モナコGPはF1カレンダーのなかで格別の存在であり、その舞台となるモンテカルロ市街地サーキットは世界中どこを探しても比類を見ない特別なコースだ。 昨年のワイド化に続き、今年は空力性能の向上とタイヤグリップの向上で、F1マシンが軒並みコ…

 モナコGPはF1カレンダーのなかで格別の存在であり、その舞台となるモンテカルロ市街地サーキットは世界中どこを探しても比類を見ない特別なコースだ。

 昨年のワイド化に続き、今年は空力性能の向上とタイヤグリップの向上で、F1マシンが軒並みコースレコードを更新している。歴代最速の2018年F1マシンを駆るF1ドライバーたちにとって、今年のモナコはさらに特別なものになりそうだ。



モナコの市街地コースを攻めるピエール・ガスリー

 モナコ在住の王者ルイス・ハミルトンはモナコをこう語る。

「モナコを走るのは、いつになっても夢のような気分だよ。1年に1度しか走ることができないのが残念なくらいだ。だけど、ものすごく緊迫したレースでもある。他のどのサーキットよりも慎重に走らなければならないんだ。

 シーズンでもっともテクニカル、かつメンタル的にもチャレンジングなサーキット。オフのときにこの道を走ったり歩いたりするけど、まさかあんなスピードでここを走るなんて信じられないからね」

 モナコを速く走るには、どうすればいいのか? それはマシンに自信を持ち、自分のドライビングにも自信を持つことだと、ダニエル・リカルドは語る。

「自信が重要なんだ。ブレーキングを1メートル遅らせられれば、1メートル早くブレーキを離すことができ、それだけ高いスピードをキャリーしてコーナーに入っていける。そしてウォールのギリギリまで攻めていける。

 自信を持って、いいリズムと流れを掴んで走ることができれば、0.1秒や0.2秒は簡単に稼ぐことができる。それがとにかく楽しいんだ。自信を持って走れるなら、限界までウォールに近づきたいと思うものだよ。でも、自信がなければ、できるだけ距離を空けて走ろうとする。壁に近づいて走って、なおかつ気持ちよく走れるなら、それは市街地サーキットに強いドライバーということだよ」

 その言葉どおり、リカルドは木曜フリー走行でいきなりトップに立ってみせた。今季ここまでやや苦戦を強いられてきたレッドブルだが、モナコではパワーのハンディがラップタイムにそれほど影響しないことも大いに効いた。

「(パワーの差が)バルセロナで0.5秒なら、ここでは0.2秒になる。そしてセットアップがうまく決まって自信を持って走れれば、0.2秒は簡単に稼ぐことができる。モナコというのは、そういうサーキットなんだ」(リカルド)

 逆にここまで好調だったハースは木曜フリー走行で苦戦を強いられ、16位と18位に沈んだ。それは彼らのVF-18が中高速コーナーを得意とするマシンで、曲がりくねったモナコではそのよさが生かせなかったからだ。

「バルセロナでは速かったけど、それはコース特性が僕らのマシンにピッタリと合っていたからだ。僕らのマシンの強みは中高速コーナーで、低速も悪くはないけど、モナコではメカニカル性能をしっかりと引き出さなければならないだろう。今回も中団グループの争いのなかにいることは間違いないと思うけどね」(ケビン・マグヌッセン)

 激しい中団グループの争いのなかで、大きくポジションをアップすることもあれば、ワンミスですべてを失ってしまうこともある。それがガードレールに囲まれたモナコの恐ろしさだ。ベテランのフェルナンド・アロンソはそのことをよく知っている。

「モナコはとても特殊なレイアウトだし、サプライズが起き得るサーキットでもある。僕らのような中団グループのチームにも、優勝のチャンスが巡ってくることだってあるんだ。

 もちろん、過去を振り返ってみてもトップ3チームが表彰台を独占し続けているわけで、今年もそれは変わらないと思うけど、中団チームにとっては大きなポイント獲得のチャンスがあるレースでもある。ただし、ミスを犯せばチャンスはすべてフイになる。サプライズを起こすのは簡単ではないけど、ミスを犯すのは簡単だ」

 では、ドライバーにとって攻め甲斐があるセクション、難しいセクションはどこなのか? 2016年に表彰台に立つなどモナコを得意としているセルジオ・ペレスは、すべてがチャレンジングだと語る。

「僕はどのコーナーも好きだよ。すべてがチャレンジングだし、どこかひとつ欠けても退屈なものになってしまうだろう。サーキットのあらゆるコーナーを限界ギリギリまで攻めて走るんだ。気を抜いている余裕なんてまったくない。ドライバーが差を生み出せるサーキットだ。だからこそ、このサーキットはスペシャルなんだ」

 トロロッソ・ホンダのドライバーは、ふたりともF1ではモナコ初挑戦。しかしピエール・ガスリーはGP2、ブレンドン・ハートレイはフォーミュラ・ルノー3.5で走り、表彰台に立った経験もある。ハートレイは2015年から3年もモナコに住み、毎年部屋のバルコニーやレッドブルのモーターホームからグランプリを見ていたという。

 ガスリーもペレスと同じように「モナコはすべてが特別だ」と言うが、意外と難しいのはあの有名なフェアモント・ヘアピン。そしてもっとも難しいのは、オテル・ドゥ・パリとカジノ広場前の高速コーナーだという。

「ヘアピンなんて外から見ればバカみたいな低速コーナーに見えるかもしれないけど、コクピットのなかから見れば、このサーキットでもっとも難しいコーナーのひとつなんだ。ものすごく低速だからこそ(通過するのに時間がかかり)、2~3km/hの速度差が大きなラップタイム差につながるからね。

 でも、一番難しいのはカジノかもしれないね。すごく高速だし、その手前のターン3(マスネ)が少しバンクがついていて、そこからの右への切り返しだから、ものすごく正確なライン取りが要求されるんだ。

 ターン3の最後のほうはコース幅が少し狭くなっていて、だからこそ、ターン4(カジノ)の入口に向かってできるだけアウトからアプローチするために、左側のバリアにギリギリまで近寄らなければならない。ターン4の出口にはバンプがあるからトラクションもトリッキーになりがちだし、とても難しいコーナーだよ」

 木曜フリー走行で実際に走ってみると、海沿いの高速セクションは身震いするほど快感だったと、ガスリーは満面の笑みで語った。

「マシンバランスはまだ前後ともに問題がある状態だったけど、それでも高速左コーナーのタバコからプールサイドシケイン、そしてラスカスへと飛び込んでいくセクションのスピード感は驚異的で、本当にクレイジーだったよ。普段は50km/hくらいで走っている道を270km/hくらいで飛び込んでいくんだから、かなり狂気の沙汰だよね。今まで生きてきたなかで、あんなスピード感を味わったことはなかったね!」

 史上最速のF1マシンで駆け抜けるモナコは、世界中のどんなサーキットでも味わうことのできない快感と満足感をドライバーに与えてくれる。しかし、それを味わうことができるのは、確かな腕と自信を持つ限られたドライバーだけだ。

 果たして、今年のモナコで光り輝く走りを見せるのは誰なのだろうか。