大坂なおみは、ローランギャロス(全仏オープンテニス)で、2年前と同じ3回戦敗退という結果でパリを去ることになったものの、レンガの粉が表面にちりばめられたレッドクレーコートに、自分自身の成長の足跡をしっかり残していった。苦手な「クレー」…

 大坂なおみは、ローランギャロス(全仏オープンテニス)で、2年前と同じ3回戦敗退という結果でパリを去ることになったものの、レンガの粉が表面にちりばめられたレッドクレーコートに、自分自身の成長の足跡をしっかり残していった。


苦手な

「クレー」でも3回戦まで勝ち進んだ大坂なおみ

 3回目のローランギャロス出場となった大坂は、今回グランドスラムで初めてシードを獲得し、第21シードとして今までにない気持ちで大会に臨んだ。

「シードになったことで、3回戦の前まではシード選手との対戦がないことが保証されますから、本当にいいことです。でも、自分としては、シード選手としてプレーすることは気にしていません。もちろん、シードとして初めてプレーするので気分はいいですし、いいプレーができるといいですね」

 こう語った大坂は、1回戦でグランドスラムのシード選手としての初勝利を手にし、久しぶりに会見では、まだたどたどしい日本語ではあるが、シード選手としての初勝利の感想をきちんと語ってくれた。

「普通じゃない。何かすごく緊張していた。今日の試合はすごく負けたくない感じだった。(シードは)初めてのことだったので、本当にいいプレーをしたかったので、ナーバスになったんだと思う」

 クレーが大坂にとってベストサーフェスではないことは、自他ともに認めるところだ。球足が遅くなるため、彼女の武器である時速200km近いサーブや強力なフォアハンドストロークの一発だけではポイントが決まりにくい。

「自分はアグレッシブな選手です。クレーでは長いポイントになることを想定しないといけない。より我慢が必要ですし、ポイントを組み立てることが大切ですね」

 こう語った大坂は、ローランギャロスでは高速サーブにこだわらず、クレーでボールが高く弾むことを考慮してスピンサーブを多用した。そして、相手リターンが浅くなるようにし、ラリー戦では我慢強くプレーして好機を見出してポイントにつなげた。

 だが、第13シードのマディソン・キーズ(13位、アメリカ)と対戦した3回戦では、ことごとくキーズに先手を打たれて劣勢に立たされ、大坂はいいところなく、1-6、(7)6-7で敗れた。

 初めてシードがついたローランギャロスで、大坂は上位シードのキーズに負けたのだから、決して下を向くような結果ではない。また会見で泣かないか心配されたものの、それは杞憂だった。大坂は、さほどがっかりした表情を見せることなく試合を振り返った。

「どう説明すればいいのかわからないけど、自分にとっていい大会だったと思います。ここでの(ランキングポイントの)ディフェンドがどれぐらいかわからないけど、自分のランキングはキャリアハイです。(2年前と同じ全仏で)3回戦(進出)という結果も私にとってはいいものだと思います。自分としては、実際いいプレーができていました。

 たくさん大会があるなかで、もしある週で負けても、次の週の大会ではいいプレーができたりします。そんなことを、試合に負けながらたくさん学びました。次のトーナメントが楽しみです。それが私にとってのメインゴールです」

 1年前の大坂だったら、ネガティブなスパイラルに陥っていたかもしれないが、ツアー選手として戦う術(すべ)やメンタルを学び、結果にしろ、ランキングにしろ、自分にとってポジティブなことを探しながら、ひとつひとつ言葉にする大坂に確かな成長が見て取れた。

 さらに大会期間中、大坂はまるで自分に言い聞かせるようにして、自分の目標を口にする場面もあった。

「(今年の)オーストラリア(全豪4回戦)では、準々決勝まであと少しのところでしたが、当面はグランドスラムの準々決勝に行くことが私の目標です。私はグランドスラム1大会で7試合を戦う準備ができていますし、できると思っています。ここ(パリ)でも、できない理由はないと思っています。まだまだ先に進んでいきたいです」

 グランドスラムで優勝するには7試合を勝ち上がらなければならないが、大坂はそれをローランギャロスでもできるはずだと話した。

 こうポジティブに話せるようになった彼女の自信の裏付けとして、3月のWTAインディアンウェルズ大会でのツアー初優勝がやはり大きいのではないだろうか。

 インディアンウェルズは、グランドスラムに次ぐグレードのプレミアマンダトリー大会で、グランドスラムと出場しているメンバーはまったく一緒だ。また、インディアンウェルズ大会は、96ドロー(32シード、シード選手は2回戦から出場)の大型大会で、大坂は1回戦から決勝まで7試合を勝ち抜いてツアー初タイトルを勝ち取った。そして、このことを誰よりも高く評価しているのが、今年から大坂に帯同しているアレクサンドラ・バインコーチだ。

「インディアンウェルズで、なおみはとてもレベルの高い、とても厳しい7試合を戦い抜きました。誰にでも勝てることをすでに、証明しているのです」

 バインコーチの存在があるからこそ、大坂は昔からの目標であるグランドスラムでの初優勝を堂々と口にして、よりはっきりとした目標を見据えることができるのではないだろうか。そして、バインコーチは、まだ20歳の大坂の才能を心から信じ、いずれ一緒に目標を達成できると確信している。

「グランドスラムを含めて、どのトーナメントへ行くときでも、準々決勝や準決勝で負けることを考えているわけではなく、目標はあくまで優勝です。もちろん、なおみはグランドスラムで優勝できる力を持っています。今年できるかどうかはわかりません。時が教えてくれるし、少しの運も必要ですし、それらが合わさったときに実現するはずです。とてもポジティブな未来が、これから彼女に待ち受けていると思えるのです」

 すでにウインブルドンまで続くグラス(天然芝)シーズンに照準を定めた大坂は、グラスでプレーすることを心待ちにしている。

「私のゲームスタイルは、グラスに合っていると思います。昨年はウインブルドンでいいプレーができましたし、自分がどんなプレーをできるのか楽しみです」

 昨年のウインブルドンで、大坂は初出場ながら3回戦に進出したが、今年はさらにいい結果を残せるのではないだろうか。そして、大坂とバインコーチの大いなる夢は、近い将来どこかのグランドスラムできっと実現するはずだ。