5月19日~20日、鈴鹿サーキットにてスーパーGTシリーズ第3戦が開催され、GT500クラスはホンダ勢がライバルを圧倒した。野尻智紀/伊沢拓也組のARTA NSX-GT(ナンバー8)が今季初優勝を飾り、山本尚貴/ジェンソン・バトン組の…

 5月19日~20日、鈴鹿サーキットにてスーパーGTシリーズ第3戦が開催され、GT500クラスはホンダ勢がライバルを圧倒した。野尻智紀/伊沢拓也組のARTA NSX-GT(ナンバー8)が今季初優勝を飾り、山本尚貴/ジェンソン・バトン組のRAYBRIG NSX-GT(ナンバー100)が2位。開幕戦の岡山に続き、ホンダNSX-GTがワンツーフィニッシュを飾った。



鈴鹿で圧倒的な速さを見せた鈴木亜久里監督率いるARTA

 昨年までは真夏の風物詩と呼ばれた伝統の耐久レース「鈴鹿1000km」として開催されていたスーパーGTの鈴鹿ラウンド。今年は5月に開催時期が移動し、レース距離も通常の300kmとなった。そんな装いも新たな鈴鹿ラウンドで、来場したファンや関係者を驚かせたのが8号車の野尻/伊沢組だった。

 まずは5月19日に行なわれた公式予選。その予選Q1から8号車は驚愕の速さを見せる。それまでのGT500クラスのコースレコード(1分47秒074)を2.2秒も上回る1分44秒806をマーク。タイムアタックを担当した伊沢も「まさか44秒台が出るとは思わなかった」と驚くほどで、それほど8号車のパフォーマンスは突出していた。

 Q1トップ通過を果たして勢いに乗った8号車は、さらにQ2でも圧巻の走りを披露。アタックを担当した野尻がさらにタイムを縮めて1分44秒319を叩き出し、今季初のポールポジションを獲得した。

 GTマシンでありながら、この記録は2000年代初頭のフォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)の予選タイムに匹敵する。また、ARTAの鈴木亜久里監督がラルースに乗って1990年のF1日本GPで3位表彰台に立ったときの決勝レースペースよりも速いタイムだ。

 これまではエンジンパワーやタイヤのグリップ力が落ちやすい真夏だったこともあり、鈴鹿でのタイムは1分47~48秒台だった。シーズン前のテストや4月の公式テストでも、1分45秒台である(公式のコースレコードは大会の予選・決勝で記録されたタイムのみが採用されるため、それ以外は非公式レコード)。

 今年の予選日は北西からの風が非常に強く、1コーナーと西ストレートでは追い風となってマシンのスピードが増したことも、好タイムの要因となったようだ。ただ、筆者の記憶ではテストでの非公式記録も含めて1分44秒台というタイムは聞いたことがなく、まさに鈴鹿でのGT500最速ラップが誕生した瞬間と言えるだろう。

 この最速ラップについて、鈴木監督も驚きを隠せない。

「こんなに速くなるとは思いませんでした。44秒は……考えてもみなかったです。46秒の前半ぐらいはいくだろうなと思っていたけど、それが44秒台ですからね。いきなり次元の違うところに来ちゃいましたね」

 ARTAがGT500クラスでシリーズチャンピオンを獲得したのは、11年前の2007年。鈴鹿サーキットで行なわれた開幕戦では伊藤大輔が1分49秒842をマークし、初めてGT500マシンが1分50秒を切るという衝撃があった。11年前もサーキット全体がどよめきに包まれたが、そのときを彷彿とさせる「速いARTA」が蘇った鈴鹿ラウンド予選日となった。

 そして5月20日。迎えた決勝も、「強いARTA」を証明するようなレースとなる。スタートを担当したベテランの伊沢が、直後の1コーナーから2番手以下を一気に引き離していく。2番手の100号車(バトン)がミディアムタイヤを装着していたのに対し、伊沢が駆る8号車はソフトタイヤを選択。タイヤのウォームアップに苦しむバトンを尻目に、伊沢はどんどんリードを広げていった。

 しかし、事はそう簡単には進まない。14周目にヘイキ・コバライネン(DENSO KOBELCO SARD LC500/ナンバー39)がスピンしてコース脇にマシンが止まり、安全に車両回収を行なうためにセーフティカーが導入されたのだ。これで伊沢が築き上げてきた10秒のリードは、たちまちゼロとなってしまう。

 スーパーGTでは、こういった場面からレースの流れが変わることが多々ある。実際にレース再開後には、2番手に浮上したニック・キャシディ(KeePer TOM’S LC500/ナンバー1)が8号車の背後に食らいついてきた。それでも経験豊富な伊沢はまったく動じず、レース再開後もトップを死守。24周を終えたところでピットインし、野尻へと交代する。

 野尻はトップのままコースに戻ってペースを上げるも、決して楽な展開とはならなかった。一時3番手に下がった100号車の山本が25周目には2番手へと浮上し、野尻のすぐ背後に急接近してくる。このときのペースは、明らかに山本のほうが上。さらにGT300の集団が途切れることなく目の前に現れ、野尻はその集団をかき分けながらポジションをキープしなければならなかった。

「山本選手は絶対にあきらめないだろうな思っていたので、僕も絶対にあきらめちゃいけないと思いました。開幕戦では僕が順位を落としたので、(あのときは)申し訳ないという気持ちもありましたし、必ず取り返さなきゃいけないという気持ちもありました」(野尻)

 レース終盤、何度か山本に並びかけられそうになるシーンもあったが、野尻は冷静にそれを切り抜けてトップを死守。「次のホンダのエースは俺だ!」と言わんばかりの力強い走りを見せ、今季初優勝を成し遂げた。

 鈴鹿での8号車は、予選では「速さ」、決勝では「強さ」が光っていた。今年は9年ぶりに伊沢がチームに復帰したことも追い風となっているだろう。鈴木監督もふたりのドライバーをこのように評価する。

「伊沢と野尻はドライビングスタイルが似ている。スタイルが違うと、どちらかに合わせなきゃいけないので難しいけど、そういうのが(ふたりには)ないので楽ですね。野尻は少し繊細なところがありますが、それに対して伊沢が『問題なく乗れますよ』と言ってくれる。そこは非常にいいですね」

 この優勝で野尻と伊沢のドライバーズポイントは24ポイントとなり、ランキング4位へと浮上。トップの山本/バトンとは8ポイントの差はあるものの、十分にチャンピオン獲得を狙える位置につけている。この勢いがこのまま継続されれば、11年ぶりのチャンピオン獲得の可能性も高まってきそうだ。