宇佐美貴史インタビュー(後編)現在の充実ぶりを語る宇佐美貴史前編はこちら>> 2018年1月25日、ウインターブレイクとなる約1カ月間の中断を経て、ブンデスリーガ2部の戦いが再開した。 第19節のFCエルツゲビルゲ・アウエ戦からの再スタ…
宇佐美貴史インタビュー(後編)
現在の充実ぶりを語る宇佐美貴史
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2018年1月25日、ウインターブレイクとなる約1カ月間の中断を経て、ブンデスリーガ2部の戦いが再開した。
第19節のFCエルツゲビルゲ・アウエ戦からの再スタート後も、フォルトゥナ・デュッセルドルフの宇佐美貴史は変わらず途中出場が続いていた。だが、第23節のフュルト戦で豪快なミドルシュートを叩き込むと、続く第24節のSSVヤーン・レーゲンスブルク戦で移籍後初のフル出場が実現。1アシスト、1ゴールの活躍を見せた。
結果的に、その2試合を含めて4試合連続ゴールを挙げた宇佐美は、その後も先発のピッチに立ち続けて、デュッセルドルフのブンデスリーガ1部昇格に大きく貢献。優勝の瞬間は、半年前の曇った表情が嘘のように、晴れやかな笑顔で仲間と健闘を称えあった。
「リーグ戦を終えて感じたのは、フォルトゥナでの前半戦は結局、コンディション不良に陥っていたんだということ。と言っても、当時はまったく自覚していなかったし、だからこそ『こんなにやっているのに、なんでやろう?』って考えが浮かんできて苦しんでいたけど。でも、後半戦を戦って、比べる材料ができたら『ああ、これが本来のコンディションなのか』と理解できた。
そんなふうにコンディションを取り戻せたのは、ウインターブレイク中も含め、それまでのチャレンジがようやく身になり出したんだと思う。いろんな人に会って話を聞いたことや、それをヒントに行動したこともそうだし、パーソナルトレーナーとのトレーニングや食事面での取り組みもそう。
それらが少しずつ身になり、力となって、どんどん体が動くようになっていくのを実感していた。すると、必然的に結果も出るようになり、使ってもらう時間も増え、コンスタントに試合を戦えば自分にもリズムが生まれ、キックの精度も上がっていくというポジティブな連鎖が起きていった。特にリーグ終盤戦での、キックの精度は我ながらエグかったと思う。軌道、速さ、角度まで、自分のイメージと寸分の狂いなく蹴れていたから。
そう考えても……結局、僕の一番の調子のバロメータはキックなんだと思う。『この強さで、このタイミングで、このコースに蹴る』というイメージどおりにボールが飛んでいくときは、コンディションも確実にいい。それを再確認できたのは、今シーズンの収穫やった」
加えて言うならば、デュッセルドルフでの1シーズンでポジションやプレーの幅をさらに広げられたのも、彼にとっては大きな収穫だったはずだ。
MF原口元気が加入してからは、特に右サイドMFとしてプレーすることが増えたが、試合や状況によっては、時に左サイドMFやトップ下でプレーするなど、与えられたポジションに応じてプレースタイルを変化させながら、チームに”必要な選手”として存在し続けた事実は、それを証明するものだろう。
「フォルトゥナではいろんなポジションを預かった分、プレーの幅を広げられた1年になったと思う。『打開の左、連係の右』というか……左で出たときはカットインからのシュートや、より”仕掛け”の部分を強く押し出すことを意識していたし、右で出たときは、自分のところで完結させるというより、生み出していくイメージでプレーしていた分、ドリブルでの仕掛けは減ってしまうけど、シンプルなプレーが研ぎ澄まされた。
また、トップ下に関してもボールを触れるポジションだからこそ、状況によっていろんな選択肢からプレーを使い分けられていたしね。その3つ(のポジション)のうち、どれかが抜きん出ていいとは思わないけど、今は、その3つでプレーできることが、自分のよさかなとも思う」
そうした充実感を得ながら、ドイツでのシーズンを戦い終えた宇佐美に日本代表選出の知らせが飛び込んできたのは、5月18日のこと。西野朗新監督が選んだ日本代表27名の中に、彼の名前はあった。
「この1年、チームで結果を残すことに必死すぎて、日本代表のことを考える余裕すらなかったから。自分ではないもう一人の誰かが僕に声をかけるなら……言葉を選ばずに言うなら、『ディープインパクトばりのまくりやな!』って感じ。
でも、そのくらい一時は遠くにあった日本代表だっただけに、今、素直に『ありのままの自分でいい』と思える状態でいけるのは……うん、悪くないね」
一報を受け、そう話した宇佐美は、なおも日本代表への思いを言葉に変える。
「フォルトゥナでの戦いを通して思ったけど、結局、選手って目の前の1試合を全力で戦う先にしか、次はない。もちろん、これまでの経験上、日本代表となれば、国民の期待や注目度、責任の大きさが違うということは理解している。でも、そういう期待を意識して(プレーが)よくなるなら、全力で意識するけど、それがプレッシャーや自分のプレーの足かせになるなら、意識せずに戦うほうが、最終的には日本を代表して戦うことの責任を果たすことにつながるはず。
だから、今はいい意味で肩の力を抜いたまま、目の前の1試合にフォーカスを合わせて最高の準備をし、結果を残すことしか考えていない。実際、今回、日本代表に選ばれたからといって、トレーニングやガーナ戦で何もできなければ、その先のW杯にはつながらないとも思う。
ただ、そういう覚悟で臨んで、仮に何もできなかったとしても……去年のように、それに苦しむことはもうないかな。そのときは、自分はそこまでの力しかない選手だということを受け入れ、その物足りなさを補うためにやり続けるだけ。どんな偉大な選手も、そうじゃない選手も、結局、選手としての成長って、その繰り返しでしか求められないと思うから。
といっても、ここまできた限りは、なんとしてでもメンバーに残ってやるという気持ちは強いし、それをプレーで表現したいとも思う」
自分のことを話しているようで、どこか他人事のような、そんな口ぶりで話す宇佐美に、過剰に気負う様子は感じられない。サッカーの話をすることさえつらそうだった半年前が嘘のように、目の前に座る彼は楽しそうだ。
であるからこそ、ロシアW杯のピッチに立つ宇佐美の姿が、チラついてならない。プロとして歩き始めて10年。これまでも「サッカーが楽しくてたまらん!」と目を輝かせていたときには、必ずと言っていいほど、ピッチで躍動する姿を見てきたから。