5月18日、日本代表ガーナ戦のメンバー27名が発表され、スペインからは乾貴士(エイバル)、柴崎岳(ヘタフェ)、井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ)の3人が選ばれた。 今季はすでにヨーロッパリーグでアトレティコ・マドリードが優勝。5月2…

 5月18日、日本代表ガーナ戦のメンバー27名が発表され、スペインからは乾貴士(エイバル)、柴崎岳(ヘタフェ)、井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ)の3人が選ばれた。

 今季はすでにヨーロッパリーグでアトレティコ・マドリードが優勝。5月26日にはリバプールを相手に、レアル・マドリードが前人未到のチャンピオンズリーグ3連覇に挑む。スペインはUEFAの国別ランキングで2位のイングランドに大差をつけて1位の座にあり、自他ともに認める世界最高峰のリーグと言っていいだろう。そこには世界各国から一流選手が集まり、プレーすることさえ容易ではない。

 そんなリーグを戦った日本人3人のシーズンを振り返ると、まず合格点を与えられるのは、34試合2640分に出場し、5得点2アシストを記録した乾であることは間違いない。



今季は34試合に出場し、リーガで存在感を示した乾貴士

 シーズン終盤には体調を崩して欠場した試合があったものの、第35節のジローナ戦では、1得点1アシストを含む3得点に絡むパフォーマンスを見せて、復調をしっかりとアピールした。ただ、最終節のアトレティコ・マドリード戦前の練習中に右足大腿四頭筋を負傷してしまい、現在は日本サッカー協会のドクターのもとで治療を行なっている。

 その乾に続くのが22試合1003分に出場し、1得点を記録した柴崎だろう。序盤こそまずまずのパフォーマンスを見せていた背番号10番だが、第4節バルセロナ戦で負傷し、長期離脱。その後、復帰はしたものの、徐々に出場時間を減らしていき、結果として合格点を与えられるとは言えないシーズンとなった。

 そして、冬の移籍市場で2部のクルトゥラル・レオネサに移籍した井手口は、わずか5試合109分の出場にとどまり、残念ながら期待を大きく裏切ることとなった。

 ただし、日本代表のメンバー27名に入ったように、柴崎、井手口にも力があることは間違いない。3選手のシーズンの明暗を分けた要因には、戦術やポジション、順位など、チームの状況が大きく関わっている。

 エイバルで3年目を迎えた乾は、課題であった守備面が大きく向上しただけでなく、チームのコンセプトをしっかりと把握。ホセ・ルイス・メンディリバル監督に「自分のサッカーをピッチの中で一番に体現している選手」と評価されるまでになった。

 左サイドを中心にエイバルの攻撃を牽引し、背番号8番にボールが回るたびにスタジアムは期待感に包まれた。課題として挙がるのはやはり得点力だが、アシストや、記録にこそ残らないものの乾を経由して生まれた得点もあり、数字以上にチームの勝利に貢献したシーズンだった。

 一方、柴崎の1年目に関して、ヘタフェのホセ・ボルダラス監督は「人としてはとても満足しているが、サッカーに関して言えば、もう少しやってほしかった」という評価だった。

 序盤こそ、ホルヘ・モリーナの近くで衛星のような動きをしながら攻撃を作っていた柴崎。だが、ケガから復帰後は、2トップを採用したチーム事情から、ボルダラス監督が柴崎に最も適したポジションと考えていたセカンドストライカー、トップ下での起用ができなくなった。そして1列下の中盤の選手としては、フィジカルの弱さからチームメートの後塵を拝すことになった。

 柴崎の力を買っているAS紙のヘタフェ番記者ホセ・デ・ラ・ロサですら、「いいMFだとは思うが、リーガで中盤をするためには高いフィジカルレベルを要求される。中盤の選手として、ボルダラスの信頼を勝ち取っていない。柴崎よりフィジカルの強さで弱点をカバーしているマルケル・ベルガラを信頼している。少なくともリーガでは、中盤やサイドが彼に適したポジションではない」と言う。

 さらにラジオ局オンダ・マドリードのロドリゴ・デ・パブロ記者も「柴崎のセンスはすばらしい。だが、監督の信頼を勝ち取るためにはセンスプラスアルファを求められる。それを見せることができなかった」と語った。

 井手口については、選手が問題なくサッカーに取り組むための周囲のサポート不足と、残留争いの渦中にいたチームの苦しい状況、そして微妙な加入時期が大きく響いた。

 半年にも満たない在籍期間というのは、筆者自身の経験から言っても、言葉を覚えるのにも短すぎる。しかも井手口のポジションは、システムがめまぐるしく変わるレオネサのサッカーでは”ヘソ”の部分にあたる。戦術を理解するだけでなく、自分から要求して味方を動かさなければならない。

 デ・ラ・バレラ監督の起用法を見ると、固まったチームに新たな化学反応を起こさせるよりも、最初の数試合でうまくはまらなかった井手口を外して残留争いを戦っていくことを選択したものと受け取れる。昨年、柴崎が所属したテネリフェは、1部昇格を目指した戦いをしていたが、レオネサはよりシビアな残留争いに身を置いていた。ひとつのミスが命取りとなる守備的の選手であることが、井手口の出場機会を奪うことになった。

 ちなみに今回の日本代表メンバー発表でひとつ残念なのは、そこにナスティック・タラゴナの鈴木大輔の名前がないことだ。2部のボディコンタクトの激しさは1部をしのぐものがある。そこで日々、世界の猛者(もさ)たちと真剣勝負をしてきた経験は、代表にとって大きな武器になるものと思われるのだが、なぜかハリルホジッチ時代から一度も試されたことがない。

 ともかく泣いても笑ってもW杯までは残り1カ月を切った。最終選考でも3選手が残り、ロシアで勇姿を見せてくれることをスペインから願っている。