【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(3) 今シーズン、チームクニミツ(RAYBRIG NSX-GT/ナンバー100)からスーパーGTにフル参戦している元F1王者のジェンソン・バトン。開幕戦の岡山では山本尚貴との二人三脚で2位…

【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(3)

 今シーズン、チームクニミツ(RAYBRIG NSX-GT/ナンバー100)からスーパーGTにフル参戦している元F1王者のジェンソン・バトン。開幕戦の岡山では山本尚貴との二人三脚で2位表彰台を獲得し、幸先のいいスタートを切った。

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思うようなレースができずに険しい表情のジェンソン・バトン

 これまでF1で17シーズンを戦ってきたバトンにとって、スーパーGTのようなツーリングカーのレースは未知なるものだ。ところが、スポット参戦した昨年第6戦の鈴鹿1000kmに続き、わずか2戦目で”超激戦”といわれるGT500クラスの表彰台を勝ち取ったのだから、レース後の反響も大きかった。

 バトンも開幕戦での好結果に勢いがついたようで、4月中旬に行なわれた鈴鹿サーキットでの公式テストでは2日連続でトップタイムをマーク。まさに”上り調子”という雰囲気だった。

 そんななかで迎えた第2戦の富士500kmレース。「バトンのスーパーGT初優勝も近いのではないか?」。パドックでは早くもそんな声が多く聞かれた。だが、そんな簡単に結果を出せるほど甘くないのがスーパーGTの世界。バトンにとって厳しさを痛感する第2戦となった。

 スーパーGTでは、前戦までに獲得した選手権ポイント数に応じてマシンに重りを積むことが義務づけられる「ウェイトハンデシステム」というものがある。このルールによって、どんなに速いマシンに乗っていてもシーズンを通してひとり勝ちすることは難しくなり、最終戦までチャンピオン争いがもつれ込む白熱した展開が多くなるのだ。

 開幕戦の岡山で2位に入った100号車の山本/バトン組は15ポイントを獲得。1ポイントあたり2kgのウェイトハンデが課せられるため、第2戦は30kgの重りを積んで臨まなければならない。レーシングカーというのは非常に繊細で、重量がわずか数kg変わるだけでも、マシンの挙動はたちまち激変してしまう。

 スーパーGTで戦う経験豊かなドライバーたちは積み重なっていくウェイトハンデの影響を最小限にするため、それに即したドライビングで対応していく。だが、フル参戦1年目のバトンにとっては、その対応も初体験。結果、本来のパフォーマンスが発揮できず苦しむことになった。

 第2戦は山本がスタートドライバーを務め、レース序盤で10番手スタートから6番手に浮上。36周を終えたところでピットインし、バトンへと交代する。ところが、30kgのウェイトハンデに対するコツを掴み切れていないバトンは、GT300との混走のなかでペースを上げることができなくなった。

 ピットアウト直後に野尻智紀(ARTA NSX-GT/ナンバー8)に先行を許すと、43周目には昨年チャンピオンのニック・キャシディ(KeePer TOM’S LC500/ナンバー1)、50周目には佐々木大樹(カルソニック IMPUL GT-R/ナンバー12)、そして67周目には中嶋大祐(MOTUL MUGEN NSX-GT/ナンバー16)と次々に追い抜かれ、気がつけば10番手まで後退。73周を終えたところで2回目のピットインをし、順位を大きく落として山本に交代することになってしまった。

 結局、100号車は9位でフィニッシュ。ウェイトハンデに不慣れだったとはいえ、バトンにとっては納得できるレースであるはずがなかった。

「タフなレースだった。ナオキ(山本尚貴)はすばらしい仕事をしてくれたけど、僕のスティントでポジションをいくつか落としてしまった。このサーキットは第3セクターでウェイトの影響が出て、少ないグリップで方向を変えていくことになるから、重心の移動がさらに激しくなる。30kgだよ! 言葉で聞くだけだと実感がないけど、実際にウェイトを積むとすごく影響があった」

 チームメイトの山本とのペースを比較しても、その差が大きかったのは歴然だった。バトンのべストラップが1分32秒025だったのに対し、山本は1分30秒540。これを見れば、GT500に慣れるためにバトンがクリアにしなければならない課題は少なくないことがわかる。

 ただ、9位という順位に終わったものの、ドライバーズランキングはトップから9ポイント差の3位。次回の第3戦・鈴鹿に対して、バトンは自信を持っている。4月の鈴鹿公式テストで好タイムをマークし、なおかつ日本のコースのなかで一番知り尽くしているサーキットだからだ。バトンが言う。

「この状況のなかでもポイントをしっかりと獲得することができた。これを続けていくことが(チャンピオン獲得のためには)重要だ。ポジティブなことは、僕たちと同じように(第2戦・富士で)ウェイトを多く積んでいた他のマシンも苦戦したこと。鈴鹿では上位陣のウェイトがほとんど同じになる。次回はもっとよくなるはずだ」

 今回は苦戦を強いられたバトンだったが、これも経験と捉え、次戦では自身の力に変えてくることだろう。本人も楽しみにしている鈴鹿サーキットでの第3戦は5月19日~20日。白熱したレースとなりそうだ。