「(今シーズンの)FC東京は質の高いチームになった。いい守備から、速さのある2トップを活かしている。今日も難しいゲームを想定していた」 コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は試合後に明かしているが、その言葉が「FC東京の躍進」…

「(今シーズンの)FC東京は質の高いチームになった。いい守備から、速さのある2トップを活かしている。今日も難しいゲームを想定していた」

 コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は試合後に明かしているが、その言葉が「FC東京の躍進」を端的に説明していた。堅牢な守備が効率的な攻撃を生み出す。FC東京は実に「負けにくい」チームとなった。

「今まで、何してたんですかね?」と、FC東京OBは苦笑混じりに言うのだった。

 5月13日、味の素スタジアム。2位のFC東京は3位の札幌と対戦している。首位戦線に残るには、どちらも負けられない試合。戦術的な駆け引きは高度で、じりじりとした試合展開になった。



コンサドーレ札幌戦で、たびたび攻撃に参加しチャンスを作っていた室屋成

「最初は(永井)謙佑君とかが前から(プレスに)行って、はめようとしたんですが。うまくいかなかったですね。札幌はボランチが最終ラインに落ちると、どうしても(枚数的に)つかまえ切れない。そこで(ボランチの)自分が前に出るのはリスクがあったし。やっぱり(システム的に)ボール回しのところはよくできているんだな、と。(ポジションに)ステイしてブロックを作る形にしました」(FC東京・MF橋本拳人)

 4-4-2という布陣のFC東京は、プレッシングによるショートカウンターをほぼ捨てていた。FW、MF、DFが3列のラインを作り、リトリート。相手の攻撃を受け止めつつ、ロングカウンターを狙う形に切り替えた。

「我々は後ろからビルドアップするのがスタイル。当然、失えばカウンターを喰らう。そこで(FC東京戦の前の)トレーニングから、失った後の切り替えの速さを徹底した」(札幌・ペトロヴィッチ監督)

 ボールプレーにこだわった札幌は長短のパスを織り交ぜ、有機的に攻めている。3-4-2-1でウィングバック、センターバック、シャドーが絡み、サイドで数的優位を作り、押し気味に展開。さらに自陣近くから1本の長いボールで、高さ強さで群を抜くジェイ、都倉賢に合わせ、FC東京ディフェンスを消耗させる。ハンドでゴールは取り消されたが、バーに当たったボールを都倉がヘディングで体ごと押し込んだシーンは、前半のハイライトだった。

 一方、FC東京も2トップがバックラインに差し込むことで、盛り返す。2トップが相手のラインを下げ、生まれたスペースへ、サイドから大森晃太郎、室屋成が侵入。いくつかチャンスを演出している。

「相手が2トップの速さを警戒していた。(その分)2トップには大きなチャンスはあまりなかったかもしれないが、彼らの推進力を利用し、ゴールに迫るシーンも作っている」(FC東京・長谷川健太監督)

 FC東京は、落ち着いた戦いで札幌にペースを握らせなかった。後半も堅固な守備を敷き、急襲の機会をうかがう。

 そして後半9分だ。札幌に自陣内まで攻め込まれながら、じっくり間合いを詰め、少し慌ててボールを入れようとした相手のパスを橋本拳人がカット。これを素早くつなぎ、トップに入ったボールを永井がフリックで流すと、猛然と駆け上がってきた室屋成がドリブルで持ち込む。GKにシュートは阻まれたものの、見事なロングカウンターだった。

「札幌は最後のところでやらせない、という守備をしていて……。カウンターのシーンは、謙佑君にボールが入ったときにスペースが空いていたので、そこに駆け上がったらパスが出てきた。(左から相手が来ていたので)右にコントロールできていればよかったですけど」(FC東京・DF室屋成)

 終盤はオープンな展開になっている。FC東京は橋本が少々強引にボールを前に運び、こぼれ球をさらに進め、左サイドに回った東慶悟が持ち込むと、マイナス気味に折り返した。これに永井が合わせたが、枠を捉えることはできなかった。

 勝ちパターンを逃したとも言えるが、一方、アディショナルタイムには、札幌の都倉に続けてクロスを合わせられ、際どいヘディングシュートを浴びている。負けてもおかしくはなかった。

「上(首位のサンフレッチェ広島)とは少し離れましたが、シーズンはまだまだ長いので」 (FC東京・MF高萩洋次郎)

 FC東京は勝ち点3を逃したが、勝ち点1をしっかり積み上げた、とも言える。ひとつ間違いないのは、零封したその守備はソリッドだった、という点だろう。ジェイ、都倉のパワーに手を焼く場面はあったが、各自がポジションを取ることで波状攻撃を許さず、攻撃力のある相手を勢いに乗らせなかった。守りの堅牢さに磨きがかかったことで、GK林彰洋のビッグセーブも生まれている。

 それぞれの選手がしっかりポジションを取り、球際で負けない。そこで得た守備の自信が、攻撃を好転させ、FC東京を支えている。かつてのチームのように、派手な謳い文句はないし、戦術そのものに怖さがあるわけではない。試合の中で柔軟に守りの陣形を変え、攻撃を焦らず、鋭く急所を狙う。実務的なチームになった。

「負けにくさ」

 その点でFC東京のサッカーの質は確実に向上している。勝利を重ねることで、それは本物のスタイルとなるだろう。