NBAプレーオフ2018 カンファレンス・ファイナル展望 イースタンは第1シードを破ったクリーブランド・キャバリアーズと第2シードのボストン・セルティックス、ウェスタンはヒューストン・ロケッツとゴールデンステート・ウォリアーズの2強がカ…

NBAプレーオフ2018 カンファレンス・ファイナル展望

 イースタンは第1シードを破ったクリーブランド・キャバリアーズと第2シードのボストン・セルティックス、ウェスタンはヒューストン・ロケッツとゴールデンステート・ウォリアーズの2強がカンファレンス・ファイナルへと進出した。ライバル対決を制し、NBAファイナルに駒を進める2チームは?



圧倒的な存在感でキャブスを牽引するレブロン・ジェームズ

ボストン・セルティックス(53勝27敗/2位)
vs.
クリーブランド・キャバリアーズ(50勝32敗/4位)

 神話継続か? それとも歴史は繰り返すのか?

 こんなデータがある。キャブスにとっては4年連続のカンファレンス・ファイナル進出だが、マイアミ・ヒート時代から数えればレブロン・ジェームズ(SF)は今年で8年連続カンファレンス・ファイナルに進出。さらにレブロンが率いるチームは、過去7年連続でNBAファイナルへ進出している。つまり、2011年以降、レブロンは一度たりともカンファレンス・ファイナルで負けていない。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 もちろん、レブロンにとって今季は、8年のなかでも群を抜いて苦しいシーズンだったはずだ。

 レギュラーシーズン中にロスターが大きく入れ替わり、チームの調子は下降線をたどり、第4シードまで順位を落としてプレーオフに突入。インディアナ・ペイサーズ(48勝34敗/5位)とのファーストラウンドは4勝3敗でギリギリ勝ち抜くも、第7戦で両軍最長の43分間コートに立ち続けたレブロンは、試合後に「燃え尽きた。今はカンファレンス・セミファイナルについては考えられない。疲れているんだ。家に帰りたい」と珍しく弱音も吐いた。

 しかし、瀕死に思われたキャブスは、もう一段上のギアを隠し持っていた。苦戦必至と思われていた第1シードのトロント・ラプターズ(59勝23敗)を圧倒し、スウィープ(4連勝)で退ける。

 シリーズの行方を決定づけたのは、第3戦のレブロンのブザービーターだろう。103−103の同点で迎えたゲーム残り8秒、レブロンは左サイドからアタック。必死のマークにあってゴールに正対できず踏み切ったフローター(シュート)をバックボードに当ててねじ込んだ。会場は異様な興奮に包まれたが、観戦していたレブロンの息子は、このミラクルなシュートに顔色ひとつ変えず、こう言った。

「It’s normal(普通のことさ)」

 そのシーンを見た「レジェンド」コービー・ブライアントは、「レブロンを絶対に左に行かせてはいけない。俺がマッチアップするなら、まず左に行かせないようにする」とコメントした。しかし、それができるプレーヤーがセルティックスにいるのか……。

 セルティックスのスターティングラインナップのなかにカイリー・アービング(PG)とゴードン・ヘイワード(SF)の2選手、いや、せめてどちらかひとりの名前があれば、と思えてならない。キャブスのケビン・ラブ(PF)、J・R・スミス(SG)といったベテランがプレーオフに入って尻上がりに調子を上げているのを見ても、やはりプレーオフは経験が大きくモノをいうのは間違いないからだ。

 現在のセルティックスを牽引するのは、ルーキーのジェイソン・テイタム(SF)、3年目のテリー・ロジアー(PG)、2年目のジェイレン・ブラウン(SG)といった若手プレーヤーたちだ。41歳と自身も若いブラッド・スティーブンス・ヘッドコーチ(HC)は、「若さを言い訳にするな」と選手を鼓舞する。

 それでも、昨季のカンファレンス・ファイナルでは4勝1敗でキャブスが勝利しているように、両チームともロスターの多くが変わったといえ、キャブス有利は揺るがないだろう。

 ただ、6度の優勝経験を持つスコッティ・ピッペンは、「セルティックスがキャブスを倒せると思っている。彼らはプレーオフに入り、大きな自信を持ってプレーしている。若いプレーヤーたちがステップアップし、リーダーシップも発揮している。レブロンには、テイタムがすばらしいマッチアップ相手になるだろう」とコメントしている。

 歴史を紐解けば、カンファレンス・セミファイナルの対戦ではあるが、2008年・2010年とレブロン率いるキャブスをプレーオフで葬ったのはセルティックスだった。さらにいえば、2010年の敗退後、FAになったレブロンはヒートへ移籍している。ちょうど今夏、レブロンがFAとなるのとも重なる。いつの時代も歴史を変えるのは、勢いに乗った恐れを知らない若者たちなのかもしれない。

 歴史は繰り返されるのか、それともレブロンのカンファレンス・ファイナル不敗神話が継続するのか――。まずは、勝敗を大きく左右するレブロンとテイタムのマッチアップを凝視したい。

ヒューストン・ロケッツ(65勝17敗/1位)
vs.
ゴールデンステート・ウォリアーズ(58勝24敗/2位)

 これが”事実上のファイナル”と思っているファンも多いだろう。

 キャブスとセルティックス、東からどちらが勝ち上がるにしろ、西の覇者となったチームの引き立て役に終わる可能性がかなり高いと言わざるを得ない。

 今季リーグ最多の65勝を記録したロケッツ。対する昨年の覇者ウォリアーズは58勝止まりで水をあけられたかっこうだが、レギュラーシーズン82試合中、エースのステファン・カリー(PG)は51試合しか出場しておらず、数字ほどチーム力に差があるようには思えない。プレーオフに入り、両チームともに1回戦のファーストラウンド、2回戦のカンファレンス・セミファイナルを4勝1敗で勝ち上がり好調を維持。このシリーズの勝敗予想は困難を極める。

 この2強の対決に、リーグ関係者も熱い視線を送っているはず。ロケッツのジェームズ・ハーデン(SG)とクリント・カペラ(C)によるピック&ロールから始まるオフェンスを止められるチームは、シーズンを通して現れなかった。ハーデンのドライブを止めようとすれば、カペラにアリウープパスを通され、それを阻止しようとディフェンスを内に絞れば、外で待ち受けるエリック・ゴードン(SG)やトレバー・アリーザ(SF)らのスリーポイント(3P)の餌食になる。

 同じく、カリー、クレイ・トンプソン(SG)、ケビン・デュラント(SF)といったリーグ屈指のシュート力を誇る3選手のウォリアーズ・オフェンスを1試合通して守り抜くことも不可能に近い。昨年のNBAファイナルでキャブスを圧倒したように、3人のうちひとりでも好調な選手がいれば、手がつけられない破壊力を持つ。ウォリアーズのオフェンスも今季、止められるチームは現れていないのだ。

「ロケッツに勝つには?」「ウォリアーズに勝つには?」。多くのHCを悩ました問題の回答のひとつが、このカンファレンス・ファイナルで発表されることになる。

 また、チームの勝敗だけでなく、個の戦いにも注目したい。

 必見のマッチアップは、クリス・ポールとカリーのPG頂上決戦だ。ゲームをコントロールしてアシスト能力に長けた伝統的PGのポールと、長距離砲を得意としてバスケットを新たなステージに引き上げた感のある近代的PGのカリー。どちらのPGがチームを勝利に導くかは必見である。

 さらに、今季の得点王ハーデンとディフェンスの得意なトンプソンのマッチアップも目が離せない。

 少し気がかりなのは、ユタ・ジャズ(48勝34敗/5位)のディフェンスがよかったとはいえ、カンファレンス・セミファイナルのハーデンの得点が1試合目から41得点、32得点、25得点、24得点、18得点と試合を追うごとに減少している点か。

 特に3Pの成功率の低さが気になる。第1試合こそ12本中7本と高確率で決めたが、第2〜5試合ではすべて3P成功率が25.0%以下。第4〜5試合にいたっては、ともに7本中1本しか成功せず、成功率14.3%でしかない。ハーデンの調子が崩れれば、ロケッツのオフェンスそのものが崩壊する。ハーデンの3P成功率にはシリーズを通して注目したい。

 レギュラーシーズンでの直接対決はロケッツの2勝1敗。ホームコートアドバンテージもロケッツが持っているため、ロケッツが若干の有利かとも思える。だが、どちらかが圧倒する可能性も、第7戦までもつれる可能性も、いずれも十分にあり、この2チームの対決の勝敗予想はどこまでもいっても机上の空論でしかない。予想に時間を割くよりも、純粋に世紀の一戦を堪能したほうがいいだろう。

 ドレイモンド・グリーン(ウォリアーズ/PF)もこう言っている。

「ロケッツは、俺たちを倒すためだけに結成されたチームといっていいだろう。優勝するには、それが最短距離だ。ただ俺たちは、立ちはだかる相手がどこであろうと意識などしない。ただ、こう思うだけ。『さあ、始めよう』と」

 カンファレンス・ファイナルが、いよいよ幕をあける。