第5戦・フランスGPの舞台、ル・マンのブガッティ・サーキットは短い直線をタイトな中低速コーナーや左右に切り返す区間でつなぐ、典型的な「ストップ&ゴー」タイプのサーキットだ。動力性能を武器とするホンダやドゥカティは、以前からこの…

 第5戦・フランスGPの舞台、ル・マンのブガッティ・サーキットは短い直線をタイトな中低速コーナーや左右に切り返す区間でつなぐ、典型的な「ストップ&ゴー」タイプのサーキットだ。動力性能を武器とするホンダやドゥカティは、以前からこのコースではどちらかといえば苦戦することが多く、旋回性に優るヤマハが伝統的に有利、というのがこれまでの勢力構図になっていた。



ライバルを抑えてトップに立つマルク・マルケス(左)

 しかし、今年はマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)がきっちりとレースをコントロールして27周の戦いを制し、優勝を飾った。終盤には2番手を走るダニロ・ペトルッチ(アルマ・プラマック・レーシング/ドゥカティ)と3番手のバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)との間に、それぞれ2秒差が開いていた。

 3位のロッシは「(ヤマハのバイクは)他のコースでも速いと言いたいけれども、今回はコースが合っていた」と表彰台獲得の理由を述べ、「自分たちに特に問題があるわけじゃないけど、問題はライバルがさらに速いということ」と、現在の戦力差を説明した。2位のペトルッチは「終盤はバレが2秒後ろでマルクが2秒前。『これは優勝を狙うには手遅れか……。2位で終わるほうが、グラベルで(転倒して)終わるよりいいな』と思った」と、冗談混じりでレース後半の状況を説明した。

 そして、第3戦オースティン以来の3連勝となったマルケスは、「ずっと苦戦してきたル・マンで勝ててうれしい。ウィークを通して高い戦闘力を発揮できた」と、素直に優勝を喜んだ。レース展開については、「今日のレースではドビ(アンドレア・ドヴィツィオーゾ/ドゥカティ・チーム)をチェックしていた。今回のウィークで、いいペースを持っていたのは彼だから。ドビが転倒してからは戦略を少し変え、落ち着いてじっくりいくようにした」と、当初の予測とやや異なる流れで推移していったことを明かした。

 この言葉からもわかるように、今回のマルケスの勝因は、もっとも厳しい競争相手に想定していたライバルが早々にいなくなったことで、比較的ラクな展開に持ち込めたから、ということなのだろう。

 実際に、この週末のドヴィツィオーゾは速かった。

 金曜は午前と午後の2回のフリープラクティス(FP)を終えてトップタイム。土曜午後の予選では5番手タイムで2列目からの決勝スタートとなったが、その予選前に行なうFP4で、ドヴィツィオーゾはまたしてもトップタイムを記録していた。

 金曜の午前午後、そして土曜午前の3回のFPは、その3回の総合順位で予選の組を振り分けるため、どこかのタイミングで皆が一発タイムを狙いにいく。しかし、その予選直前に行なうFP4は予選の振り分けと関係ない、文字どおりフリーな練習走行時間で、翌日の決勝時間に近いこのセッションで選手たちはレースシミュレーションを行なう。すでに何周も走行した中古タイヤでさらに周回を重ね、決勝レース数を想定したラップタイムを確認するわけだ。

 ここでドヴィツィオーゾが安定してぬきんでた速さを発揮していただけに、予選2番手スタートのマルケスは「明日は(フランス出身の)ヨハン(・ザルコ/モンスター・ヤマハ Tech3)とドビが速いと思う」と話し、そのドヴィツィオーゾも5番グリッドながら「明日は地元のザルコが速いだろう。彼はマルクや僕と同じペースで走れるだろうね」と述べることで、婉曲に優勝争いの自信があることを言葉の裏に匂わせた。

 決勝レースでのドヴィツィオーゾは、そのザルコを序盤でオーバーテイクして、さらにトップをうかがおうとした矢先に、5周目の6コーナーでフロントを切れ込ませて転倒した。

 後方からこの転倒を見ていたマルケスは、「彼は普通なら序盤は攻めずに様子を見ながらタイヤを温存し、後半に仕掛けてくるけど、今回は最初からレースを引っ張ろうとしていた。僕が転倒するのは誰かが仕掛けてきたときだから、ドビが転んだのも他のライダー(自分)が攻めてくると思ったからだろう」とレース後に話した。

 しかし、ドヴィツィオーゾ自身の説明によると、このときは全然無理をしておらず、したがって予想外の転倒だった、という。

「けっしてアグレッシブだったわけじゃなく、むしろ80パーセントくらいだった。ブレーキを少し遅らせたとき、フロントへの注意が十分ではなく、切れ込んでしまった。100パーセントで攻めていたらそういうこともあり得るけど、そうじゃないのにこういう結果になってしまったから、本当に気が滅入る」

 ドヴィツィオーゾがノーポイントで終え、マルケスが優勝で25ポイントを加算した結果、ふたりのポイント差は49点に広がった。

「この49ポイント差は本当に厳しい。マルクは状況のコントロールに長けているので、この差が開いてしまったのが今日の痛恨事」とドヴィツィオーゾが今日の結果を悔やむ一方、マルケスはドヴィツィオーゾへの49ポイント差に加え、ランキング2位に対しても36点の大量リードを築きあげた。「次のムジェロ(イタリアGP)は温度条件次第で厳しくなる可能性もあるけど、今年はここまでバイクと自分がすごくピッタリきているのでとてもハッピーだよ」と話す口調からも、いい流れを掴んでいる勢いのよさが感じられる。

 とはいえ、シーズンはまだ5戦を終えただけで、14戦を残している。これから初夏を経て秋口に差しかかるまで、戦いはいっそう熾烈さを増してくる。本来不得意だったはずのヘレスとル・マンで速さを発揮したドゥカティの高い戦闘力がホンモノなのであれば、今シーズンはここから先、さらにひと波瀾もふた波瀾もあるだろう。