流れるようなスムーズさで誰よりも高水準のラップタイムを刻み続け、後続を着々と引き離してゆく。そんな自らの持ち味を存分に活かした走りで、ホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ・チーム)が2017年のドゥカティ移籍後初勝利を第6戦・イタリアGPとい…

 流れるようなスムーズさで誰よりも高水準のラップタイムを刻み続け、後続を着々と引き離してゆく。そんな自らの持ち味を存分に活かした走りで、ホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ・チーム)が2017年のドゥカティ移籍後初勝利を第6戦・イタリアGPというチームの地元、しかもホームコースのムジェロ・サーキットで達成した。



ドゥカティの地元イタリアで1年半ぶりに優勝したホルヘ・ロレンソ

 チームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾが2位でゴールし、ドゥカティにとってホームGPで1-2フィニッシュの快挙。また、ロレンソ自身にとってはヤマハ時代最後のレースとなった2016年最終戦のバレンシアGP以来という、記念すべき1年半ぶりの優勝になった。

 ヤマハ時代でも、ドゥカティ移籍後でも、ロレンソのロレンソらしい勝ち方には何ひとつ変わりがなかった。全23周のレースを2番グリッドからスタートしてホールショットを奪うと、以後は誰にも前を奪われることなく、最後まで一貫してトップを走り続けた。

 ラップタイムを見ても、序盤に1分48秒1から48秒2を刻み続け、レース後半でも48秒台中盤を淡々と維持し続けた。2番手のドヴィツィオーゾがレース後半に49秒台へ落とし、3位のバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は中盤ですでに48秒台を維持できずに49秒台へ落としていたことと比較すれば、この安定感の高さはさらに際だって見える。

 ロレンソがペースを1分49秒台へ下げたのは、ラスト3周の21周目。後続に対してすでに6秒以上の差を開き、レースを完璧にコントロールする状態に持ち込んでからのことにすぎない。

 今回のレースでここまで圧倒的なレース展開を進めることができたのは、1年半の紆余曲折を経て、ドゥカティのデスモセディチGPがようやく彼の扱いやすいマシンに仕上がってきた、という効果が大きい。

 前回のフランスGPでも序盤にはトップを走行したものの、やがてずるずると順位を下げ、最後は6位で終えた。レース後にロレンソは意気消沈した表情で、「燃料タンクの形状が自分に合わず、体力的な消耗が大きかった。十分なフィジカルトレーニングを続けて筋力も向上しているが、今のバイクではハードブレーキングの際に十分に支えきることができず、特に腕の疲労が激しくなる」と話していた。

 さらにさかのぼれば、2月にタイのブリラムサーキットで行なったプレシーズンテストの際にも、ロレンソはすでに同様の不満を訴えている。彼のこの話を受けて、ドゥカティは今回のレースウィークに形状違いの燃料タンクを投入。それが効果を発揮し、ロレンソはようやく思いどおりのライディングができるようになって今回の勝利につながった、というわけだ。

「ドゥカティでの初勝利、しかもムジェロでの優勝だから、本当に夢のようだ。1年半ものあいだずっと勝てず、どれだけ努力をしても結果がついてこなかったのだから、今日の優勝は本当に格別の気分だ」

 その優勝から遠ざかっていた期間に、ロレンソは多くの批判にも晒(さら)されてきた。それだけに、なおのことうれしい勝利だったことだろう。

「僕の訴えを信じてくれる人はあまりいなかった。『成績を残せない言い訳をしている』『ドゥカティでは勝てない』と言われ続けてきた。でも僕は、自分が失敗をしたときにはちゃんとそれを認めるし、今回は自分の訴えが間違っていなかったことを示すことができたので、本当によかった」

 9年間のヤマハファクトリー時代を経て2017年にドゥカティへ移籍してきたロレンソは、今年末で同社との2年間のファクトリー契約が満了を迎える。

「今日の優勝はとても誇らしいし、うれしく思う反面、この(バイクの)モディファイがもう少し早く間に合っていればドゥカティ残留につながっていたかもしれない、と思うと寂しい気持ちもある。部品の到着が、少し遅きに失した。来年からの2年間は、僕は別のバイクに乗ることになると思う」

 ロレンソの高額な報酬に難色を示していたドゥカティは、来季以降の契約更改をしないものと見られている。ロレンソの来シーズンのシートはここ1ヵ月ほどの間にいくつかの可能性が流動的に変化してきたようだが、現状では、ヤマハのサテライト陣営へ新しく加わるチームに移籍するとの見方が濃厚だ。