専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第155回 今回は「酒とタバコとニギリ」という、カラオケの定番ソングのようなタイトルでお送りします。 ほんと、ゴルフって不思議ですよね。純然たるオリンピック種目の”…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第155回

 今回は「酒とタバコとニギリ」という、カラオケの定番ソングのようなタイトルでお送りします。

 ほんと、ゴルフって不思議ですよね。純然たるオリンピック種目の”スポーツ”なのに、アマチュアはラウンド中にタバコを吸えて、お酒も飲めるのですから。

 ティーグラウンドに灰皿を置くのはともかく、売店でビールや日本酒などを販売しているのにはびっくりです。これは、プレー中に飲むことを完全に想定していますからね。

 こういうラウンド中の飲酒と喫煙、個人的には「どうぞ、お好きにやってください」と思っています。

 ただし、アマチュアゴルフは”スポーツ”ではなく、”レジャー”扱いにしてもらわないと。スポーツの神様に失礼でしょ。スポーツ庁が何も言わないのが不思議なほどです。

 ゴルフは所詮、「オヤジの遊び」と言えばオーケー。それでもう、何をしてもいいと思いますよ。

 と、冗談を語りつつも、なぜゴルフは飲酒や喫煙ができるのか? 

 そのルーツをたどってみたいと思います。英国、米国、日本のゴルフ文化の発祥をひも解けば、その謎も解明されてきます。

 まずは、ゴルフでなぜ飲酒が可能か?

 それは、寒いスコットランドで生まれたからです。そもそもゴルフの原点となる、羊の放牧場でウサギの巣穴などにボールを入れて遊んでいた時代、その頃から飲酒をしながらやっていました。

 外に長時間いるのは寒くてたまらない。プレーヤーとして、1ラウンドするようになってからはなおさらです。だから、その間はスコッチウィスキーの携帯ボトルをちびちびやりながらプレーしていたわけですね。その名残として、飲酒文化があるのです。

 タバコも同様です。英国紳士の場合、葉巻が主流だったと思いますが、プレー中に行なっていたそうした慣習が日本にも伝わって、タバコを吸いながらプレーできるようになったのです。

 タバコは、緊張をほぐし、気持ちをリラックスさせます。風向きを調べるときに役立つなど、ゴルフではいいことが多いのです。

 日本でもバブルの頃は、タバコメーカーがトーナメントのスポンサーになっていました。有名なプロが試合中に堂々とタバコを吸っている姿が、テレビ中継でも流されていました。たぶんそれは、スポンサーに気を使っていたのもあるでしょう。

 その結果、アマチュアはゴルフをしながら酒を飲み、タバコを吸っていいとなったのです。

 さらに、英国のゴルフ文化を受け継いでいるのが”賭け”です。ゴルフは、お互いに”ニギる”から、皆が切磋琢磨してプレーに燃え、日本でもこれだけ多くの人々に広がったのです。そういう意味では、ニギらないゴルフなんて、「クリープを入れないコーヒーみたいなもの」って……、いつの話だよ~。

 現在、日本では「その場を盛り上げる食事程度の金品」は、賭博の対象になりません。仲間のプレーヤー同士だけで、昼メシをかけたりしてがんばりましょう。

 ちなみに賭けの単位を「チョコレート」というのは、チョコレート程度なら賭けてもいいという意味で、一般的に使われるようになりました。けど、1チョコレートがいくらなのか、それぞれ違うでしょうから、まったくわかりません。「俺はベルギーの高級チョコを賭ける」なんて人、ほどほどにしましょうね。

 また、ゴルフ場にある英国文化は「ポットバンカー(※)」です。
※ポットとは『蛸壺』の意で、小さく深いバンカー。 

 でも、日本じゃあ、青森の夏泊(なつどまり)ゴルフリンクスとか、数えるほどしかありません。それはなぜか?

 ちょっと意地悪だからです。日本では、一般的には受け入れられないんですね。

 英国文化には、ビリヤードのスヌーカーといった”相手のプレーを邪魔する文化”が浸透しています。つまり、自分のボールで相手の進行を塞ぐ考えです。

 昔のゴルフって、グリーン上のボールをピックアップせずに、そのまま置いておけるルールもありました。同伴プレーヤーの行く手を塞ぐわけですね。

 ゆえにその際は、カップの手前にボールを置かれたプレーヤーは、グリーン上にもかかわらず、ウェッジでボールを上げてプレーしていました。

 ほんと、意地悪ですよね。そういう”意地悪”が、英国文化の特徴と言えます。「ポットバンカー」もその象徴のひとつです。

 一方、日本のゴルフはアメリカの影響も受けています。そこから入ってきたゴルフ文化の筆頭は、なんと言っても乗用カートです。

 だから、左ハンドルです――というと、もっともらしいですが、実はクルマが小さいので、右ハンドルにすると、アクセルペダル部分がボディからはみ出てしまうのです。それで左ハンドルのほうが、都合がいいだけの話です。

 加えて、アメリカは景色のいい池やクリーク、そして花が咲き乱れているコースが好きです。もちろん模範となるのは、マスターズの会場となるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブです。アメリカのきれいなコースは、そこがすべての基準となっています。

 そうして、1960年代あたりから、ゴルフのテレビ中継が始まり、テレビ映えするコースが考案されるようになりました。

 例えば、ロバート・トレント・ジョーンズは、ロングホールに池を絡ませるコースを考案。そういうコースで、凄腕の飛ばし屋が2オンさせて、ギャラリーは大喜び。視聴率のアップにもつながりました。

 凄腕のプレーヤーの先駆けは、アーノルド・パーマーです。池越えの2オンを最初にやってのけて、多くのファンの心をつかみました。

 あと、アメリカンな部分で言うと、セルフプレー、安い料金、会員権システムの崩壊などじゃないですかね。

 そんなわけで、英米から影響を受けた日本のゴルフ文化は、どのようにして花開いたのでしょうか。

 まず、とりわけ独特なのは”風呂場”があることです。本来ならシャワールームでいいのですが、ほぼどこのゴルフ場にも大浴場があります。

 これ、なんでかなぁ? と考えたのですが、シャワーを浴びる習慣が日本になかったからじゃないでしょうか。シャワー設備を作って脱衣所をこさえるなら、ついでに湯船を設置してもいいか、と。せっかく裸になるなら、お風呂に入りたいですしね。

 もともと、雲仙や川奈、箱根など、最初から温泉地や保養地にコースがあって、「じゃあ、温泉だよ」と思ったのかもしれません。

 それと、日本ゴルフ文化の代表といったら、おばちゃんキャディーです。英国では男性キャディーが多いし、アメリカはセルフプレーが主流ですから。

 日本では、接待とか、会社の偉い人がゴルフをやったので、ラウンド中にいろいろと手伝ってくれる人がいないと、プレーが成立しなかったのでしょう。キャディーは本来、教えてくれる人ですが、日本の場合は”手伝い”の意味合いが強いですから。

 キャディーさんはいればいたほうがいいけど、ゴルフが庶民化した今、「別料金を取られるのはしんどいかな」という意見も多いようです。最近は激安ゴルフも流行っていますから、セルフ化の流れは止まりませんね。


アマチュアのゴルフは

「オヤジの遊び」なんですよね...

 そして、会員システムですか。英米にもメンバーシップのコースはありますが、ほとんどがパブリックです。そうした状況にあっても、日本はメンバーシップにこだわるコースが多いです。

 ただ最近は、日本でも多くのコースでメンバーシップシステムが崩壊し、ビジターを入れないと運営できません。だから、厳密に言うと、8割ぐらいのコースは”セミパブリック”です。けど、それじゃあ「格が落ちるから」と、頑なにメンバーシップと言い張っているのです。

 メンバーとビジターの軋轢(あつれき)は、しばらく続くでしょう。でも今後は、ビジターを大切にする運営をしていかないと、ゴルフ場の運営は成り立ちません。

 そうなると、メンバー不遇の時代がやってくるでしょう。メンバーでいる意義を見出せない人が、今も結構いるんじゃないでしょうか。

 そもそもゴルフの会員権は、名義変更料金とか高すぎです。子どもに相続する場合も、結構取られるし。会員権を手放す傾向は一層加速していくかもしれません。もはや、昔の流儀が通用しませんよね。

 そんなわけで、日米英の3カ国の文化が融合して、21世紀のゴルフが発展しました。たぶん20年後には、アイドル型のバーチャルキャディーがアドバイスしてくれる、そういう時代が到来するでしょう。

「オーケー、グーグル。残りの距離を教えて……」は、すでに活用している人がいそうですもんね。

木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。

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