「日本は中盤で強固なブロックを作らないと、簡単にそのラインを越えられてしまう。それは危険だ」 ロシアワールドカップに向け、ミケル・エチャリはそう警鐘を鳴らしている。エチャリはこれまで、岡田武史、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギー…
「日本は中盤で強固なブロックを作らないと、簡単にそのラインを越えられてしまう。それは危険だ」
ロシアワールドカップに向け、ミケル・エチャリはそう警鐘を鳴らしている。エチャリはこれまで、岡田武史、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、そしてヴァイッド・ハリルホジッチの戦術を詳細に分析してきた。2010年南アフリカW杯の前にはアンカーを使ったシステムを推奨し続け、最終的にそれは現実のものとなった。2014年ブラジルW杯ではザックジャパンの攻撃偏重の危うさを指摘し、それも的中してしまった。
その分析力は、ジョゼップ・グアルディオラ、ウナイ・エメリのような名将からも高く評価される。はたして、スペインの名伯楽は西野朗監督の初陣、ガーナ戦(0-2で黒星)をどう見たのか?
ガーナ戦で2失点し、下を向くGK川島永嗣
「ハリルホジッチのチームがここ1年近く停滞していたのは間違いない。そこで西野新監督が新たな戦い方(3バック)を模索したのは戦いの常道と言える。選手たちのモラルを引き上げる必要もあったはずだ」
では、新たに試した3-4-3(3-4-2-1)は機能したのか?
「4-1-4-1の布陣を組んできたガーナを相手に、日本は序盤、明らかに苦しんでいる。
まず、2人のボランチ(山口蛍、大島僚太)が常に背後をとられる形になってしまい、トーマス・パーティーがフリーの状況だった。各選手の動き(判断)も悪く、例えば長友佑都、原口元気の両サイドは上がるタイミングが早すぎたし、シャドーに入った選手(宇佐美貴史、本田圭佑)は中盤をフォローすることができていない。2人のボランチは数的不利に晒され、ポゼッションも、プレスも、インターセプトもできない状態が続いた。
3バックも、長谷部誠は高さの弱点を露呈し、エマニュエル・ボアテングに狙われていた。押し込まれたまま5バックになる時間帯が長かった。”お尻が重たくなって”カウンターにも行けず、ビルドアップもプレスにはめられた」
その流れで、日本は前半8分にFKをパーティーに叩き込まれ、先制点を奪われている。
「(FKを与えた)槙野智章のファウルは不必要だった。壁の作り方にも問題はあっただろう。壁が完全に割れてしまって、来るべきではない場所からボールが飛んできている。それはGKの問題でもあり、避けられた失点だった」
エチャリは序盤の戦いに苦言を呈したが、その後、日本は確実にプレーリズムをつかんだという。
「原口が右サイドを切り込んで、大迫勇也がヘディングを放っている。本田の左足FKもきわどかった。そしてCKの流れで、ファーポストから再び本田が決定的なシュートを放っている。攻守が入れ替わったのは、ハイプレスを仕掛けていたガーナがリトリートしたことも影響しているだろう。しかし、高い位置でボールを持ったとき、特に右サイドからの日本の攻撃は迫力があった。左サイドは長友が孤立気味で、もう少し厚みがほしかった。
日本は後半、同じポジションに何人かを入れ替え、同じ形で戦っている。大迫、宇佐美、原口を武藤嘉紀、香川真司、酒井高徳に交代。わずか3分ほどの間に3度も決定機を得ており、決して悪くはなかった」
ところが後半4分、日本は裏へのパスを処理できず、PKを与えてしまい、0-2とされた。
「長谷部と川島永嗣のコミュニケーションがまずかった。2人の間に分け入ったボアテングにしてやられた。新しい代表監督初めての試合、初めてのシステムということで、連係に難があったことは否めない。
しかし、それだけではない、チームとしての不具合を感じた。例えば山口は、自陣深くでボールを受けると、単純なミスパスからカウンターを浴び、噛み合っていなかった。ボールをつなぐのは大事だが、自陣で行き詰まったらGKに戻すか、遠くに蹴るか。単純に危険を回避しないと重大事になる。選手の判断にズレがあった。
その後、日本は再び優勢を取り戻したが、それはガーナが4-4-2にし、ブロックを下げたことが原因だろう。日本も75分からは4-4-2に変更。中盤の厚みを加えたことで、攻撃的アクションはとりやすくなった」
慧眼(けいがん)と言われるエチャリは、最後に西野監督に対してこうアドバイスを送っている。
「結果そのものはネガティブだった。失点は十分に避けられた。この日は、選手の動きが噛み合っていたとは言えなかった。中に入るタイミングが早すぎたり、ボールを受けに来られていなかったり。そして3バックは、ボアテング1人に翻弄される場面が少なくなかった。
時間が限られた中、指揮官は、選手が”居心地のよさ”を感じる慣れた戦い方を選択すべきではないか。なにより中盤で強固なブロックを作らないと、簡単にそのラインを越えられ、窮地に陥る。中盤を安定させることによって初めて、日本人の機動力と技術の高さを活かした攻撃的プレーも可能になるはずだ」