現地時間5月16日、UEFAヨーロッパリーグ(EL)の決勝が行なわれ、アトレティコ・マドリードがマルセイユを3-0で下し、2011-12シーズン以来、3度目の優勝を果たした。 終わってみれば、アトレティコの圧勝だった。シメオネ監督率い…
現地時間5月16日、UEFAヨーロッパリーグ(EL)の決勝が行なわれ、アトレティコ・マドリードがマルセイユを3-0で下し、2011-12シーズン以来、3度目の優勝を果たした。
終わってみれば、アトレティコの圧勝だった。
シメオネ監督率いるアトレティコ・マドリードが今季ELを制覇した
戦前の下馬評ではアトレティコ優位も、今季ELの決勝開催地は、フランスのリヨン。マルセイユには圧倒的な地の利があった。加えて、マルセイユが劇的な勝利を積み重ねて決勝まで勝ち上がってきた勢いは侮れず、番狂わせが起きる可能性もそれほど低くはないかに思われた。
実際、8割方マルセイユサポーターで埋まったスタンドの大声援を背に、試合序盤、攻勢に立ったのはマルセイユだった。
最初の決定機は試合開始直後の4分、FWディミトリ・パイエが、FWフロリアン・トヴァンとのパス交換でバイタルエリアに進入すると、タイミングよく最前線のFWヴァレール・ジェルマンへスルーパス。ジェルマンはDFラインの裏へきれいに抜け出し、GKと1対1の状況を迎えた。
しかし、シュートは大きく枠の外へ。マルセイユは絶好の先制機を逸した。
それでも、マルセイユは早く激しいボールへの寄せでアトレティコの攻撃を封じ、奪ったボールを的確につないでゴールへ迫った。一度攻撃を止められても、出足よくセカンドボールを拾って連続攻撃につなげることもできており、完全に試合の主導権を握っていた。何より、激しく相手選手に襲い掛かっていく姿に、タイトル獲得への執念が感じられた。
ところが、落とし穴は思わぬところで待っていた。
21分、自陣からボールをつなごうと、GKスティーブ・マンダンダがフリーのMFアンドレ・ザンボ・アンギサへパス。何でもないプレーだったが、これをザンボ・アンギサがトラップミス。大きく足から離れたボールを拾ったアトレティコのMFガビがFWアントワーヌ・グリーズマンへパスを通すと、エースストライカーは難なくゴールを陥れた。
攻勢に試合を進めていた時間でのミスによる失点は、マルセイユの選手に大きなショックを与えた。しかも、弱り目に祟(たた)り目というべきか、失点を境に明らかに勢いを失ったマルセイユは前半途中にして、キャプテンであり、攻撃の中核を担うパイエを負傷で失う。
これをきっかけに、完全に試合展開は180度転換。アトレティコがボールを支配するばかりで、マルセイユはまともにパスをつなげない一方的な展開のなか、アトレティコは効果的に追加点を重ね、勝負を決めた。アトレティコのディエゴ・シメオネ監督が語る。
「この試合のためにいい準備をし、どう戦うかを考えてきたが、最も重要だったのは、選手たちが、自分は何をすべきなのかという考えをはっきりと持っていたことだ。そして、それがうまくいった」
アトレティコは過去4シーズンで、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準優勝2回、同ベスト4とベスト8が各1回と、安定して好成績を残していた。今季はCLでこそグループリーグ敗退に終わったが、こうしてELのタイトルをしっかりと勝ち取ったことで、あらためてその実力を示す結果となった。
試合前日、シメオネ監督は「CLとELの比較はできない。(ELよりCLのほうが重要ということはなく)ELを勝つことは我々にとって重要なステップになる」と語っていたが、選手たちがプレーで証明した高いモチベーションは、指揮官の言葉を裏づけていた。
と同時に、アルゼンチン人指揮官のチームマネジメントのうまさがうかがえた、3度目のEL制覇だった。
さて、タイトルの行方もさることながら、今季のEL決勝が例年以上に日本での注目を集めたのは、言うまでもなくマルセイユに日本人選手、すなわちDF酒井宏樹がいたからだ。
酒井がヨーロッパタイトルを獲得できれば、2001-02年に小野伸二がフェイエノールトでUEFAカップ(ELの前身)を手にして以来、日本人プレーヤーとしては2人目の快挙となるはずだった。
しかし、4月に右ヒザを痛め、5日前に行なわれたリーグ・アン第37節ギャンガン戦で戦列復帰したばかりの酒井はベンチスタート。もちろん、途中出場の可能性は残されていたが、酒井の出場機会が訪れるかどうかという点においても、この日の試合は最悪の展開だったと言わざるをえない。
酒井に代わって右サイドバックで先発したDFブナ・サールは攻撃力が持ち味。マルセイユが先制し、逃げ切りを図るような展開になれば、酒井に途中出場のチャンスが巡ってきた可能性は十分にある。
ところが、マルセイユは早い時間に先制を許し、しかもパイエの負傷で貴重な交代枠をひとつ使わざるをえなくなった。
後半開始からずっとピッチ脇でウォーミングアップを続けた酒井だったが、その後も失点を重ねたマルセイユが、点を取り返すために攻撃的な選手を投入するのは当然のこと。最後(3人目)の交代選手としてFWコンスタンティノス・ミトログルが呼ばれたところで、酒井はアップを終えてベンチに戻ることとなった。
試合後、取材エリアに現れた酒井が、意外なほどスッキリとした表情で語る。
この日、ベンチスタートだった酒井に出番は回ってこなかった
「不満はまったくない。(復帰戦となった)ギャンガン戦の後のリカバリー具合も含めて、やっぱり”プロの体”ではなかった。単純にブナのほうが(コンディションがよかった)というチョイスだったと思う。3週間(サッカーを)やっていなくて、(復帰後)2回しか練習していない。ここまで(EL決勝出場を目指して)調整してきただけにすごく残念ですが、でも納得している」
ピッチの外から見ていた試合の印象について、「アトレティコ相手に1-0になってしまうと、完全に試合の主導権はあっちへ行ってしまう。(その後は)僕らが攻めさせられている感じで、アトレティコは常にカウンターをうかがっていた。逆に僕らがああいう試合展開にしたかった」と酒井。
そして、「(アトレティコは)相当うまかった。特にDFラインと中盤のバランスのとり方はすばらしかった。120分あっても点が入ったかどうかっていうぐらいスゴかった」と勝者を称え、完敗を認めた。
マルセイユにとっても、酒井にとっても晴れ舞台となるはずが一転、苦い経験となった今季のELファイナル。やはりアトレティコは強かった。