6月9、16、23日にそれぞれ大分・大分銀行ドーム、兵庫・ノエビアスタジアム神戸、愛知・豊田スタジアムでテストマッチをおこなう日本代表にあって、経験者ならではの視点からチームを支えようとするのが31歳の真壁伸弥だ。  国内2連覇中のサント…

 6月9、16、23日にそれぞれ大分・大分銀行ドーム、兵庫・ノエビアスタジアム神戸、愛知・豊田スタジアムでテストマッチをおこなう日本代表にあって、経験者ならではの視点からチームを支えようとするのが31歳の真壁伸弥だ。
 
 国内2連覇中のサントリーで主将経験のある身長192センチ、体重126キロのLOは、日本代表としては2015年のワールドカップイングランド大会に出場。2009年の代表デビュー以来、通算36キャップを獲得してきた。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチのもと活動するいま、全体を俯瞰(ふかん)して最適な言動を選び取っているようだ。

 持ち前の資質が垣間見えた季節は、4月だった。

 当時は若手の代表予備軍が揃うナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)が、ニュージーランド遠征を実施していた。「JAPAN A」というチーム名を背負い、スーパーラグビークラブの予備軍たちとの練習試合で3戦2勝という成績を収めた。

 参加者の多くが雰囲気の良さに喜ぶチームにあって、真壁は主将を任されていた。日本代表と連携を取るサンウルブズに在籍しながら、故障から復帰し間もなかったこともあってかNDSに回っていたのだ。当時の心境を明かす。

「あそこは(日本代表などへの)セレクションの場。(皆に)チームのためにやってもらうような雰囲気を作ることが、自分のセレクションにも関わると思ったので、それを意識してチーム作りをしていました。自分が…というよりも、フォア・ザ・チーム」

 若手の多いグループでの年長者という立場を踏まえ、皆が献身的になれるよう促したというのだ。チームを率いる堀川隆延ヘッドコーチは、日本代表に似た戦術をややマイナーチェンジし「桶狭間」というキーワードに集約させていた。真壁は「それに乗っかり、それを軸にした」という。

「自分たちのスタイルを信じ、それをやったら勝てるというふうにすれば(ひとつの方角を)向きやすい。そうなるよう指示をしました。1試合目に勝ったことによって『やればできるんだ』と思い、なんで勝つことができたのかを考える方向へシフトできたのもよかった。スムーズにチーム作りができました。(好調な)サントリーの時と変わらない手法でできたと思います」

 5月27日、宮崎。日本代表が、6月のツアーに向けた事前合宿を始めた。サンウルブズにいる日本代表勢の一部は、同月中旬からのリフレッシュ休暇を経てキャンプインした。

 一方で真壁は、他の選手が休んでいたサンウルブズの公式戦に出場していた。個別の試合出場時間を管理したいチームの方針を受け、サンウルブズが参戦するスーパーラグビーに宮崎合宿の直前まで挑んでいたのだ。宮崎合宿の練習への本格合流はやや遅れ、実戦形式のセッションへ加わったのは5月31日。もっとも、ここでも真壁は自らの立ち位置を客観視する。突っ込んでくる主力候補を持ち前のパワーで押し返すなどし、「仲間同士の緊張感」を醸成していた。

 すべてを終えてホテルへ引き上げる際、こう口にした。

「代表は勝つことがすべて。楽しむことも大事ですが、皆が勝つために準備することも大事。仲良しグループである必要もないのかな、と思います。例えば、きょうのようなフルコンタクトの練習では同じポジションの選手にガチでプレッシャーをかけ、仲間同士で危機感を作っていく」

 NDSでの成功体験を「日本代表では別。対戦相手も違うので」と相対化する真壁は、31日の段階で「僕がアピールできるのは、きょうと、明日かなと思います」とも話した。6月4日以降の東京合宿では、初戦に向けた連携確認が重視されそうだと感じていたのだ。ここまで現体制のマネージメントに触れてきた実感を踏まえ、以後の動きを予測しつつ働きたいという。

「来週は、またチーム作りの方にシフトしていくと思う。そうなれば、また試合に向けた役割にコミットする。そうしないと、チームのためにならない。(体調管理も重要な)試合直前にきょうみたいな練習の仕方をしていたらいけない」

 6月5日、イタリア代表との9日の試合に向けた東京合宿は2日目を迎えていた。レギュラー組が防御の連携を確かめるトレーニングのさなか、真壁は控え選手の集まるグループで若手選手にゲキを飛ばしていた。

「チームが勝つために何がベストなのかを、見るようにしています」

 思い返すのは、ワールドカップイングランド大会日本代表での黒子役の姿だ。出番のなかった廣瀬俊朗元主将や同じLOで1試合のみのベンチ入りとなった伊藤鐘史らは、メンバー入りを逃してからの態度で集団を引き締めていた。練習では相手チームに似せた動きをし、試合映像の分析にも時間を割いた。

 2019年の日本大会に向け、真壁はレギュラー入りを目指しながら過去の先輩方の態度も参考にしたいと語る。きっと、本番で必要とされるのがどんな選手なのかを看破している。(文:向 風見也)