「期待はしていた分、やっぱり悔しいですね」 落胆はない、でも満足もない、ドミニク・ティームに敗れて会見で試合を述懐した錦織圭の表情はそんな風に見えた――。全仏オープン4回戦、ティームに敗れ、コートから去る錦織圭 ローランギャロス(全仏オ…

「期待はしていた分、やっぱり悔しいですね」

 落胆はない、でも満足もない、ドミニク・ティームに敗れて会見で試合を述懐した錦織圭の表情はそんな風に見えた――。



全仏オープン4回戦、ティームに敗れ、コートから去る錦織圭

 ローランギャロス(全仏オープンテニス)4回戦で、錦織(ATPランキング21位、5月28日付、以下同)は、第7シードのティーム(8位、オーストリア)に2-6、0-6、7-5、4-6で敗れて、2年連続のベスト8進出はならなかった。

 過去の対戦では錦織の2勝0敗だが、2016年マスターズ1000・ローマ大会準々決勝以来、対戦がなく、ここ2年でティームはトップ10選手に成長を遂げて状況が変化しており、過去のデータは参考にならなかった。

「圭はどのサーフェスでも、ステップインして早いタイミングでボールを打ってくる。クレーでは、自分が有利になるように、圭をベースラインから少し後方に下がらせるようにしないといけない」

 試合前にこう語っていたティームは、武器であるフォアハンドストロークで、強力なトップスピンのかかった重いボールを深く打ち、プランどおりに錦織をベースライン後方へ下がらせてラリーの主導権を握った。

「足が動いていなくて、ティームの高い(バウンドで)重いボールに、雑な入り方をした。なかなか前に入って打てなかった」と錦織はラリーで後手に回りミスを強いられた。

 さらに、錦織を悩ませたのがティームの好調なサーブだった。「思ったよりフラット(サーブ)が多かったですね。もっとスピンを混ぜてくると思ったんですけど」と、錦織の予想に反して、ティームは時速210km以上の高速サーブを打ち込んできた。驚くべきことに本来リターンのいい錦織に対して、第1セット、第2セットのファーストサーブでのポイント獲得率はともに100%だった。

 第3セットからは、「もう少しじっくりプレーするように心がけた」と錦織は、なるべくミスを減らそうとしてベースライン後方3~4mからリターンをしたり、がまん強くラリーを続けたりした。お互いサービスキープが続いたが、第12ゲームで錦織は30-40とし、初めてつかんだブレークポイントがセットポイントとなり、このワンチャンスを活かして第3セットをもぎ取った。

 だが、第4セットに入ると再びティームが、トップスピンのかかった深いフォアハンドストロークでゲームを支配し始める。第7ゲーム30-40の場面では、錦織の時速119kmのセカンドサーブに対し、ティームが回り込んで、逆クロスへのフォアハンドリターンをコーナーに決めブレーク。錦織は悔しさのあまり、ラケットを思いきりコートに叩きつけた。

「後半にチャンスがあった分、やっぱり悔しいですね。最初の2セットは結構珍しい落とし方をしたので、ちゃんとやれば、ちゃんと調子が戻ってくれば、大丈夫だと言い聞かせてやっていました。けど、4セット目ももうひと踏ん張りだったので……」

 錦織からの初勝利を手にすると同時に、3年連続のベスト8入りを決めたティームは、フォアハンドストロークの17本を含む41本のウィナーを打ち込んだ。一方、錦織はブレークポイントを結局1回しか奪えず、フォアハンドストロークのウィナーは6本だけで合計で21本のウィナーにとどまった。

 この4回戦はもっと拮抗した勝負になるかと思われたが、錦織はクレーを最も得意とするティームに力負けし、トップ10選手に現時点のランキングどおりの実力差を見せつけられた格好になった。

 だが、「このクレーシーズンで、だいぶテニスは戻ってきました」と錦織自身が語るように、ローランギャロスでの3回戦までの試合や会場での練習で、錦織は実際にいいボールを打てていた。特に最大の武器であるフォアハンドストロークは、スイングがシャープで、ボールの回転もしっかりかかり、バウンドしてから伸びもあった。だからこそ、錦織も自分自身に期待をしていたのだ。

 自分の思うようなボールが打てたり、狙い通りのところに落とせたり、感覚が戻りつつあった。特に3回戦ではそういうシーンが顕著に見られた。

「フォアもそうですし、バックのダウンザラインだったり。(3回戦では)そんなに狙っていなくても、ライン際に吸い込まれたり、そういうショットも多かった。オンラインが今日(3回戦)はすごくありましたし。でも、ストローク全部ですね。やっぱりフォアを使って、今日みたいにプレーできれば、もっと自分から攻めれるスタイルになっていく。精度は両方(フォアとバック)とも上がってきていると思います」

 3回戦後に語ったこの錦織の感覚がさらに研ぎ澄まされれば、彼らしい躍動するフォアハンドストロークを主軸とした攻撃的なテニスを実践できるようになり、ランキングを再浮上させていけるのではないだろうか。ただ、錦織にとって残念なのはクレーシーズンが終了してしまったことだ。

「もうクレーも終わり、次は芝なので、気持ちも切り替えて、テニスも変えていかないといけない。次の調整をしたいと思います」

 錦織の復帰過程という観点からすれば、第19シードとして臨んだローランギャロスでベスト16という結果は、シードは守ったので決して悪いものではない。また、上位シードのティームに負けたのだから、落胆する必要もなく、まだまだ道半ばといったところだ。

 だが、錦織の悲願であるグランドスラム初制覇への道程からすれば、自分に期待し手ごたえを感じていた分、決して錦織は満足できないだろう。

 当面、錦織はグランドスラムで順当にいった場合、4回戦で上位シード選手との対戦する可能性が高く、この第一関門を突破しないと優勝戦線に残ってはいけない。ランキングを少しでも上げ、高いシードを獲得することも、錦織にとってはテニスの質を上げるのと同じくらい大切なことだ。

 ローランギャロスでさらに得ることができた自信と、クレーシーズンで取り戻したストロークのいい感覚を携えて、錦織のトップ10復帰への挑戦は続いていく。