6月2日、ニッパツ三ツ沢球技場。ルヴァンカップ・プレーオフステージ第1戦で、ヴィッセル神戸は横浜F・マリノスと戦い、4-2で敗れている。スペイン代表としてロシアW杯を戦った後、神戸に合流するアンドレス・イニエスタ「(セットプレーで)先…
6月2日、ニッパツ三ツ沢球技場。ルヴァンカップ・プレーオフステージ第1戦で、ヴィッセル神戸は横浜F・マリノスと戦い、4-2で敗れている。
スペイン代表としてロシアW杯を戦った後、神戸に合流するアンドレス・イニエスタ
「(セットプレーで)先制するまではよかった。プレスをかけ続けたかったが……」
試合後、吉田孝行監督はそう振り返っている。
「相手もプレスに慣れてきて、こっちも動きの量が落ちた。それで(前半で)逆転されてしまった。守備(の強度)が弱くなったのもあって、攻撃で自信がなくなってしまった。前線の選手が(パスを受けに)顔を出さなくなって、ピッチの状態が悪かったせいもあるが、(コントロールが難しく)消極的になってしまった。それで(前と後ろの)距離が遠くなって、攻守のバランスが崩れた」
このコメントだけでも、「守備によって攻撃を旋回させる」という戦術であったことがわかる。
しかし、この日はそれが空回りした。神戸はプレスが甘いことで、高いラインの裏に何度もスルーパスを通されている。ボールを奪えず、受け身に回った。ルーカス・ポドルスキの不在もあっただろうが、中盤でテンポを作る、変える、ということができず、攻撃は単調だった。結果、ボールを握る戦いでは横浜FMに後れをとった。前線にボールが入って差し込んだときは強力FW陣が強さを見せたものの、試合全体を通し、横浜FMに主導権を握られることになった。
このチームで、スペインから鳴り物入りで入団するアンドレス・イニエスタは、どのようなプレーを見せるのだろうか?
スペイン代表イニエスタはGK以外、どのポジションでもある程度はできる選手である。それほどにサッカーIQが高い。そのとき、その場所でなにが必要か、を常に心得ている。例えばリベロをやっても、「偽9番」(0トップのCF)をやっても、サイドバックをやっても、一流の域にあるだろう。
とはいえ、イニエスタを後方やサイドで用いるというのは、Jリーグでは少し贅沢すぎる起用法と言えよう。イニエスタは”プレーの渦”を創り出せる選手だけに、ボールとコンタクトする機会がより多い、中盤・中央で使うべきだろう。ボランチ、インサイドハーフ、アンカー、トップ下、シャドーなどだろうか。
神戸は4-2-3-1が基本システム(ルヴァンカップの横浜FM戦は4-2-4に近い4-4-2だった)で、その場合、イニエスタのポジションはボランチの一角が有力となる。
横浜FM戦、神戸はハイプレスに苦しみ、ビルドアップで質の高いボールが供給されなかった。中盤でボールを受けられず、ポゼッションが成立していない。もしイニエスタが中盤にいたら、より多くの起点を作れていただろう。彼がボールを収め、弾くことで、「魔法」をかけたようにボールは敵方向に進む。前線には得点力の高いFWがいるだけに、”弾を装填”できたはずだ。
しかし、神戸がイニエスタを最大限に活かすには、現在の受け身的なプレースタイルを修正する必要があるのではないだろうか。
イニエスタはバルサやスペイン代表で、「ボールを持って主導権を握る」能動的なプレーによって大成している。「相手のボールを奪う」が戦術軸ではない。「自分たちのボールを失わず、主導権を握る」が軸にあった。
一方で現時点での神戸は、ボールをつなぐ意思はあるものの、「ハイプレスでショートカウンターを狙う」という色のほうが濃い。この日は、横浜FMのほうがイニエスタの入ったチームを想像することはたやすかった。なぜなら、「積極的にボールを受け、持ち運ぶ」という能動的な回路ができていたからだ。
神戸がイニエスタの才能を生かし切るには、戦略的に「自分たちのポゼッションをどう高めるか」へ転換する必要がある。例えば、バックラインからのフィードは強さ、角度を含めて今以上の技量が求められるし、サイドは起点となって幅を作り、FWはボールを収め、深みを作り、押し上げを促すことが求められる。能動的な戦い方の確立だ。
“ボールありき”の戦い方においてこそ、イニエスタは神戸の選手たちにカタルシスを与えるだろう。「周りの選手のプレーを輝かせる」という点に、彼の極意はある。味方との呼吸をつかむのがうまく、最高のタイミング、精度でパスを出すことによって、その選手は面目躍如となる。右サイドアタッカーとして強い個性を感じさせる18歳のMF郷家友太などは、大きく伸びるはずだ。
一方、イニエスタが適応に苦しむ可能性もあるだろう。Jリーグでプレーした経験のあるスペイン人選手の多くはそのサッカーに対して「せわしない、運動量が求められる」という印象を抱いている。おそらく、イニエスタもその違和感に行き当たるはずだ。
スペインではポジションを守る感覚があって、むやみに定位置を留守にしない。Jリーグでは走ることが奨励されるあまり、不用意に動きすぎて裏をとられる、という本末転倒の現象が起こっている。
「ボールを走らせる」
それがイニエスタのプレーであって、受け身のサッカーは向いていない。とりわけ、夏の日本でイニエスタを走らせるのは、宝の持ち腐れとなる。スペイン人にとっては消耗が激しいはずだ。
いずれにせよ「イニエスタ神戸」の存在は、それ自体がひとつのスペクタクルになる。Jリーグの台風の目になるのは間違いない。デビューを飾るのは、7月22日の湘南ベルマーレ戦、もしくは7月28日の柏レイソル戦と言われる。