明らかに目は大きくなり、頬のあたりがスッキリして小顔に見える。以前の顔を見慣れている人なら、”顔をイジった”ことにすぐ気がつくはずだ。 前と比べて”イケメン”になったかどうかは見る人の好…

 明らかに目は大きくなり、頬のあたりがスッキリして小顔に見える。以前の顔を見慣れている人なら、”顔をイジった”ことにすぐ気がつくはずだ。

 前と比べて”イケメン”になったかどうかは見る人の好みの問題だが、その出来栄えは、「不安もあったけど、悪くないかな」。イメージ通りの仕上がりには、世界チャンピオン、室屋義秀も満足げだ。

 地元・日本で開催されるレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第3戦に向け、室屋の準備は佳境を迎えている。



千葉でのレースを前に、忍者の姿で撮影に応じた室屋 photo by Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

 誤解がないよう、念のためにつけ加えておくと、顔が変わったのは室屋ではなく、レース機である。室屋がレースで使用する飛行機、エッジ540V3は、先月フランス・カンヌで行なわれた第2戦を前に大掛かりな改造が施された。

 正面から見た機体前部を顔に見立てると、”目”に当たるのは、エンジン冷却用の空気の取り込み口。飛行中、ここから取り込まれた空気が機体内部を通り、機体底部にある排気口から抜けるのだが、その空気の流れによってエンジンが冷やされる。

 つまり、より多くの空気を取り込めばエンジン冷却には有効だが、その分、空気抵抗が大きくなってしまい、スピードダウンも引き起こす。そのバランスを取るのが難しいため、やたらと空気の取り込み口を大きくすることはできないのだが、室屋の機体は他に比べ、かなり目が大きくなったことが分かる。室屋が語る。

「(吸気口を)小さく絞っているチームが多いが、うちは他とは違う理論でやっている。具体的な分析結果は言えない、というか、複雑な計算なので自分もよく分かっていないが(苦笑)、いろんなテストを重ねて検証した結果、この形状がいいだろうということになった」

 凹凸がつけられ、シャープになった”頬”(機体前部側面)も、「エンジン冷却システムの改造ありきでカウリング(エンジンを覆う流線形のカバー)を新設計した結果、この形になった」と室屋。「あとは空気が出る側のカバーの形状などを完全に調整できれば、ベストパフォーマンスが出せる状態になる。もちろん、機体改造は日進月歩なので立ち止まることはできないが、このセッティングができ上がれば、今季は最後まで戦っていけると思う」と、新たな機体に自信を見せる。

 改造された機体にはすでに第2戦で上々の手ごたえが得られており、第3戦を前にして、室屋のホームベースである、ふくしまスカイパークでの調整が終われば、臨戦態勢は完全に整うはずだ。

「一般論として地元だと準備がしやすいのはもちろんだが、今回は大規模な改造をした後なので、特に(テストフライトを重ねて)いろんなデータを数多く取らなければならない。それだけに、慣れた場所で事前の調整ができることは非常に大きな意味がある」

 室屋がそう語るように、日本でレースが開催されること、すなわち慣れ親しんだ場所で事前の作業ができることのメリットを最大限に生かして、チーム・ファルケンはレースへの準備を着々と進めている。




第2戦は改造された機体で4位。第3戦ではさらなる好パフォーマンスが期待される photo by Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 果たして完璧な準備が整ったとき、その先に見えてくるのは前人未到の大記録――母国レース3連勝である。

 千葉・幕張海浜公園でエアレースが行なわれるのは、今年で4年連続4回目。室屋は開催1年目こそ8位に終わったものの、一昨年、昨年と2連勝している。

 レッドブル・エアレースでは過去、2015年限りで引退したポール・ボノムが2010、2014、2015年にUAE・アブダビで3連勝し(2011年~2013年のエアレース休止期間を挟む)、同一会場での最多連勝記録を持っているが、母国開催レースでの連勝となると、同じくボノムがイギリス・アスコットで2014、2015年に達成した2連勝が最多。過去に3連勝は例がない。

 プレッシャーが大きい母国レースは、ひとつ勝つだけでも難しいと言われるなか、もしも室屋が次戦に勝利すれば、史上初の偉業達成となる。

 ただ、昨年と今年で違うのは、千葉戦に至るまでの成績だ。昨年は第2戦(アメリカ・サンディエゴ)で優勝し、勢いに乗って千葉での第3戦を迎えたのに対し、今年はここまで2戦未勝利。2戦ともにファイナル4へ進出しており、成績が安定しているとは言えるが、裏を返せば、勝ち切れないレースが続いているとも言える。

 それでも室屋は、「機体の性能的に言えば、昨年より楽なレースになるはず」と、現状を冷静に分析し、こう語る。

「勝ち切れないことのもどかしさはないし、今年はこういうペース(勝てなくても常に上位に入る)を目指しているので、ここまでの成績も悪くない。むしろ昨年は、本来なら優勝できないタイムだったのに(他のパイロットのミスで)優勝できた。それに比べて今年は、性能的に優勝が見えているから」

 昨季、アジア出身パイロットとして初の年間総合優勝を果たしたことで、室屋への注目度は一気に高まった。メディアへの露出もかつてないほど増加し、知名度は急上昇した。千葉での凱旋レース期間中は、常に多くの視線を集め続けることになるのだろう。

 すでに昨年の開催時でさえ、室屋がホテルとレースエアポートとの間を行き来するのが容易ではなくなっていたが、今年はさらなる”ヨシ・マニア”の熱狂が待ち受ける。室屋が受けるプレッシャーは決して小さくはないはずだ。

 しかし、室屋はまるで他人事のように、「どうなるんだろう。きっと、スゴいことになるんでしょうね」と言って笑い、周囲の変化をいい意味で”無視”している。

 パイロットとしてやるべきことに集中する。機体の改造に成功した今、室屋の頭にあるのは、そのことだけだ。

「千葉でのレースは何かと忙しくなるが、最近はフライト以外のこともうまくコントロールできている。そこは昨年の大きな成果だと思う」

 千葉・幕張海浜公園での今季第3戦が行なわれるのは、5月26、27日。偉業達成の瞬間は、もう間もなくである。