見るに堪(た)えない壮行会だった。 試合は、日本がガーナに0-2で完敗。まったく高揚感のない試合内容に雨も手伝い、試合途中から足早に席を立つ観客は多かった。 ところが、半分以上が空席になったスタンドのしらけた空気を無視するように、試合…
見るに堪(た)えない壮行会だった。
試合は、日本がガーナに0-2で完敗。まったく高揚感のない試合内容に雨も手伝い、試合途中から足早に席を立つ観客は多かった。
ところが、半分以上が空席になったスタンドのしらけた空気を無視するように、試合後のスタジアムにはスモークとライトで派手な演出が施され、人気アーティストが熱唱。
無論、出演した彼らに何ら責任はない。だが、不可解な監督解任劇から直前に見た凡戦までの文脈で言えば、どう見ても”KY”な演出である。そこに日本サッカーの現状と、日本サッカー協会の姿勢が表れているように思え、いたたまれない気分になった。
繰り返すが、試合は完敗。結果ばかりか、日本代表は攻守両面においてチームになっておらず、内容的にも見るべきものは乏しかった。
ガーナ相手に完敗した日本代表
もちろん、新監督が就任して間もないという事情はある。もしワールドカップが4年後なら、その言い訳も通用するだろう。最初だから仕方がないと鷹揚(おうよう)に構えてもいられる。
だが、日本のワールドカップ初戦までは、すでに3週間を切っている。かなりの危機的状況と言わざるをえない。
とにもかくにも、この期に及んで腑に落ちないことが多すぎる。
西野朗監督は積極的に3-4-2-1の新布陣に取り組んでいるが、その一方で「これからこの形で(ずっとやっていく)、とは考えていない」。キャプテンのMF長谷部誠もまた、「3バックはひとつのオプションの形。4バックがベースとしてある」と言う。あくまでも相手次第でさまざまな対応をするなかでの、オプションのひとつだと強調する。
にもかかわらず、指揮官は「ガーナのシステム(4-3-3)と選手個人の特長を戦術的に消すことを考えれば、(日本が採るべき布陣は)3バックではなかったかもしれない」とし、ミスマッチを覚悟のうえで3バックを採用したことを明かしている。
主戦システムに考えているわけでもない3-4-2-1を、しかも、オプションとして行使するにもふさわしいとは思えない状況で、無理に採用する意味は何だったのか。
西野監督の「いろんな状況に対応していきたいというなかで、(3バックにも)トライしたかった」という言葉は、わからないではない。DF吉田麻也も「新しいことにチャレンジしている。理想は持って試合に臨むが、理想どおりに試合が進むことはない。4年前の(ワールドカップでの)コートジボワール戦は理想どおりに進まず、そのままズルズルいってしまった」と話し、対応力を上げることの必要性を口にする。
だが、本番直前の今、ベースが確立されているのかどうかすら怪しいうえに、オプションがオプションとしての体(てい)をなしていないのでは、どっちつかずの状況に陥っている感は否めない。
3-4-2-1では本来、前線の3人、いわゆる1トップ2シャドーが攻撃のキモになる。しかし、ガーナ戦を見る限り、3人が3人とも次の狙いを持たずに足もとでボールを欲しがるばかり。当然、連動性は皆無だった。彼らがピッチ中央に深さとギャップを作り出すことで、サイド攻撃もさらに効力を増すはずだが、むしろ中央が足を引っ張っていた。
そもそも1トップ2シャドーの人選からして、どれだけ連動性を期待していたのか疑わしい。自分がやってやるという気概はあっぱれだが、”王様気質”はときに組織的な戦いの足かせになる。
最終ラインにしても、長谷部を3バックの中央に置くメリットはまったく感じられなかった。ビルドアップが円滑になるわけでもなく、ただ守備面での危うさを増加させるばかりだった。
吉田が険しい表情で語る。
「10月から1試合も勝っていない。そこを理解して、内容もそうだが、まずは戦うところからやらないと。相手(ガーナ)はワールドカップに出られないチームで、レギュラーもいなくて、17人しか来ていなかった。恥ずべき試合だった」
ガーナ戦からポジティブな要素を見つけるとするなら、もうこれ以上悪くなることはない、ということくらいだろうか。
いや、わずかながら光明はある。MF大島僚太だ。
大島僚太が停滞するチームの
「救世主」となるか
ノープランでボールを欲しがる選手ばかりが目立つなか、ひと際小柄な背番号18だけは、次の狙いを持ってパスを受け、その次の狙いを持ってパスを出していた。彼の意図に沿ってプレーできる選手が少なかったため、ピッチ内の状況が劇的に変わることはなかったが、大島は停滞するチームを変えられる可能性を持つ唯一の存在だった。
西野監督も、試合前のプランではMF井手口陽介を大島に代えて投入するつもりだったというが、「大島の今日の展開力、プレーメイクを考えると外せなかった」。結局、井手口は長谷部と交代で出場した。
大島はケガがちだったこともあり、これまでその才能に比して、なかなか日本代表での立場を強くできなかった。だが、指揮官の彼への評価は、この試合をきっかけに大きく変化したはずだ。
大島は間違いなくチーム内の序列を崩した。彼に攻撃のタクトを託して行なえるテストマッチが、まだ2試合残っている。
せめてもの救いである。