘が戻っていないことが原因のひとつだろうから、本番までにそれを取り戻し、輝きを放つ時間が増えることを期待している。

 サイドに関しては、右サイドMFの原口元気が中央にポジションを取るシーンが何度か見られた。本田が左サイドに流れていくため、距離を保つ意図があったのだろう。原口がワイドに開いているからこそ相手DFの守備ブロックを間延びさせることができるのだが、中央に絞ってしまったことで相手の4バックの距離が近いままになってしまった。

 慣れていないポジションとはいえ、原口が再び同じポジションで起用される可能性は十分にある。その際に3−4−2−1のメリットを生かせる動きができるよう、修正していってもらいたい。

 この右サイドMFには酒井宏樹の起用も考えられるが、ガーナ戦ではケガをした足の回復状況を見て無理をさせなかったのだろう。酒井宏樹はクラブでのプレー経験もある3バックの右での起用を考えてもいい。

 その3バックは中央に長谷部誠が入り、右に吉田麻也、左に槙野智章が起用された。長谷部と槙野は3バックでのプレー経験がある一方、クラブで4バックのCBを担う吉田には不慣れな守り方になったため、ストレスを感じていたかもしれない。

 3バックと4バックとでは、DFの攻守の役割やポジションの取り方が変わってくる。3バックでは攻撃時にサイドに開いてビルドアップに参加する機会が増える。それに対して4バックでは、CBはサイドのサポートに行くよりも中央で相手の攻撃を待ち構えることが多くなるため、それに慣れている吉田には戸惑いもあるだろう。

 DFラインはコンビネーションが重要であることは言わずもがなで、それを高める時間がなかったガーナ戦ではミス絡みで失点してしまった。FKでの壁のつくり方も含めて修正していくことを考えると、3バックと4バックを併用する案はやはり不安が残る。

 もちろん、3バックと4バックを使い分けられるに越したことはないが、それはどちらもクオリティが高いことが大前提。完成度が中途半端になってしまうと、特に守備面で綻びが出やすくなってしまうため、どちらか一方に絞るべきだ。

 3バックでやると決め、吉田がそれにフィットしないようであれば先発から外す。4バックに戻すなら、3バックを捨てるくらいの覚悟を持ってもらいたい。吉田を起用するなと言っているわけではなく、システムの併用はそれくらい難しいということ。それを実現させる時間がないということも念頭に置いて準備を進めてほしい。

 3バックで戦うのなら、ボランチは山口蛍がファーストチョイスで、大島僚太か柴崎岳がそのパートナーになることが予想される。しかし、山口がガーナ戦のように低調なパフォーマンスのままなら、大島と柴崎の組み合わせもアリだろう。

 ふたりを組ませることで守備面の不安はあるが、攻撃面でメリットが生まれる。柴崎には味方の足元にピンポイントでパスを出せる技術があるため、狭いスペースでもパスを受けられる技術のある大島の特長を生かすことができる。大島のパスワークを中心とした攻撃を軸とするなら、シャドーに香川を起用することでチームにいいリズムが生まれることも期待できる。

 それによって西野監督が目指す「攻撃的なサッカー」に近づける。ただ、W杯で勝ち点を奪うにためには「攻撃的」という言葉に縛られてはいけない。ガーナ戦では3−4−2−1の両サイドのMFができるだけ下がらないようにしていたが、試合状況によって5−4−1で守るべき時間帯は必ずやってくる。

 5バックになることが「守備的」と捉えられてしまうこともあるが、最も避けるべきは、相手にサイドを攻められてDFラインが下がること。そこでしっかりボールを奪い、最終ラインから全体を押し上げるような攻めができれば、自ずと相手陣内に押し込む展開ができるようになるだろう。

 西野監督には、ガーナ戦で掴んだ手ごたえ、見えた課題を生かして、ヨーロッパ合宿でチームをブラッシュアップさせていってほしい。その先に、グループリーグでの勝ち点獲得が見えてくるはずだ。