ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は不思議なドライバーだ。呆れるほどに速いときもあれば、驚くほど脆い面も見せる。オーストラリア出身の彼が、アメリカのオープンホイール最高峰に挑戦し始めた当初は、後続を突き放して大量リードしながら、単独…

 ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は不思議なドライバーだ。呆れるほどに速いときもあれば、驚くほど脆い面も見せる。オーストラリア出身の彼が、アメリカのオープンホイール最高峰に挑戦し始めた当初は、後続を突き放して大量リードしながら、単独クラッシュして勝利を逃すことを繰り返していた。速さをゴールまで保つことができずにいたのだ。

 2009年にインディカーシリーズ最強のチーム・ペンスキーに迎え入れられたが、その後もそのキャラクターはなかなか変わらなかった。ペンスキーのエンジニア、マシン、クルーを得たパワーは、持ち前のスピードを結果に繋げるようになったが、2010年、2011年、2012年と、3年続けてチャンピオン争いをしながらランキング2位に泣いた。

 2014年、ついにパワーは念願のチャンピオンに輝く。だが、その後も磐石の強さを身につけることはなく、変わらないキャラクターのまま今日まできたように見える。37歳になったがスピードに陰りは見えない。そして、相変わらずミスも犯す。



チーム・ペンスキーにとって200勝目となる勝利をあげたウィル・パワー(中央)

 2018年シーズンのパワーは、予選で速さを見せながらもポールポジションを逃し続け、レースでも勝てないことでイライラを募らせていた。第4戦バーミンガムではヘビーウェットのコンディションに足をすくわれてクラッシュ。「リスタートを切るには危険すぎるコンディションだった」とレースコントロールを非難したが、マシンのコントロールを失ったのはパワーだけで、いかにも説得力に欠けた。

 だが、続く第5戦インディカーグランプリで、パワーは久しぶりに圧倒的な強さを見せて優勝した。バーミンガムで21位フィニッシュしたのと同じドライバーとは思えないパフォーマンスを、インディアナポリスのロードコースで見せ、今季初勝利を飾った。

 インディカーグランプリは開催5回目を迎えたレースだが、パワーはこれで3回目のポール・トゥ・ウイン。今季のポイントランキングは10位から7位に浮上し、ポイントリーダー(チームメイトのジョセフ・ニューガーデン)との差を77点から43点に縮めた。まだシーズンは12戦も残っているが、序盤で突き放されることなく、チャンピオン争いに踏みとどまった形だ。

 パワーに約2秒遅れて2位でゴールしたのは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だった。パワーより8勝多い通算41勝を挙げているニュージーランド出身ドライバーは、パワーより3回も多い4回の年間チャンピオンの座を獲得している。南半球の隣国出身ながら、キャラクターは180度異なり、ディクソンは速さと確実性を兼ね備えている。

 今年のインディカーグランプリでのディクソンは、予選までにマシンのセッティングを仕上げ切れず、18位という後方グリッドからのスタートとなった。だが、レース前のファイナルプラクティスで最速ラップをマークしていたことが示すように、決勝にマシンセッティングをギリギリ間に合わせてきた。その結果、85周のレースで着々とポジションアップを重ね、ゴールまであと24周で切られたリスタート時には3番手、そこからさらに1台をパスしてパワーを追った。

 だが、パワーはディクソンにアタックのチャンスを与えず、ゴールまで逃げ切った。表彰台でパワーは、今季初勝利に喜びを爆発させた。

「こんなにハードなレースを戦った記憶はない。全ラップを予選アタックのように走った。そして、全ラップが完璧だったことで勝てたんだ」

 レースは終盤、ジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)がスピンしたことで出されたフルコースコーションにより、展開がガラリと変わった。最後のピットストップからは、新品のレッドタイヤ(ソフトコンパウンドでグリップ力が高い)を着けて抜きつ抜かれつのバトルとなるはずが、一転して、うまく燃費をセーブしないとゴールまで走り切れない戦いになった。

 その燃費走法でも、パワーは経験の豊富さ、実力の高さを見せた。ディクソンも燃費走法のうまさに定評があるが、そのディクソンに追われても危なげなく勝利へと走り切ったのだ。

「ディクソンにプッシュ・トゥ・パスを使わせないためには、自分に近づけさせないこと。ギャップを保つことに全力を注ぎ込んだ」と、パワーは勝利のポイントを語った。

 シフトアップのタイミングを早め、コーナーへの侵入はブレーキングを緩やかにしてスピードが急激に落ちないようにする。ラップタイムを大きく落とさずに燃費を抑える戦いは高いテクニックが要求される。パワーはそれを、「燃料をセーブしながらも、予選のようにプッシュして走った。ラップタイムをいいものに保つには、コーナリングを速くしてタイムを稼ぐしかないから、とても難しいんだ」と説明する。

 燃費といえば、長きにわたってホンダエンジンが有利と言われてきた。しかし、インディカーグランプリでは、パワーをはじめ、シボレー勢のV6ターボの燃費もライバルと互角か、むしろ優れているぐらいだった。

「ホンダの燃費がいいのはわかっている。自分の場合、最初にピットから届いた数字を実現するのは難しかった。そこでステアリングの燃料ミクスチャーを操作し、燃料を薄く設定し直した。パワーは下がるが、燃費の数字は達成できるようになった。その後は、目標とする数字を実現しながらラップタイムも十分速いものを出し続け、後方とのギャップを保った」(パワー)

 ホンダとシボレー、どちらが燃費でアドバンテージを持っているのか。インディカーグランプリの終盤戦を見ただけでは判定が難しいが、少なくともシボレーに十分な競争力が備わっているのは確かだろう。

「シボレーのエンジニアたちは開発の手を休めない。少しでも性能を上げようと努力を続けている。ライバルとの差を見つけたら、その差を埋めようと全力を投入する」と、パワーはシボレー、そしてイルモア・エンジニアリングのスタッフを讃えた。

 パワーはキャリア33勝目を記録した。それはチーム・ペンスキー入りしてからの30勝目だった。そして今回の勝利は、チーム・ペンスキーにとって記念すべきインディカーでの200勝目となった。