ダニエル・リカルドのモナコ初制覇で盛り上がるレッドブルのエナジーステーションで、彼に勝(まさ)るとも劣らない清々しい表情をしていたのが、トロロッソ・ホンダのピエール・ガスリーだった。10番グリッドからスタートして抜けないモナコで7位ま…

 ダニエル・リカルドのモナコ初制覇で盛り上がるレッドブルのエナジーステーションで、彼に勝(まさ)るとも劣らない清々しい表情をしていたのが、トロロッソ・ホンダのピエール・ガスリーだった。10番グリッドからスタートして抜けないモナコで7位まで浮上してみせたガスリーの走りは、中団グループのなかでひと際光っていた。



初経験のF1モナコGPで7位入賞を果たしたピエール・ガスリー

「レース序盤はタイヤをものすごくケアして、前のみんながピットインしていなくなったところでプッシュし始めたんだ。そのあとピットインして、ウルトラソフトやスーパーソフトに換えたみんなよりも速いペースで走ることができた。

 その速さのおかげで、ふたつポジションを上げることができたんだ。それと(フェルナンド・)アロンソのリタイアで3つだ。モナコのような抜きにくいサーキットで、しかも僕自身F1で初めてのモナコで、これだけのレースができて本当にうれしいよ」

 ガスリーがそう振り返るとおり、予選で使ったハイパーソフトタイヤでスタートした上位グリッド10台は、ロングランでは柔らかいタイヤの扱いに苦戦し、もっとも負荷がかかる左フロントタイヤにグレイニング(※)が発生してグリップが低下していた。上位勢が20周にも満たない段階で早々にピットインしてハイパーソフトを捨てたのに対し、ガスリーはここからなんと37周目までハイパーソフトを保(も)たせてみせた。

※グレイニング=タイヤ表面のゴムがささくれてサメ肌のような状態になること。

 ハイペースを刻みながらも、タイヤをいたわる――。ガスリーは巧みなドライビングでそれを実行していたという。

「ブレーキングではタイヤをロックさせないようにかなり慎重にならなければならないし、コーナーのなかで削ってしまわないようにステアリングはできるだけスムーズに切らなければならないし、スロットルもジェントルに扱わなければならない。同時に速く走りながら、それをやらなければならないんだからね。簡単なことではないよ。

 下位カテゴリーでは、僕はタイヤマネージメントが上手なドライバーではなかった。だけど、GP2の2年目にピレリタイヤでそのコツを学んで、ドライビングスタイルを変えたり、レースのアプローチ方法を変えたりして、それがうまくいったんだ」

 ハイパーソフトで走り続けたガスリーは、37周目のピットストップまでに前のセルジオ・ペレス(フォースインディア)とカルロス・サインツ(ルノー)を逆転し、フェルナンド・アロンソ(マクラーレン)の背後につけた。

 そして、一気に追い詰めたところでアロンソのマシンにギアボックストラブルが発生し、労せずして7位に上がった。さらにエステバン・オコン(フォースインディア)よりも速いペースでギャップを縮め、レース終盤には逆転を狙っていた。

 しかし、後方からはハイパーソフトに履き替えたルノーのニコ・ヒュルケンベルグとレッドブルのマックス・フェルスタッペンが驚異的な速さで追い上げてきて、三つ巴のテールトゥノーズの争いになった。

 16番グリッドから11位まで追い上げてきたブレンドン・ハートレイがブレーキトラブルのシャルル・ルクレール(ザウバー)に追突されてVSC(バーチャルセーフティカー)が導入されたことで、ガスリーはなお厳しい状況に追い込まれたかに見えた。だが、本人は至って冷静だった。

「VSCが出てタイヤの温度が下がってしまってからは、僕のスーパーソフトよりも彼らのハイパーソフトのほうが温まりが早いから心配はしたよ。でも、ここはモナコだからね。ちょっとコースの真ん中を走れば後ろのドライバーはどうすることもできない。ミスを犯さないことだけに集中して走って、それでOKだったよ!」

 チームの戦略とドライバーのドライビングが見事にマッチして手にした7位。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう振り返る。



抜きづらいモナコでトロロッソのレース戦略は見事にはまった

「タイヤの使い方も含めたレース戦略がうまくいって、ガスリーもレース中にいろいろ考えながら走ったみたいで、いいレースができました。想定ではもうちょっと早くピットインする予定でしたが、レース展開とタイヤのデグラデーション(性能低下)を見ながら、いけるところまで長く引っ張ったほうが得だよね、という話は最初からしていました。

 レース序盤にみんなにつられてピットストップしてしまっていたら、おそらくポジションは上げられていなかったでしょう。チームとしてはあそこでステイアウトするのはかなり悩んだし、勇気のいる戦略だったと言っていましたが、レース展開のなかでガスリーのタイヤの保ちと戦略がうまくつながったと思います」

 トロロッソがこの戦略に賭けようと決めたのには、もうひとつ理由があった。それは、STR13のマシン性能が予選結果以上のものだという自信があったからだ。

 予選は10位に終わったが、6位のオコンまではたったの0.160秒差。しかも、このタイムはプールサイドシケイン出口のガードレールに接触し、縁石に乗り上げるというミスを犯してのもので、ガスリー本人も冷や汗をかくほどの状況だった。

「マックス(・フェルスタッペン)と同じようにターン15のイン側のウォールにヒットしてしまって、かなり危なかったよ。もう少し強くタッチしていたら、(フリー走行3回目の)マックスみたいにまっすぐクラッシュしていたと思う。なんとかコース上にとどめることはできたけど、かなりギリギリだった」

 実はトロロッソとしては、6位や7位グリッドにつけることを前提にQ3に進んでいた。Q3に進んでも10番グリッドになるくらいなら、ヒュルケンベルグがそうだったようにQ2で敗退して、11番グリッドからハイパーソフト以外の新品タイヤでスタートしたほうがレース戦略としては有利だったからだ。

「なんとかQ3にいければいいや、というようなレベルのクルマではありませんでしたし、なんとかQ3に進んで10番手というよりも、もうちょっと上を狙っていたんです。『たら・れば』でいうと、セクタータイムの自己ベストを足して比較するといいところに行きますし、実際にはトラフィックなどでそこまでの計算は成り立たないとしても、もう少し上には行けたはずでした」(田辺テクニカルディレクター)

 これについてはガスリーも、「6番グリッドからスタートしていれば、確実に6位でフィニッシュする速さがあった」と認めており、バーレーンGP以来の中団トップに立ち、上位勢の状況によってはさらに上の順位も見えた展開だった(実際に5位のバルテリ・ボッタスはハイパーソフトに苦しみ、6位のオコンと4.845秒しか離れていなかった)。

 トロロッソはモナコGPでSTR13にバージボード(モノコック側面の整流板)とリアブレーキカバーのアップデートを施し、それほど大きな効果をもたらすものではないが、きちんと機能した。木曜のフリー走行ではガスリーが不満を訴えていたリアのスタビリティやマシンバランスも、データ分析に基づいて土曜の予選までにしっかりと仕上げることができた。

 そして、前戦のスペインGPまでの不振の原因となっていたタイヤの扱いについても、モナコという極めて特殊なサーキットではあるものの、前述のとおり他チームを上回る成果を見せることができた。パワーユニットもドライバビリティとエネルギーマネジメントを確実に仕上げることに成功。レース中のさまざまな状況に応じてプッシュしたりセーブしたりといったモードの変更では「2周だけモード11を使って」と指示するなど、ホンダ側エンジニアとトロロッソ側エンジニアの間での情報共有が頻繁かつスムーズに行なわれていた。

 STR13というマシンパッケージへの理解は着実に進んだ。ここからは高速戦が続き、楽な戦いにはならないだろうが、次戦のカナダGPにはホンダの新型パワーユニットも投入されることがほぼ決まっており、「かなり大きなアップグレードになる」とドライバーたちも期待を寄せている。

「とにかくレースで7位争いをするのは、12位や13位を争うよりも格段にエキサイティングだよ。僕自身もまだまだ毎戦学習していっている段階だけど、マシンのフィーリングもどんどん気持ちよく走れるようになってきている。今後ももっと頻繁に、こういうポジションが争えればと思うよ」

 モナコGPのトロロッソは7位という結果以上に大きな前進を果たすことができた。いよいよ次は、ホンダの番だ。