【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(4) 開幕戦の岡山でいきなり2位表彰台に食い込み、鮮烈なスーパーGTデビューを飾ったジェンソン・バトン(RAYBRIG NSX-GT/ナンバー100)。しかし、5月上旬の第2戦・富士では走…

【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(4)

 開幕戦の岡山でいきなり2位表彰台に食い込み、鮮烈なスーパーGTデビューを飾ったジェンソン・バトン(RAYBRIG NSX-GT/ナンバー100)。しかし、5月上旬の第2戦・富士では走行中に大きく順位を落とし、苦しいレース展開となってしまった。そんななかで迎えた5月19日~20日の第3戦――。舞台はF1時代にも優勝経験があり、彼がもっとも得意とする「鈴鹿サーキット」だ。

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得意の鈴鹿で本領を発揮できなかったジェンソン・バトン

 シーズン開幕前から、バトンは鈴鹿ラウンドに関してかなりの自信を持っていた。過去に何度も走り込んだコースで、2011年のF1日本GPではマクラーレンを駆って優勝も果たしている、さらに昨年のスーパーGT第6戦の鈴鹿1000kmにもスポット参戦しているので、全8戦のなかで唯一「スーパーGTの実戦経験があるサーキット」だからだ。

 その証拠に、シーズンオフのテストからパートナーの山本尚貴をはじめ、ライバルとのタイム差は他のコースと比べると小さかった。さらに4月に同地で行なわれた公式テストでも、バトンは2日連続で総合トップタイムをマークしていた。

 また、相方の山本もスーパーGTの鈴鹿ラウンドでは2013年の初優勝を含め、過去5回も表彰台を獲得している。4月下旬に行なわれたスーパーフォーミュラ開幕戦でも優勝を果たすなど、山本も鈴鹿を得意としているドライバーのひとりだ。今シーズンはテストの段階からNSX-GT勢の速さが鈴鹿サーキットで際立っており、大会前から関係者の間では「鈴鹿ラウンドの本命は100号車だ」という声が飛び交っていた。

 周囲の期待が高まるなかで迎えた公式予選。チームはQ1にバトン、Q2に山本を起用する作戦に出る。Q2進出の条件は全15台中8位以内に入らなければならないが、バトンは前評判どおりの速さを発揮。1分45秒130を記録して、3番手でQ1突破を果たした。

 ポールポジションをかけたQ2では、山本が渾身のアタックを見せる。だが、ARTA NSX-GT(ナンバー8)の野尻智紀に一歩及ばず2番手。それでも優勝を十分に狙える位置につけた。

 そして5月20日の決勝レース。100号車はバトンがスタートドライバーを務めたが、レース開始直後からポールポジションの8号車に引き離され、14周目の時点では10秒の差がつく展開となる。

 その後、他車のアクシデントでセーフティカーが導入されて、トップとの差は一度リセットとなった。しかし、19周目の再スタート時には3番手のニック・キャシディ(KeePer TOM’S LC500/ナンバー1)に隙を突かれ、2コーナーで追い抜かれてしまう。その後もペースが上がらないバトンは、19周を終えたところでピットインして山本に交代した。

 この展開を一見すると、「前回と同様に決勝でのペースが悪かった」とネガティブに思われがちだ。だが100号車には、スタート直前に起きた「ひとつの誤算」が大きく影響を及ぼしていたのである。

 その誤算とは、鈴鹿サーキットの計時システムが決勝レース直前に不具合を起こし、その復旧作業のためにスタート時刻が40分も遅れてしまったことだ。

 100号車は決勝スタート時のコンディションを見据え、予選の段階でミディアムタイヤを選択していた。ところがスタートが40分遅れたことにより、気温と路面温度が想定よりも下回ることになってしまったのである。これが大きな影響を及ぼし、バトンはスタート直後からタイヤのウォームアップに大苦戦。それに対し、8号車はウォームアップが比較的早いソフトタイヤを選択していたため、1周目から一気に後続を引き離す走りができたのだ。

「僕たちはミディアムタイヤを選んでいて、それに対して8号車はソフトタイヤを選んでいた。そこでの差が大きかった。このコンディションでのミディアムタイヤは苦労したよ。スタートからタイヤがなかなか温まらなかったからね。再スタート時も同じ状況で、今度はニック(・キャシディ)に抜かれてしまった。でも、その問題はナオキ(山本尚貴)のスティントでソフトタイヤに履き替えたことで解決したよ」

 こうバトンが語るように、ピットストップ時にソフトタイヤを装着した山本は遅れを取り戻すべく、怒涛の勢いで追い上げを開始した。25周目には1号車を抜き返し、さらには8号車にも急接近する。しかし、最後の追い上げはついに届かず、100号車は2位でフィニッシュとなった。

 レース後のバトンは2位という結果に悔しさを見せたものの、一方でドライバーズランキングでトップに立ったことには素直に喜んだ。

「正直、今回は勝ちたいという思いが非常に強かった。開幕戦でもあと一歩だったし、今回もあと一歩だった。でも、これがレース。常に状況は変化する。そのなかで今回もしっかりポイントを獲得して、チャンピオンシップをリードすることができた。初めてのスーパーGTフル参戦でこんなにいい結果なのはハッピーだし、ナオキという心強いチームメイトがいてくれることもすごくラッキーだね」

 また、これまでの2戦で課題となっていたGT300クラスのマシンを追い抜く際のペースダウンも、この第3戦では比較的少なかった印象だ。よく知る鈴鹿が舞台だったことも味方したかもしれないが、このサーキットは比較的コース幅が狭く、クラス違いの車両が相手とはいえ、スムーズに追い抜いていくのは難しい。そのなかでも目立った遅れを見せなかったのは、バトンが着実にGTマシンの経験を積み上げている証拠だろう。

 ただ、まだ気になる点もある。それはここまで3戦を終えて、バトンが自身のスティントで他のマシンを抜いて順位を上げるシーンがないことだ。GT300クラスとの混走をうまく利用して、どうやってライバルたちの隙を突いていくか――。この技術が身につけば、今まで以上にレベルアップした走りが期待できるだろう。

 次回は唯一の海外戦、タイ・ブリーラムで6月30日~7月1日に第4戦が行なわれる。

「次のタイはまったく走ったことがないコースだけど、何も知らないからこそ、すぐにいろいろ学べると思うよ」

 初体験となるコースで、かつ走行時間の少ないなか、いかにコースを攻略できるか――。第4戦はバトンの適応能力も問われるレースとなりそうだ。