試合が行なわれたのは前日の2回戦と同じコートで、対戦相手はランキングや上背こそ異なるものの、錦織圭いわく「今日(2回戦)のような相手」。だからこそ試合内容も、「たぶん今日と同じような試合になる」と、2回戦後の彼は予想していた。錦織圭は…

 試合が行なわれたのは前日の2回戦と同じコートで、対戦相手はランキングや上背こそ異なるものの、錦織圭いわく「今日(2回戦)のような相手」。だからこそ試合内容も、「たぶん今日と同じような試合になる」と、2回戦後の彼は予想していた。


錦織圭は

「ほぼ完璧に近いプレー」で準々決勝に駒を進めた

 3回戦の対戦相手のフィリップ・コールシュライバー(ドイツ)は、クレーコートで6つのタイトルを持つ赤土巧者。フォアはもちろん、片手打ちのバックハンドでも高く跳ねるスピンを放ち、2週間前のミュンヘン大会では準優勝に輝いている。

「器用な選手なので、簡単には決まらない。長いラリーが増える」

 そのような厳しい試合を、戦前の錦織は覚悟していた。

 だが、いざフタを開けてみれば、前日のグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)戦とはまったく異なる景色がコート上に描かれる。

 日が大きく西に傾き、空にオレンジから濃紺へのグラデーションがかかるなか、低くうなる快音を響かせながら、錦織の放つ強打は深く相手コートへと刺さった。サーブからフォアでの逆クロスや、バックのクロスからストレートへの展開も早い。第1セットは相手に13しかポイントを与えず、わずか27分で奪取した。

 第2セットも最初のサービスゲームこそ2度のブレークの危機に面するが、そこを鋭いサーブでしのぐと、そこからはふたたび打ち合いでねじ伏せる。バックのストレートを豪快に叩き込み、相手の労をねぎらうようにネット際で握手を交わしたのは、試合開始からわずか1時間4分後のこと。拍手と声援が降り注ぐなか、勝者は胸を張り、照明の光がにじむ夜空に拳を突き上げた。

 予想とは大きく異なる展開となったその訳を、錦織は「たぶんですけど……」と前置きしてから、次のように説明した。

「夜になって、水もかなり増えてたので、ボールが重く感じて。それは相手も感じていたと思います。そのおかげもあり、彼の得意の重いボールで、そこまでダメージを食らわなかった」

 それに加え、「自分が速いタイミングで打っていけたので、相手が(スピンを)打てなかったのもあると思います」。

 結果として相手の倍近いポイントを獲得し、「ほぼ完璧に近いプレー」で3回戦を突破した。

 おそらくは復帰後もっとも安定したプレーを見せた錦織が、次に対戦するのは元世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)である。ひじのケガから復帰してきた彼もまた、今季序盤は苦しい試合を強いられていたが、今大会では3試合ともにストレート勝利。3回戦では「この12ヵ月間でベスト3に入る試合」と自画自賛のパフォーマンスを見せ、往時の強さを取り戻しつつある。

 錦織とジョコビッチは先週のマドリード・マスターズでも初戦で当たり、そのときはジョコビッチが勝利している。2週連続ながら高いステージでの再戦に、元王者は「準々決勝で当たるほうが、肌に馴染んだ感覚だよ」と笑い、「前回はタフな試合だった。今回も厳しい試合になるだろう」と予測した。

「圭は、この大会が得意だ。今大会でもディミトロフを破り、今日も簡単に勝っている。彼の状態もよさそうだ。以前のレベルに戻ってきている」

 だから……と、ジョコビッチは続けた。

「明日の試合は僕ら両方にとって、今の自分のレベルを測る格好の一戦になるはずだ」

 対する錦織は、ジョコビッチとネットを挟むと、「まだ若干、苦手意識があるというか……試合前は、他の選手とは違った感情になる」ことを否定しない。

「彼とやるときは、かなりパターンが決まっている。弱いところを突かれている気もするし、そういうことができる選手。自分(錦織)のこともけっこうわかっている」

 それがジョコビッチであり、前回の対戦時も「やはり強かった。かなり高いレベルで確実にトップ10にいるテニスをしている」ことを痛感させられた。

 だからこそ、その苦手意識を振り落とす勝利を掴まなくてはならないと、錦織は強く自覚している。

「ま、いつか……」

 そう口にしてから、彼は思い直したように続けた。

「できれば明日、打開したいです」