シーズン5戦目にしてF1の舞台はスペインへと移り、ヨーロッパラウンドへと突入する。各チームにとってはイギリスやヨーロッパに置く本拠地から近く、すべての機材がトランスポーターで陸送される。箸を器用に使って食事をするブレンドン・ハートレイ…

 シーズン5戦目にしてF1の舞台はスペインへと移り、ヨーロッパラウンドへと突入する。各チームにとってはイギリスやヨーロッパに置く本拠地から近く、すべての機材がトランスポーターで陸送される。



箸を器用に使って食事をするブレンドン・ハートレイ

 そこで登場するのが、モーターホームだ。各チームがパドックに仮設の建造物を並べ、チームスタッフやゲストが集う憩いの場とする。昨今の経済状況を鑑みてどのチームも新たな投資はしていないが、それでも2階建てや3階建ては当たり前で、エアコン完備の室内にはドライバーたちのプライベートルームも用意され、ゲストには豪華な食事も振る舞われる。

 そんななかで、ホンダは2018年に新たなモーターホームを持ち込んできた。世界各地で戦うホンダのスタッフたちに憩いと日本の味を提供したいというホスピタリティ精神はこれまでと変わらないが、昨年紹介した従来型と比べて何が違うのか、その内部をご紹介しよう。



2台の2階建てトレーラーを組み合わせたホンダの新モーターホーム

 もともとホンダは今季2チーム供給を想定していたため、スタッフの増加に備えてより大きな空間を持つモーターホーム導入の必要に迫られていた。ザウバーやマクラーレンとの関係は白紙となってしまったが、その時点ですでに旧型は売却済みだったため、先々のことも考えてすでに準備を進めていた新型を2018年に投入することになったのだ。

 ホンダのモーターホーム運営を担当するデイブ・フリーマンはこう説明する。

「我々は2チーム供給に向けてモーターホームの拡大準備を進めていました。2台の2階建てトレーラーを組み合わせて2階部分に広い空間を作り、人数の増加に対応できるようにしたんです。結局、今年は1チームだけになってしまいましたが、先々のことを考えれば今投入したのもいい決断だったと思います」

 2台の2階建てトレーラーを並べ、中央から階段を上がって2階のダイニングエリアへ。食事用のテーブルとカウンターがズラリと並び、従来と比べると格段にゆったりとくつろぐことができるようになった。



豪華な寿司はホンダのモーターホームの名物だ

 食事時のカウンターには寿司や刺身、天ぷら、焼き魚、焼肉、そばやうどんなど日本人が好きな和食がバラエティ豊かに並ぶ。味噌汁もあさりなどでしっかりと出汁をとった本格派だ。

 もともと和食が好きだったというトロロッソ・ホンダのブレンドン・ハートレイは開幕戦からホンダのホスピタリティで昼食・夕食を摂り、刺身や鰻の蒲焼き、決勝後はホンダ名物のカツカレーも食べている。ピエール・ガスリーも「すごく素敵なモーターホームだし、これから食べにいくよ」と興味津々。イギリス在住でFIA F2に参戦する牧野任祐(まきの・ただすけ)と福住仁嶺(ふくずみ・にれい)もレース週末は和食に舌鼓を打っている。

「これまではアラカルトで食事を提供していましたが、これからスタッフの数が増えることも想定して今年からはビュッフェ方式で料理を提供することにしました。そうすれば好きなものを好きなだけ食べられますし、忙しいときでもさっと食べることができますからね」(フリーマン)



ビュッフェ方式でバラエティ豊かな和食が勢ぞろい

 その一方で多忙を極めるスタッフのためには、金曜から日曜まで和食のお弁当を用意。さらに、マクラーレンでも好評だったようにトロロッソのスタッフ用にもお弁当を提供する。冷蔵庫には日本のビールやラムネ、お茶などが並び、憩いを提供している。もちろん、レッドブルもしっかりと用意されている。

 1階には手前に首脳陣用のオフィスと会議室、広報&マーケティング用のオフィス、トイレ(ウォシュレット付き!)が入り、奥にはキッチンを内蔵している。

 この新型モーターホームの設計にあたって重視したのは、空間の快適さと、設営のスムーズさだとフリーマンはいう。

「このモーターホームを設計するにあたっては、過去の失敗と教訓を生かして、少人数の我々でもスムーズな設営・解体が可能なことを重視しました。2連戦や3連戦のときは、移動と設営の時間がほとんどありませんから」



スタッフが快適に過ごせるように、ゆったりとしたソファも完備

 多くのモーターホームは、2階建てトレーラーにフレームやパネルを組み合わせることで巨大な建造物を構築している。マクラーレンの場合は中央に壮大な吹き抜けがあり開放感もあるが、設営と解体にはそれぞれ3日間を要する。

 ホンダの場合はスタッフ数も限られているため、こうした作業の負担を軽減しつつ、快適な居住空間を確保することが求められた。

「このモーターホームは、2台の2階建てトレーラーと、機材を運ぶサポートトラックの計3台で運用しています。2階建て部分はすべて自動で昇降するようになっていて、テーブルやビュッフェカウンターなどもすべて自動で収納されます。トレーラーの側面部分はそのままシャッターが閉じて荷室の壁面になり、走り出すことができるんです。

 ケータハムでも似たようなモーターホームを使いましたが、あのときは屋根がソフトトップだったので設営が大変でした。ですが、今回はハードトップにして自動収納できるようにしました。パドックには設営に3日もかかるモーターホームもありますが、このモーターホームは6時間程度で設営・解体ができてしまうんです。我々のような少人数で運営するモーターホームにとっては、これはとても重要なことです」



6時間ほどで設営・解体ができる革新的なモーターホームだ

 ホンダのスタッフやゲストにこれまで以上に快適な空間を提供し、さらに運営するスタッフの負担も軽減した。ホンダの2018年型モーターホームは、実用性と効率をとことん突き詰めた革新的なモーターホームだ。

 モーターホームとはそもそも、そこで働くスタッフたちにとっての”サーキットでの自宅”であり、パドックのF1関係者やゲストたちが集って交流する社交の場でもある。この新型モーターホームの投入によってこれまで以上に快適でスムーズな交流の場が運用されるとなれば、より多くのF1関係者が集まってホンダとの交流が深まり、F1のパドックにおけるホンダの”村の住人”としての存在感を高めてくれるはずだ。