スポーツランドSUGOで5月26日~27日に行なわれた全日本スーパーフォーミュラ第3戦は、山本尚貴(TEAM MUGEN)が先行するライバルを逆転し、開幕戦に続いて今季2勝目を飾った。第2戦・オートポリスが悪天候で中止になったため、記…

 スポーツランドSUGOで5月26日~27日に行なわれた全日本スーパーフォーミュラ第3戦は、山本尚貴(TEAM MUGEN)が先行するライバルを逆転し、開幕戦に続いて今季2勝目を飾った。第2戦・オートポリスが悪天候で中止になったため、記録上は「2勝目」という扱いだが、実質的には今季2連勝。早くもランキング2位以下に11ポイントもの大量リードを築き、首位を独走している。



今季早くも2勝目をマークして絶好調の山本尚貴

 今シーズンの山本はスーパーGTでも大活躍中で、こちらは3戦を終えて2位表彰台を2度獲得。ジェンソン・バトンとともにランキングトップを快走しており、今一番「波に乗っているドライバー」と言っても過言ではない。

「(好調な)要因はひとつだけではないと思います。いろんな要素が絡み合って、今の調子のよさにつながっていると思います」(山本)

 ホンダ陣営のパフォーマンスアップやチームのミスのない作業など、周囲のサポートが好成績につながっているのは間違いない。ただ、それとは別にもうひとつ、山本が躍進するキッカケとなったのは、昨年のスーパーフォーミュラでチームメイトとなったピエール・ガスリーの存在だという。

 2016年にGP2(現FIA F2)を制したガスリーは昨年、山本の所属するTEAM MUGENに加入し、スーパーフォーミュラ1年目ながら2勝をマーク。ランキング2位でシーズンを終えた。その活躍が認められてシーズン途中からF1のシートを獲得し、今季はトロロッソ・ホンダからF1フル参戦を果たしている。

 チームメイトが活躍する一方で、昨年の山本は苦戦の多いシーズンを送った。開幕戦の鈴鹿で2位表彰台を獲得したものの、それ以外では0ポイントに終わるレースが続いた。

 これまでTEAM MUGENは1台体制でレースに挑むことが多かった。だが、昨年はガスリーが加入したことによって2台体制となり、チーム内の環境もいくつか変わったという。

 自他ともに「ホンダ陣営のエース」と認める山本からすれば、新加入のガスリーは絶対に負けてはいけない相手だった。だが、その「負けたくない気持ち」が空回りとなったのか、特に昨年の後半は地に足がついていないほど落ち着きのない様子だったのを覚えている。

「ピエール(・ガスリー)に対して負けることは絶対に許されないと思っていたし、自分が結果を出し続けないといけないと思っていました。彼に負けるわけにはいかないという思いが強すぎて、ちょっと自分でも見失っている部分がありました。走り方もそうだし、今思えば余裕がなかったなと思います」

 精神的に相当追い詰められたと、山本は当時を振り返る。ただ同時に、ガスリーの走りからもいろいろ学んだともいう。

「精神的にいいものではなかったし、つらかったのは確かです。その環境のなかで自分をコントロールしていかなきゃいけないのですが、修正する間もなくシーズンが終わってしまった。ただ、自分にはない走らせ方や考え方も、ガスリーから習得しました」

 オフシーズンの間、山本は2017シーズンを振り返り、どうすればいいかを深く考え、そして今シーズンは考え方を変えてレースに臨んでいるという。

 たしかに今シーズン、山本に何度か取材していると、そこでの会話に「柔軟」や「吸収」という言葉がよく出てくるようになった。たとえば、スーパーGTで元F1王者のバトンとコンビを組むことになったとき、山本は「柔軟に彼のいい部分を吸収していきたい」と語っている。

 これまでは「ホンダのエース」として、山本はホンダ勢のなかで常に一番の結果を残すことに強いこだわりを持っていた。だが、昨年「負け」を経験したことによって、今年は予選で順位がよくないときでも、落ち着いて次の手を考えている様子が見受けられる。

 今回のレースは、ピットストップのタイミングが明暗を分ける展開となった。山本はベストとも言えるタイミングでピットインすることに成功し、それが優勝へとつながったのは間違いないだろう。

 レースというものは、実力やチームの総合力はもちろんだが、最後はこうした「運」で決まることも多々ある。山本のレースを振り返っても、いつも運に恵まれたケースばかりではない。昨年のスーパーフォーミュラ第6戦・SUGOでは、セーフティカー導入を見越した戦略が裏目に出てしまい、レース終盤にガス欠でストップ。昨年のスーパーGTでもセーフティカー導入で流れが変わり、トップ争いから脱落する場面がいくつもあった。

「クルマの調子がよくて、レース展開にも恵まれているときは、何もしなくても勝っちゃうんですよね。でも、レースをやっていれば絶対にいいときばかりじゃないし、苦しい時期がくるのも当たり前。なので、その苦しいときにどれだけ目を背けないでがんばり続けられるかが、僕は大事だと思っています」

 この言葉を聞いて、筆者は2014年のことを思い出した。山本は前年に初めてスーパーフォーミュラの年間王者を獲得したものの、2014年は開幕前テストでトップから2秒遅れという散々な結果に始まり、シーズンに突入しても苦しいレースを強いられた。

 そのとき、彼が常々言っていたのが、「苦しいときこそ、クサらず、前を向いてがんばる」だった。

 昨年もガスリーにスポットライトが当たる一方、チームメイトで比較対象になりやすい山本は苦しい状況に立たされていた。だが、その現実を受け止め、あきらめずにコツコツと努力を重ねてきた結果が、今の「運」も味方してくれるほどの快進撃につながっているのかもしれない。

 チャンピオンシップをリードする現状について、山本はこう語る。

「2勝しているけど、まだレースはたくさん残っていますし、自分がリタイアしたらポイントランキングもすぐに逆転されてしまうので、絶対に気を抜いちゃいけないです。非常にいい流れなのは事実なので、自分のいいところと反省すべきところを見極めて残りも戦っていけたら、自分の目標(年間王者)に届くんじゃないかなと思います」

 これからのシーズン中盤は、トヨタエンジン勢が得意とするコースが続く。だが、「クサらずに前を向く」姿勢を貫き続ければ、2013年以来となる年間チャンピオン獲得の可能性はグッと広がるだろう。